第24話ダンティエスSide 2


 「あれほど感情を表に出したシグムントはなかなかお目にかかれないな」


 「陛下、お戯れが過ぎますぞ。あのように煽らなくともシグムント殿下なら娘の為に動いてくれるでしょうに」


 「必死な息子を見るのも楽しいものだ。ダンティエス、そなたはどうするつもりだ?」



 突如話をふられて驚いたが、俺になど微塵も期待していないくせに、という気持ちが頭をもたげる。子供じゃあるまいし、いつまでも反抗期を拗らせたような態度はするべきではないと思いつつ、素直な態度が出来ずにいた。



 「…………私も精一杯頑張らせていただきますよ、兄上には負けたくありませんし」


 「負けたくない、か…………私はそなたにも幸せになってもらいたいと思っているのだ」



 父上の言葉に私は目を丸くする。私の幸せ?そんなものがどこにある――――常に二番だった私が自分という生き物を認め、好きになれる日がくるとは思えない。


 それともクラウディア先生を手に入れたら分かるのだろうか。


 聖なる乙女だったクラウディア先生。彼女の力が発動するところを私も見てしまったのだった。


 いつものようにクラウディア先生が庭園に行くかもしれないと思い自然と足が向いた。しかしいざ向かってみたら、兄上が先に来ていて庭園の木に磔にされたクラウディア先生が眩い光を放っているのを目撃したのだった。


 あの光は兄上の光魔法とは全然違う、もっと清らかで神に近い光だった。そして全てを包み込んでくれそうな……クラウディア先生の危機に駆けつけたかったのにまたしても兄上に先を越されてしまう。


 保健室の時もそうだ、あそこにクラウディア先生がいるのは分かっていた。


 本当ならあの時、彼女を見つけても良かったけど、困らせる事は本意ではないし一旦引いたのに、近頃はことごとく兄上に敵わない。


 それにさっきの兄上を見て、ああ、本気なんだなと分かった。私にそんな兄上に勝てるのか?誰かに本気になった事もないのに――――



 「父上、私の幸せは私が決めますからご心配なく。では、失礼いたします」



 今はまだ暗闇の中を手探りで歩いているような気がするが、いつか俺だけの光を手に入れる。


 そう決意し、父親である国王陛下に背を向け、執務室を後にしたのだった。

 


 何となく何もする気になれないし、時間を持て余していた俺は学園が休みの日だったにも関わらず校長室に向かった。


 今日は生徒たちはいないので校舎は静まり返っている。


 休日の学園もいいものだな――――生徒会室の前を通り過ぎると、中から声が聞こえてくるので、生徒会の者は学園に来ているようだ。


 懐かしいな、俺も兄上も学園に通っていた時は生徒会に所属していた。


 そこで書記をしていたのがミシェルだったから、ミシェルとも長い付き合いになる。


 あの頃と見た目も全く変わらないし、相変わらず仕事きっちり人間で私にも平気で意見を言ってくる貴重な女性だ。



 今日みたいな時は彼女の裏表のない正直な言葉で意見を言ってもらいたい気分なんだけどな――――来てるわけ――――



 「校長」



 突然声をかけられて振り返ると、ミシェルが冷静な顔でこちらを見据えていた。


 眼鏡の下から覗く瞳が鋭くて、若干怖い感じがする……



 「今日は休日ですのに、いかがいたしました?」


 「あ、いや、特に用があるというわけではないんだけど、時間もあるし、休日の学園も見てみたいなーって」



 苦しい、実に苦しい言い訳だった。休日に学園に来た事のない俺がここにいる事が不思議でならないのだろう。



 「ふっ暇なのですね。とても難しい顔をしていらしたので、何か重大な事が起こったのかと思いました」



 今少し笑った?ほとんど表情が動かないミシェルが、ふっと笑った気がする。もっと笑った顔が見たいという好奇心がムクムクと湧いてきて、ミシェルをもっと知りたいという気持ちになってきた。


 それに、彼女は本当に俺の事をよく見ているな。ちょっとした表情の動きも見ていて先回りしてくれる時もあるし、本当に優秀な部下だ。



 「ミシェルの有能さは国宝級だね、君の前では嘘はつけないな」


 「何をおっしゃいます、いつも嘘だらけじゃないですか。全て見破ってますけど」


 「ははっ全部お見通しとは恐れ入るよ。君は変わらないでいてほしい」


 「私は常にこの通りですからご安心を」



 いつも通りキリリとした表情を崩さずに答える彼女とのやり取りが心地良くて、いつの間にか嫌な気持ちも消えていた。


 彼女の前では自然体でいられる、そしてそれが許されているように感じる。


 この関係がいつまでも続いてくれたらいいなと思いながら、2人で校長室に向かったのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る