第30話 作戦会議

 薄暗い室内に蝋燭の揺れる明かりが影を落とし、重々しい空気が漂っていた。アッシュは背筋を伸ばし、元老院の指揮官たちの話に耳を傾けていた。彼らの顔には戦いの疲れと、これからの戦いへの決意が滲んでいた。


「今回の作戦は…」低い声で、一人の指揮官が口を開く。彼は精巧に描かれた地図の上に指を滑らせ、森の一帯をなぞった。「最短距離で街を解放するため、森を横断する形になる。」


 彼の指先が地図上で森を貫いていくのを、アッシュは凝視していた。地図上では単なる線に過ぎないが、現実の森は深く暗く、魔物が潜む危険な場所だ。それを理解しているからこそ、アッシュは無言で頷いた。指揮官の言葉には理がある。無駄な時間をかける余裕はない。だが、それは容易な決断ではない。


「街に到達するまでの道のりは厳しいが、このルートが最善だ。」指揮官はアッシュの目を真っ直ぐに見つめた。その目には、勝利への固い意志が宿っている。


 アッシュは彼の言葉を受け止めながらも、心の中でリスクを天秤にかけていた。森の奥深くには、未知の魔物や罠が待ち受けているかもしれない。そのリスクを軽減できるのは、アッシュが持つ召喚の力しかない。雑魚兵がその役割を果たすだろうが、それだけで十分だろうか。


「もう一つ、重要なことがあります。」別の指揮官が口を開いた。彼は慎重に言葉を選びながら続けた。「魔石の補充が必要です。村周辺で使った魔石を補充し、さらに進軍するためには、ここでの補給が不可欠です。」


 その言葉にアッシュは眉をひそめた。魔石はこの戦いで欠かせない資源だ。それがなければ、帝国との戦いで優位に立つことは難しい。


「君の召喚兵なら、魔物の動きを先に察知し、奇襲を受けにくくすることができるだろう。」指揮官の言葉は、まるで彼に期待を押し付けるかのように重く響いた。


 アッシュは再び頷いたが、その内心には不安が渦巻いていた。彼は確かに力を持っているが、それが村を守りきるために十分かどうか、確信はなかった。しかし、今はその力に頼るしかない。


「理解しました。」アッシュは冷静な声で答えたが、その声の裏には決意と不安が入り混じっていた。「村を守り、街を解放するために、できる限りのことをします。」


 アッシュは再び頷き、作戦の意図を理解した。しかし、彼の心には一抹の不安が残っていた。


 アッシュは深く息を吐き出しながら、慎重に質問を投げかけた。「だが、村の安全はどうする?もし、我々が前線を離れた隙に、帝国軍や魔物が攻撃してきたら…この村はどうなる?」


 一瞬の静寂が訪れた後、元老院の指揮官は冷静に答えた。「その点も考慮している。村には一部隊を残し、防御を強化するつもりだ。そして非戦闘民は、後方の村へ避難させる。彼らが安全に避難できるよう、すでに準備は進めている。」


 アッシュはその答えに安堵したものの、完全に安心することはできなかった。彼は村人たちの顔を思い浮かべ、彼らの命を守る責任を重く感じていた。


「わかった。その計画で進めよう。」アッシュは意を決して答えた。


 元老院の指揮官たちは再び頷き、具体的な戦術についての話し合いを続けた。彼らの声は低く、確固たる決意が感じられるものであった。これから待ち受ける戦いがどれほど過酷であるか、アッシュは改めて覚悟を固めた。


あとがき

応援、レビュー以外のコメント(修正案、酷評など)はxにいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る