第41話いつぞやの犯人
早歩きで庭園に向かうと、まだ授業中というだけあって庭園に人影はなく、静まり返っていた。
この庭園の少し奥に立ち入り禁止のチェーンがかけられていて、そこから先は一定の魔力量の者以外は立ち入る事は出来ない。
1~3年生の生徒が入ってしまっては大変だからだ。
4年生ともなると魔力量がずば抜けている生徒も出てくるので入れてしまう子もいるけど、入学当時から立ち入り禁止とされている場所なので近づく者はいなかった。
まさか私のクラスの生徒が入るとは思わなかった…………もしかしたら直接的ではないにしても課外授業での瘴気に中てられてしまったのかもしれない。
迷いの森とされているので、奥の方に入ったら見つけるのは困難だわ。
「それにしても入口付近で遊んでいたと聞いたけど、全然姿が見えないわね。まさかもっと奥に入ってしまったのかしら……」
「おそらく……入ってみようぜ、みたいな話をしていましたので。止めてる者いましたが」
「なんて事……急いで捜しにいかなくては。私は少し入ってみるので、誰か先生方を呼んできてちょうだい!」
「分かりました」
一人の男子生徒が返事をしてくれたので、私は森に向き直り、意を決して入る事にした。
さすがに私の魔力量なら入れるわね。生徒でも入れたくらいだし、それもそうかと一人で納得する。
すると立ち入り禁止の鎖がある場所から少し入ったところに、カリプソ先生の後ろ姿が見えた。静かに、ただじっと立っているだけといった感じだったので不思議に思い、声をかけてみた。
「カリプソ先生?ここに風クラスの生徒が入ってきませんでしたか?」
私の声を聞いてゆっくりと振り返ったカリプソ先生は、いつものように可憐な笑顔でニッコリと笑ったかと思うと「いいえ、見ておりませんわ」とだけ答えた。
「そう、なのですか……失礼ですけど先生は、どうしてここに?ここは先生と言えども立ち入り禁止のはずです」
私は単純に疑問に思った事を聞いてみる事にした。
ここに入ってはいけないのは、何も生徒だけではない。たとえ理事長であろうとも入ってはいけないのに、どうして彼女はここで立っていたのだろう……私は自分で質問しておいて嫌な予感が止まらなかった。
『うふふっあなたを待っていたのですわ、クラウディア先生……待ちくたびれましたわ』
その声は、カリプソ先生のいつもの声とはほど遠いもので、私を階段から突き落とした時に聞いたノイズのような声だったのだ。
「何者?!」
『何者だなんて、随分失礼ですわね。私はカリプソ・ヴィスコンティ……子爵令嬢でもなんでもないただのカリプソですけど』
「………………そんな生い立ちは今は関係ないはずよ、生徒たちがこの森に入っていったの。どこに行ったのか知っているなら教えて」
『関係ない…………あなたにとっては関係なくても私には大いに関係あるのに……まぁいいわ。生徒たちの行方、教えてあげてもよくてよ?』
「本当?!」
私の関係ないという言葉に反応し、一瞬苦々しい顔をしたような気がしたけど、生徒たちの行方を教えてくれると言うので思わず喜びの声をあげてしまう。
声は全然違うけど、まだカリプソ先生の意識は残っているのかもしれない…………一瞬でもそう思った自分が馬鹿だと思い知らされる。
『生徒たちはね、すぐそこにいるじゃない』
「え?」
『あなたたち、ご苦労だったわね。クラウディア先生を連れて来てくれてありがとう……いい子たち』
カリプソ先生の言う生徒たちの方を見ると、私を森に誘導してきた生徒たちが嬉々としてカリプソ先生の方へ走っていくのだった。
まさか――――
『うふふ、この子たちに頼んで連れてきてもらったの。あなたのクラスの生徒は今頃教室でレポートでも書いているのではないかしら…………こんなにあっさり連れて来てくれるなんて、優秀な生徒にはご褒美をあげなくちゃ』
まさかこの子たちが操られていたなんて…………私が驚き固まっていると、ご褒美をあげると言ったカリプソ先生の口からいつもより濃い瘴気が溢れ出て来て生徒たちの口の中に入っていく。
「やめて!何をしているの?!」
『あの方からいただいたモノを少し分けてあげてるのよ………………あなた方は瘴気と言うけれど、コレはそんなものではない、あの方そのもの…………』
瘴気ではない?!
随分濃いなと思ってはいたけど、瘴気ではない濃い邪の気配――――まさか――――――
私がぐるぐる思考をめぐらせている内に生徒たちに入り込んだ”ソレ”の影響によって、生徒たちは完全なる魔物化を遂げてしまっていた。
リンデの森での魔物化は人体の形を残してはいたけど、今回は姿形の全てが魔物化していて、人間の面影は1つもない。
ゲームで初期に出現する魔物たちの姿をしているというのは、やはり今はゲームが始まる寸前の世界だからだろうか。
コブラ系のナーガやトカゲ系のリザードマンだったり、本当に初期に出てくる魔物だわ…………でもここまで魔物化が進んでいる人をゴッドブレスで元に戻せるのだろうか。
しかも中に入っているのは瘴気ではなく――――
迷っている暇はないわ、ゴッドブレスを試してみよう。
そう思って生徒たちを元に戻せるように祈りを捧げる。直ぐに祈りの光は集まってきた。そこへ突然聞き覚えのある声がしたのだった。
「クゥーーー!」
「ラクー!来てくれたの?!」
私の聖魔法の力に反応したラクーがポンッと現れて、私の肩に乗りながら頬ずりしていくる。さっきまで緊張していた気持ちが一気に和らいで、ラクーに頬ずりを返してあげると、猫のようにクルルルルと喉を鳴らし始めた。
可愛すぎるわ……なんだか力が湧いてくるわね。
そして魔物化した生徒たちの方を見たラクーは「クゥゥゥ……」と警戒するかのような鳴き声を出した。
ラクーにも分かるのね、大きな邪の気配…………魔王の存在を。
あの子たちの中に入っているのは恐らく魔王の力の一部なのではないかと思う。カリプソ先生の中にいるのも恐らく同じなのでしょう。
私に払えるかは分からないけど、一か八かやってみるしかない!
私が決意したところで、魔物化した生徒たちがカリプソ先生の合図で私に向かって襲い掛かってきた。
『ふふっあなたたち、愛しのクラウディア先生を食べておしまいなさい!』
「「シャーーーッ!!」」
生徒たちになんて事を…………もし人間に戻れても自分がやった事の罪に苦しむような事をさせるなんて……許せない!!
「[神聖魔法]――――ゴッドブレス――――」
――――ゴォォォオオオッ!!!!――――
リンデの森で放ったゴッドブレスの数倍の威力のものが発動され、私に襲い掛かってきていた生徒たちは森の木々に吹き飛ばされていく。
『…………っ……くっ』
カリプソ先生はゴッドブレスを浴びながらも必死で耐えていた。
ラクーの補助のおかげで以前とは比べものにならないゴッドブレスが発動したわ。
凄い…………でも私の感動も虚しく、木々にぶつかって気を失った生徒たちが人間の姿に戻ってはいなかったのだった。
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