第26話 帝国軍の魔法攻撃

 帝国軍の陣地で、指揮官は村の防衛が整っていることに不満げに眉をひそめた。予想以上の準備と、カナの幻影魔法によって、村はまるで強固な要塞のように見えていた。


「ここまでとは…。」指揮官は苛立ちを隠せず、隣に控えている副官に目を向けた。「これ以上、無駄な消耗は避けたい。魔法を使う。」


 副官は一瞬ためらったが、すぐに首を縦に振り、隊の魔法使いに合図を送った。魔法使いはゆっくりと前に進み出て、大きな魔石を手に取り、それを空中に掲げた。魔石はまばゆい光を放ち始め、周囲の砂塵が静かに巻き上がる。風が強まり、魔力が渦を巻き、空気が重くなる。


「全てを飲み込め…」魔法使いが低く呪文を唱え始めると、魔石がさらに輝きを増し、周囲に雷光が走った。次の瞬間、巨大な土砂の津波が一気に村の防衛ラインへと押し寄せた。地面が揺れ、砂埃が舞い上がり、視界が完全に遮られる。


 しばらくの間、ただ重々しい風の音と、砂の粒がぶつかり合う音だけが響き渡っていた。そして、砂埃が次第に静まり、視界が回復する。


 しかし、帝国軍の兵士たちが目にしたのは、驚くべき光景だった。彼らが確実に破壊したはずの防衛ラインが、なおも堂々とその場に残っていた。村はほとんど損害を受けていないように見えた。


「どういうことだ?」指揮官が信じられないように呟いた。


 その時、帝国軍の横から、一列になった村人たちが突撃を開始した。アッシュを先頭に、エリック、カナ、そして彼の召喚した雑魚兵が、鋭く突進してくる。村人たちもその勢いに続き、全力で帝国軍に立ち向かっていった。


「迎え撃て!」指揮官が叫んだが、その声は戦場の喧騒にかき消された。帝国軍は混乱しながらも応戦するが、アッシュたちの勢いに圧倒され、次第に押し返されていく。


 アッシュたちが突撃を開始すると、村人と雑魚兵が一列に並び、堅固なファランクスの陣形を形成した。盾を前に、槍が整然と突き出され、その陣形はまるで一つの巨大な壁のように見えた。帝国軍の兵士たちは一瞬ひるみ、混乱の中で指揮を失ったかのように動きが鈍くなった。


「突撃だ!」アッシュの声が村全体に響き渡る。彼の指示で、ファランクスは整然と前進し、帝国軍に肉薄した。


 帝国軍は慌てて迎撃に転じるが、ファランクスの強固な陣形に阻まれ、攻撃が無力化されてしまう。敵の剣や槍がファランクスに突き立てられても、堅い盾がそれを跳ね返し、村人たちは動揺することなく前進を続ける。反対に、帝国軍の兵士たちは次第に焦りと恐怖に包まれていく。


「な、なんだこの陣形は…」帝国兵の一人が叫ぶ。しかし、誰もその弱点に気づくことはなかった。混乱に陥った帝国軍は、次第にその統制を失い、ばらばらになっていく。


 アッシュは状況を見極めつつ、わずかな隙間さえも許さないように、突破された箇所を即座に雑魚兵で補充していく。その動きは素早く的確で、まるで何度も練習されたかのようにスムーズだった。


「奴らが突破された場所をすぐに埋めている…!」帝国軍の指揮官がその光景を見て、恐怖に駆られながらも必死に指揮を取ろうとする。しかし、その声は混乱する戦場の喧騒にかき消され、兵士たちには届かなかった。


 ファランクスの前進は止まらない。帝国軍は次々と押し返され、ついに突破口が開かれる。しかし、その突破口を見つける間もなく、アッシュは瞬時に雑魚兵を召喚し、その穴を埋めた。帝国軍の兵士たちは、その無尽蔵の補充に対抗する手段を見つけられず、士気を失っていく。


「退け、退け!」指揮官の命令に従う者もいれば、恐怖にかられて勝手に退却する兵士も出始めた。脱走兵が次々と現れ、戦場はさらに混乱に陥る。帝国軍の隊列は崩壊寸前であった。


 それでも、アッシュは冷静に戦況を見守り、確実に勝利へと導いていく。ついに、ファランクスは帝国軍の中心部へと到達し、指揮官がいる場所へと迫った。指揮官は最後まで抵抗を試みたが、もはや無駄だった。彼の周りにはわずかな護衛しか残っておらず、アッシュの兵たちは無情にもその一団を包囲した。


「降伏しろ。」アッシュが静かに告げる。その声には一切の容赦が感じられなかった。


 指揮官は一瞬の迷いを見せたが、もはや逃げ場はなかった。彼は剣を地面に落とし、膝をついた。「…わかった、降伏する。」


 こうして、村の防衛戦は決定的な勝利に終わった。指揮官が捕えられ、残った帝国兵たちは戦意を失い、次々と武器を放棄して降伏した。村の防衛は完全に成功し、アッシュと村人たちはその場に静かな勝利の余韻を残しながら、息をついた。


あとがき

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