第27話 魔法攻撃の裏側

 曇天の空が重く、村全体に不吉な影を落としていた。アッシュは目を細め、戦況を冷静に見極めていた。帝国軍の進軍は確実に迫っており、彼らの軍勢が一斉に動き出す兆しがあった。


「カナ、準備はできているか?」アッシュが静かに尋ねた。彼の声には焦りはなく、むしろ静かな決意が感じられた。


 カナは黙って頷き、手の中に握りしめた二つの魔石を見つめた。一つはオーガの魔石で、闇と力を宿す漆黒の輝きを放っていた。もう一つはグリズリーの魔石、これは大地と防御を象徴する重厚なエネルギーが宿っている。彼女は両手を広げ、魔石から放たれる魔力を呼び起こした。


 瞬間、村の防衛ラインが一瞬光を放ち、続いてその光が静かに揺らめく幻影へと変わった。カナの幻影魔法が、防衛ラインを現実以上に堅固で整然と見せかける。実際の防衛ラインの構造が、まるで鏡のように反射され、さらにその上から幻想的な輝きが加わることで、帝国軍には一層難攻不落な要塞に見えるはずだ。


「魔力は保っているが、長くは持たないわ。」カナが息を整えながら言った。


 アッシュは頷き、目を閉じて深呼吸をした。「よし、全員準備しろ。奴らが動き出す。」


 まさにその時、遠くから響く鈍い音が空気を震わせた。アッシュが目を開くと、帝国軍の陣地に異様な光が瞬いているのが見えた。それは、空を割るかのように広がり、地平線を覆い尽くしていく。帝国軍が魔法を発動したのだ。


「全員伏せろ!」アッシュの叫びが瞬時に村中に響き渡り、村人たちや雑魚兵が一斉に防衛ラインの影に身を潜めた。次の瞬間、轟音と共に巨大な魔力の波が村の前線を襲った。


 大地が揺れ、砂埃が舞い上がり、視界が完全に奪われた。空気が震え、耳を劈く音が辺りに鳴り響く中、アッシュは歯を食いしばってその場に踏みとどまった。カナの魔法がどこまで防げるか、そして彼らの防衛ラインが持ちこたえられるか、それはまさに神頼みの瞬間だった。


 やがて、徐々に砂埃が晴れ始め、視界が戻り始める。アッシュは警戒心をさらに強め、周囲を見渡した。そこにはまだ、防衛ラインがしっかりと残っていた。カナの幻影魔法が見事に機能し、実際の損傷を最小限に抑えたのだ。


 帝国軍は完全に動揺していた。彼らは自身の魔法攻撃が通用しなかったことに戸惑い、焦燥感に包まれているのが見て取れた。その様子を見て、アッシュは静かに微笑んだ。


「今だ。」彼は小声で言うと、再び目を鋭くした。「全員、突撃せよ!」


 その言葉が発せられるや否や、アッシュを先頭に、村人と雑魚兵たちは一斉に駆け出した。彼らは一糸乱れぬ隊列を組み、勢いよく帝国軍の横から突撃を開始した。地面を蹴り上げ、戦の叫びが夜空に響き渡る中、アッシュの目は勝利を確信して輝いていた。


あとがき

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