第26話カリプソ先生


 「こんにちは、クラウディア先生。お久しぶりですね」


 「あ、ええ、そうですわね。確かプリントを拾っていただいた時以来かしら……その節はありがとうございます!助かりましたわ」


 「そんなお礼を言われるほどの事ではありませんわ。マデリンもこんにちは」


 「…………………………」



 マデリンはカリプソ先生をチラッと見た後視線を手元に戻し、作業に集中する。完全に嫌いモードなのね……私に対してより酷いかもしれない。



 「聞いたわよ、魔力が暴走したのですって?理事長先生が巻き込まれて大変だったとか……クラウディア先生にしっかりと風魔法を学んだ方がいいわね。いつか怪我をしてしまうわ」



 カリプソ先生がジークの話題を振ると、マデリン反応して立ち上がり、腕を組んだままカリプソ先生とのにらみ合いが始まる。



 「あなたに言われる筋合いはありませんわ。先生と違って私は魔力量も多いし優秀なの。それに理事長先生はクラウディア先生をかばったのであって、相手がカリプソ先生ならかばったかどうかは怪しいですわね」


 「優秀な人は人に向けて魔法使ったりはしないのよ」



 2人のやり取りを見ていると火花が見える気がする……お互いににらみ合い、威嚇しているけどカリプソ先生の方がやはり大人なのかマデリンから視線を外し、余裕の笑みを浮かべて私の方へ向き直った。



 「クラウディア先生、このクラスには気性の荒い猫が紛れ込んでいるようなのでお気をつけくださいね。何かあればいつでも保健室にいらしてくださいませ」


 「あ、ありがとうございます…………心配してくださって嬉しいですわ。でもその猫はとても優秀で可愛らしいのですよ。素直な面もありますし、カリプソ先生のお手を煩わせるような事にはならないと思うので、ご心配にはおよびません。きっと理事長先生もそう思ってますわ」



 私はマデリンの方を見て軽くウィンクする。カリプソ先生の圧が凄くて半分引き気味になってしまったけれど、自分のクラスの生徒を危険人物扱いされて黙っているわけにはいかない。



 「そう………………それなら良いのですけど。では私はそろそろこれで」



 カリプソ先生は私の言葉にあまり納得していない様子だったのに、食い下がるわけでもなくあっさりと立ち去って行ってしまったのだった。


 嵐が去ったかのような気分……



 「なかなかハードだったわね。マデリンは大丈夫?」



 私がそう聞くと、彼女は顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。



 「ど、どうしたの?何かあった?!」


 「…………っ……どうして、あ、あんな事を恥ずかし気もなくカリプソ先生に言えるのよ!」



 一瞬マデリンが何の事を言っているのか分からずに瞬きをパチパチしてしまう。カリプソ先生に言った猫の話かしら。



 「……あれは猫の話よ、マデリーンっていう猫の話。すっごく可愛くていい子なのよね~~」



 そう言って頭頂部をなでなでする。さすがに怒られるかなと思ってたんだけど、マデリンから拒否される事はなかった。おかしいな……そう思って彼女の顔を覗き込んでみると、顔は茹だこのように赤くこちらを恨めしそうに見ながら口を尖らせていた。


 なんだろう、抱きしめたい。マデリンってこんなに可愛い子だったのね。


 そしてポソッと私に聞こえるか聞こえないかというくらいの声で「ありがとう、嬉しかった」と言ってくれたのだった。


 彼女の言葉に私の方が喜びを爆発させて抱きつくと、私の胸に圧迫されて潰されてしまったマデリンから聞いた事もない悲鳴が出てくる。


 しまった、自分の胸がとても大きい事を忘れていたわ…………そしてその悲鳴は廊下の端まで響き渡っていったのだった。


 

~・~・~・~・~



 「じゃあ、今日はここまで。皆、宿題を忘れないようにね」


 「起立、礼!」



 今日の日直の生徒が号令をかけて皆が立ち上がると、しっかりと礼をして散り散りに帰っていく。


 ほとんどの生徒が教室からいなくなり、マデリンも教室を出て帰ろうと廊下を歩いていた。


 すると暗い廊下の方から手が伸びてきて、マデリンは引っ張られてしまう。



 「誰?!」


 「シーッ私よ、カリプソ先生よ」


 「カリプソ先生?!何でこんな…………あ、分かったわ。私が懐かないから気に入らないのね?ふん、お生憎様。私はあなたの取り巻き達とは違うの、絶対にすり寄ったりなんてしないんだから!」



 マデリンはカリプソ先生を警戒して距離を取る為に先生から勢いよく後ずさった。しかしカリプソ先生は余裕の笑みで近づいてきて、マデリンの腕をつかんできたのだった。



 「な、なに……」


 「生意気な子、あなたには少し調教が必要かしら」



 カリプソ先生はそう言うと、マデリンの顔にくっつきそうなくらいの位置に自身の顔を近づけ、目を見開いた。



 「私の目をよく見て…………いい子ね」


 「だ、め……………………」


 「…………………………………………ふふ、そろそろかしら。あなたの主は誰?」



 マデリンは虚ろな目をしながら、いつものような感情剥き出しの声ではなく、うっとりしているかのように答える。



 「カリプソ先生です」


 「そうよ。あなたを一番大切に想っているのは?」


 「カリプソ先生です」



 マデリンはカリプソ先生しか見えていないかのように従順に答え、その様子に先生も満足気に笑う。



 「じゃあ一緒に保健室に行きましょうか……」



 マデリンは素直に頷き、カリプソ先生と二人で保健室へと歩き始めたのだった。


 

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