第31話 口論
薄暗い倉庫の中、アッシュ、カナ、エリック、そして元老院の数名が、食料と戦闘物資が積み上げられたテーブルを囲んでいた。倉庫には村で収集された食料や武器が所狭しと並んでおり、その数は決して十分とは言えなかった。
「この分配じゃ、村に残る戦闘員たちが持たない!」アッシュの声が、倉庫の冷えた空気を切り裂いた。
元老院のリーダー格の男、フィンが冷静な声で答える。「アッシュ、理解してくれ。我々もまた街を解放するためにこの戦いを続けているのだ。我々の部隊にも最低限の物資が必要だ。」
アッシュはフィンの言葉に食い下がった。「それはわかる。しかし、村を守る者たちが弱体化すれば、ここが突破される危険がある。街を取り戻しても、背後を突かれたら意味がないだろう。」
「だが、物資は限られている。全てを村に割り振ることはできない。」フィンは険しい顔で、アッシュを睨んだ。彼の言葉には、元老院としての決定を覆す意思はないことがにじみ出ていた。
カナが一歩前に出て、冷静な声で割って入った。「待って、互いに消耗するだけの口論はやめましょう。私たちは共に戦う仲間です。ここは何か解決策を見つけるべきです。」
その言葉に、場の緊張が一瞬和らいだように見えた。しかし、アッシュの心にはまだ納得がいかない思いが残っていた。
エリックも続けて口を開いた。「元老院が街の解放を目指すのは理解できる。しかし、村を守ることもまた重要だ。村を失えば、我々の退路は断たれる。それに、村は補給線としても機能している。」
フィンはしばらくの間沈黙し、物資の山を見つめた。やがて、重い息を吐いてから口を開いた。「…確かに、村を守ることも必要だ。我々もその点を見落としていた。だが、何かを削らなければならない。」
アッシュはフィンの言葉を受け入れる気にはなれなかったが、ここでの対立が無駄であることも理解していた。彼は静かに頷き、村に残る戦闘員への分配を増やすよう提案した。
「村に残る者たちにもう少し割り当てを増やせば、それだけ防御力も上がる。それが、最終的に我々全員のためになるはずだ。」アッシュの言葉には、冷静さと確固たる意志が込められていた。
フィンは再び黙り込んだが、他の元老院のメンバーたちと視線を交わし、ゆっくりと頷いた。「…わかった。その提案に従おう。しかし、物資の限界もある。我々もまた、生き残るための戦いをしていることを忘れないでほしい。」
アッシュはその言葉を胸に刻みながら、これ以上の対立を避けるために歩み寄った。口論は終わりを迎え、物資の再分配が決定されたが、心の中ではまだ緊張が残っていた。
あとがき
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