第27話予期せぬ王太子殿下の来訪
カリプソ先生とお話をした日の放課後、私は庭園には寄らずに邸に戻って聖魔法の練習をする事にした。
カールとの事があって、ジークには少し庭園に行くのは控えた方がいいと言われてしまう。
階段から突き落とされた事といい、何者かに狙われているのは明らかなので心配してくれてるんだろうな、と思うと彼の言い分も無下には出来ない。
それに何となく胸騒ぎというか、もしカールの時みたいに私の聖魔法が必要になる日が来たらという焦燥感に駆られていたのだった。
練習しておくに越した事はないと思うので、出来る限り聖魔法に慣れておきたい気持ちが強い。
外でこの魔法を使って見られてしまうのは危険だから、邸で練習するしかないわね。
帰りの馬車の中でもマデリンとカリプソ先生とのやり取りや、生徒達の様子などを思い出し、カリプソ先生に若干の違和感を感じていた。
今度ジークに聞いてみようかな……彼ならカリプソ先生が来た経緯なども知っているだろうし。
ゲームには恐らく登場していないキャラクター。それに加えて美人、人気者、色気もあって、大人な雰囲気――――ジークが連れてきたわけじゃないわよね?
色々と考えていると胸がモヤッとしてくる。
「?」
自分の胸に手を当ててみるけど体調が悪いわけではない。
カリプソ先生の事を考えると妙にモヤモヤしてくるのが嫌な予感なのか、自分の中の気持ちなのかはっきりしないまま馬車は公爵邸に着き、セリーヌや邸の面々が出迎えてくれる。
「お嬢様、お帰りなさいませ!お仕事お疲れ様です!」
「セリーヌ、皆、ありがとう。着替えたら庭に行くわ。集中したいから誰からの連絡も入れないでね」
「承知致しました!」
聖魔法を使っているところを誰にも見られたくないので、一応皆に誰も取り次がないように伝えておいた。お父様は私の力について知っているのかしら……最近は忙しいようで一緒に食事もとれていない状況なので、まだ確認出来ずにいるのよね。
お父様になら話しても大丈夫、よね?
自室に着いて仕事用のローブを脱ぎ、動きやすいシュミーズドレスに着替えたら庭へと移動した。
庭園は思わず感嘆の声が漏れてしまうくらいとても美しく、庭師の人がとても素晴らしい仕事をしている事は一目見たら分かるほどだった。
こんなに見事な庭は学園と我が家くらいではと思うほどに。
いや、王宮も素晴らしいわよね……昔のクラウディアの記憶に薄っすらと残っている。
ジークと遊ばなくなってほとんど王宮には通わなくなったし、夜会に行くと私の悪い噂に便乗して体目当ての男性が寄ってくるから、近頃はあまり夜会にも行かなくなっていた。
でも、あそこがこの国一番の庭園がある場所であるのは間違いない。
懐かしい…………ジークと遊んだ記憶を辿りながら、顔が緩んでいる自分に気合を入れ直し、聖魔法の練習をしようと自分の魔力に集中をし始めた。
ちょうどその時、邸が突然騒がしくなり、クラウディアの元へセリーヌが慌てて走ってくる。
「お、お、お嬢様!で、殿下がっ」
「どうしたの、セリーヌ?!落ち着いて!」
「いいえ……落ち着いてはいられません!さきほどエントランスホールに突然王太子殿下が訪ねていらっしゃいまして…………」
「え………………ええ?ジークが?!」
セリーヌにジークが来たと告げられて急いでエントランスホールに駆けつけると、そこには屋敷の使用人に声をかけているジークが立っていたのだった。
「殿下!」
「クラウディア、突然すまないな。ちょっと気になる事があってこちらに寄らせてもらった」
「気になる事?」
「君こそ、あーー……くつろいでいるところだったか?」
ジークがなぜか目線をそらして気まずそうにするので自分の服装などを見直してみると、胸は布を巻いていないので強調されてしまっているし、胸元も開いているし、生地は薄手だしで少し恥ずかしくなってしまう。
そこへセリーヌがタイミング良く大きめのショールを羽織らせてくれた。
まさかジークが来るとは夢にも思っていなかったので、服装は普段着でもいいやと適当に選んだんだった……まさかそれが仇になってしまうとは。
さっきまでカリプソ先生の事を色々と考えてモヤモヤしていた気持ちが、本人を目の前にするとスッと飛んでいってしまう。
この世界に転生したばかりの時も、先日聖魔法を発動させた時も病人みたいな状態だったから、こうやって元気な時に公爵邸でジークに会うのって転生してから初めて?
何だかドキドキしてきた――――
「いえ、私は庭で魔法を…………あ、ここでお話もなんだし、庭に移動しましょう」
「そうだな、その方がありがたい」
セリーヌには知られても大丈夫だろうけど、私の新たに発動した魔法についてはまだ邸の皆に伝えられていないんだった。
咄嗟に話題を変えてジークを庭へと誘い、誰も通さないようにとセリーヌに伝えて、2人きりでお話をする事になったのだった。
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