第25話マデリン・トンプソン伯爵令嬢


 あの事件があった翌日は学園がお休みだったのでゆっくり体を休め、休み明けから学園祭の準備が始まった。


 カールはあの事件の記憶が全くなく、あの場にいたのも私とジークとカールしかいなかったので、特に何事もなく仕事にはげんでくれている。


 良かった……あれはカールに罪はないし、操られていたとは言え少しでも記憶が残っていたらカールは心を痛めるだろうと思っていたので、彼に記憶がなくてホッと胸をなでおろす。


 今日もきっと張り切って庭園の手入れをしてくれているはずだわ。


 学園祭の頃には庭園の花たちも綺麗に咲き誇っているでしょうね……想像しただけで顔が笑ってしまう。



 学園祭は二ヶ月ほど先の話だけど、ドロテア魔法学園の学園祭はとても手が込んでいて、王都中の貴族が見に来るし、一般の民にも開放されるとあって皆気合が入っている。


 危険な事がないように細心の注意を払いながら、魔法と手作りを駆使した催し物を皆で考えて披露する。


 私の受け持つ4年生の風クラスは、乗り物に乗って画面に映る映像を駆け抜けるバーチャルジェットコースターのようなものに決まった。


 乗り物は自分たちの手で作り、前方から風を出してあげて、映像も流せば本当に乗っているかのような演出が出来る。


 いいな……私も乗りたい。見た目はクラウディア先生なので普段はクールな対応の私だけど、中身は普通の女子大学生なのでこういったものを楽しみたいお年ごろなのだ。


 学園祭の時にこっそり乗ってみようかな。すぐバレるだろうけど……滅多に経験出来ることじゃないし。


 今はその為の乗り物を皆で一生懸命作っていた。


 雲に乗っている感覚になれるように、硬い椅子の周りをふわふわした布で包み込み、その中に綿や使わない布を詰めたりしてふわふわの椅子を設置する。


 それを何列か作って繋げ、ジェットコースターのように動かしてあげれば臨場感も出る。


 学園祭で使用する魔法については使用の許可が必要で、それについては申請中だけど、おおよそ許可は下りるのであまり心配はしていないのよね。


 きっと楽しいアトラクションが出来上がるはず……作業自体も楽しいし、生徒たちと一緒に何かを作り上げるのはやりがいもある。


 先日色々とあったマデリンもこういう時は学生らしく、皆と準備を楽しんでいた。


 ふふっやっぱり学生なのね。自分にもこういう時代があったなと懐かしみながら、親近感が湧いてきたのでマデリンに声をかけにいってみたのだった。



 「こっちのグループは順調そうね」



 私が声をかけると、マデリンのいるグループの子たちが嬉しそうに応えてくれる。



 「先生!布が足りなさそうなのでもう少し追加してもいいですか?」



 熱心に作業しながら進捗状況を伝えてくれるのは、メイリーという子爵令嬢で、作業に邪魔だからと長く美しい髪を高く結い上げていた。何だか男前でカッコいい女子といった感じで、とても頼もしい。



 「もちろん!教卓の辺りに布が沢山余ってるから持ってきていいわよ」


 「やった!」



 嬉しそうに他の子も連れていったので、私とマデリンが残り、無言は気まずいので思い切って彼女に声をかけてみた。



 「作業、楽しんでいるようね」


 「……………………まぁね。皆でやるのは嫌いじゃないから」



 ぶっきらぼうだけど、なんというか…………これは照れている、と思っていいのかしら?


 頬も赤いし耳まで赤い。か、可愛いわ――――私がそう思ってジッと見つめていると、私の視線に気付いたマデリンが少し声を荒げる。



 「な、何よその目は…………………………この前は悪かったわ」


 「え……」


 「ダンティエス校長に言われたの……魔法を勝手に暴走させて完全に怒られると思ったんだけど…………自分を大切にしなさいって。こんな事で自分の人生に傷をつけてはいけないって」



 校長…………凄くいい事を言ってくれたのね。後でお礼を伝えないと。


 マデリンがこんなに素直に謝ってくれるようになるとは思わなかったし、彼女はゲーム内に出てくるプレイヤーが使用できるキャラクターなので、悪役ではないはず。



 「そうね、素直に謝れるあなたはとても素敵だし、魔力量だってずば抜けて優秀なんだから、私もあなた自身を大切にしてほしいと思ってるわ」



 そう言ってウィンクすると、一瞬目を見開いたマデリンは、頬を赤らめてプイッとあっちを向いてしまう。



 「……何よ………………ありがとう」



 やだ、可愛い、可愛すぎる。何よこの子――――こんなに可愛いキャラクターだったの?!


 思わず頭をよしよしすると「やめてよ!子供じゃないんだからっ」と顔を真っ赤にして猫のように嚙みついて(言い返して)きたけど、私にはただただ可愛いだけだった。


 私とマデリンの姿を見て、布を抱えたグループの仲間たちが笑っている、その光景がとっても平和だわ。


 しばらくそんな平和な時間が続いていたのだけど、そこへ突然養護教諭のカリプソ先生がやってきてクラスの空気がガラッと変わった。


 特にクラスの男子生徒たちが色めき立ち、クラスの2/3くらいの生徒が一斉にカリプソ先生の元へ集まっていく。



 「カリプソ先生って、物凄く人気があるのね」


 私は驚いて思わず言葉が出てしまった。こんなに生徒人気のある人物がゲーム内にいたら絶対に忘れないと思うのだけど……どうして覚えていないのだろう、という違和感がずっと頭に残っていた。



 「ふん、色目を使っちゃって。私はあの先生が嫌いよ」


 「……どうして?」


 「…………前に友達だった子が、突然カリプソ先生の信者みたいになっちゃって……あんまりおかしいから心配したら、先生を侮辱するなって激昂し始めたの。とっても穏やかな子だったのに、それきり疎遠になったわ。今年から突然やってきて、子爵令嬢の身分で能力も普通なのに、どうやって殿下に取り入ったのかしら」



 やっぱりジーク絡みなのね。私が苦笑いしていると、マデリンはカリプソ先生が視界に入るのも気に入らないといった感じで作業に集中し始める。


 ジークは色目とかで人選をする人ではない……と私は思ってるから、そういうのは関係ないと思うな。


 でも確かにマデリンの言う通り、どういった経緯でこの学園の職員に就任したのかをジークに聞いてみてもいいかもしれないわね。



 そんな事を考えていると、生徒たちとひとしきり話したカリプソ先生は、私とマデリンの元へゆっくりと向かってきたのだった。

 


~・~・~・~・~


次回から一日一話更新(12時)になります~~よろしくお願いします!<(_ _)>

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