体育会系女子がアクションゲームの世界に異世界転生したら、思いがけず堅物王太子を誘惑してしまったようで乙女ゲーム的な展開が待っていました

Tubling@書籍化&コミカライズ決定

第1話転生先はアクションゲームの世界だった件



 ――ズキン――ズキン――――――頭が割れるように痛い――――――



 ――どうしてこんなに痛いの――


 ――こんなところで寝ている場合ではないのに――


 ――だって今日は――――――


 だんだんと意識が暗闇から光のある方へのぼっていく。


 その間も頭痛は止むことはなく、この痛みが夢か現実か分からずにとにかくこの痛みから解放されたいと願っていると、目の前にパアァァと光が広がってハッと目を見開いた。


 するとそこには、今までの人生で見たことのない景色が広がっている。



 「え……何?この部屋……………………」

 


 目が覚めて最初に飛び込んできた景色は、まるで中世ヨーロッパに入り込んだような部屋だった。

 

 さっきまでうなされていたのか、額には汗が滲んでいる。



 「ここは日本、じゃない……?」

 


 ベッドに寝ながら呟いたひと言は、静まり返っている部屋に虚しく響いただけだった。

 

 私は大学でバレーボール部に所属していて、今日は春季リーグがある大事な日。


 そして、そんな日に限って寝坊したものだから焦って走って試合会場へ向かったはず……会場近くの横断歩道を渡れば着くと思ったところでトラックが………………こちらに向かってきたところまでは覚えている。

 

 その後は?

 

 まさか私、あのトラックにはねられて、死んだの?



 「うそ…………そんなの信じない…………」

 


 背が高い事がコンプレックスで、何か自分に自信をつけるものをとバレーボールを始めた。


 そしてそのバレーボールで強豪の大学に入る事が出来、レギュラーにもなれて優勝目指して頑張っていたのに……練習を頑張り過ぎて寝坊してしまうなんて。


 何が現実で何が夢なのか訳が分からないのでひとまず起き上がってみる。

 

 ズキーンッ

 

 起き上がった瞬間に頭が異常なほど痛みだし、ズキズキするので布団の上でうずくまってしまう。

 

 痛すぎる――――もし死んだとしてもどうして頭が痛むの?死後の世界なら痛みなんてないハズじゃ――――

 


 そこまで考えて、ふと違う考えが私の頭を過ぎっていった。

 

 ここは死後の世界じゃないかもしれない……布団は妙にリアルだし、周りの景色もリアルな感じがするのよね。頭は痛むけど、ここがどこなのか整理しないと落ち着かない。

 

 体は動くようなのですぐに動き始めてみた。

 

 でも微妙に自分の体に違和感を感じるのだ。



 「…………凄い胸が大きいわ…………Fカップ?Gかな?こんなに大きいと凄く動きにくいじゃない……」

 


 明らかにバレーボールをしていた時の体型ではない事はよく分かる。じゃあ私は誰なの?

 

 そう思ってドレッサーを覗いてみると、そこに映っていたのはブラウンアッシュの長い髪がウェーブがかっていて、胸は豊かに育ったおかげで着ているネグリジェのような服がぴちぴちしてしまっているけど脚はスラリととても長く、張りのあるヒップを持ったスタイル抜群の美女が立っていたのだった。



 「これが、私?…………凄い美人……それにナイスバディだわ…………この顔、どこかで見た事があるんだけど…………あ!」

 


 思い出して大きな声を上げてしまったので、思わず両手で口をつぐむ。

 

 危なかった……今誰かが入ってきても対応出来ないわ。

 

 そうしてもう一度鏡に映った自分を見てみると、この人物が誰なのか、すぐに理解する。



 「この顔はクラウディア先生じゃない……」

 


 クラウディアという女性は<ドロテア魔法学園~unlimited~>というゲームでプレイヤーが選べるキャラクターの一人……本名はクラウディア・ロヴェーヌ、公爵家の一人娘で私と同じで21歳だったはず。

 

 このゲームはファンタジー世界を舞台としたアクションゲームで、クラウディアは公爵令嬢でありながら優秀な魔力と風魔法の能力を持っているのでドロテア魔法学園の先生でもあり、男をたぶらかす妖艶な悪女という設定のキャラクターだった。

 

 そしてこのクラウディア先生は、性格がとても高慢なので全体的にファンは少ない(男性ファンがほとんど)

 

 でも私は自分に正直な彼女が大好きだったんだ……他人に気を遣ってばかりの自分とは全く正反対だし、信念を曲げず、時々カッコいいセリフを言うところに憧れもあって、よくクラウディア先生でプレイしていた記憶がある。

 

 魔法世界を堪能しながらプレイヤーが個人でミッションをクリアしてレベル上げをしていったり、協力プレイで大量の魔物を次々と倒していくのが爽快なゲームとして人気だった。

 

 最終ステージにはちゃんとラスボスもいて……何回も何回もクリアしたな。物凄い時間数をプレイしたし…………って、もしかして、ここって――――



 「ドロテア魔法学園の世界なの?」

 


 私が声に出してそう呟いた瞬間、ドアがコンコンとノックされる。



 「はい?」


 「お嬢様、失礼いたします」

 


 私の声を聞いて入ってきたのは、同じ年齢くらいの黒い髪を後ろで束ねている女性だった。恐らくクラウディア先生の侍女なのだろう、お嬢様って言っていたし。



 「目が覚めていたのですね!良かったです…………頭は痛くないですか?」

 


 侍女と思われる女性が頭痛について聞いてきたので、思わず食い気味に答えてしまう。



 「すっごく痛くて…………どこかにぶつけたのよね?記憶が曖昧だから教えてくれるとありがたいのだけど」

 


 私がそう言うと、侍女はキョトンとした表情で驚いた顔をした。そういえばクラウディア先生は高慢な性格だったんだわ……こんな風に丁寧に聞くような人じゃないはず。

 

 でも嫌な態度をワザと取り続けるのも苦手だし、頭が痛い状況で演技するのも無理だから普通に接するしかなかった。



 「あ、頭をぶつけてしまったので記憶が混乱しているのですね!お嬢様は学園の階段から転がり落ちてしまったのです…………意識がないまま3日も寝たきりだったので、このセリーヌ、生きた心地がしませんでしたよ!」

 


 そう言って涙を流しながら喜んでくれる目の前の女性の存在に救われる気持ちだった。この人はちゃんとクラウディア先生を大事に思っているのね。

 

 クラウディア先生は嫌われ役なので周りに敵も多いし、侍女にも嫌われているのではって思ってたからちょっと不安だったのよね…………この女性はセリーヌっていうんだ、仲良くできそう。



 「セリーヌ、ありがとう。心配かけてごめんね」

 


 私がそう言うとセリーヌは、何かの宇宙外生命体を見ているような目で私を見つめてくるので、とりあえずその場は笑って誤魔化す事にしたのだった。



 「あははっまだ調子が戻らないみたいだからベッドで休もう、か――――っ」

 


 まだ言い終わらないうちにまた酷い頭痛が襲ってきて、私の体がグラついてしまったところをセリーヌが支えてくれる。



 「お嬢様!無理はなさらないでくださいっ」


 「ご、ごめん、セリーヌ…………まだちょっと無理みたい……」

 


 私たちがそんなやり取りをしていると突然扉がバンッと勢いよく開いた。



 「何事だ?何かあったのか?!」

 


 そう言って部屋に飛び込んできたのは、柔らかい金髪をなびかせた超絶イケメンの見るからに高貴な男性だった。待って、見たことあるわ…………この人はまさか……



 「シグムント殿下…………」

 


 ドロテア魔法学園ゲーム内でプレイヤーが選べるキャラクターの一人、このゲームでは一番人気の王太子殿下であるシグムント・フォン・ドロテア、その人だった。

 


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