第46話ダンティエスSide 3


 王宮で父上やロヴェーヌ公爵、兄上と話をした後から――――――


 

 おかしな噂を耳にする事が多く、俺はとても戸惑っていた。



 というのも兄上がカリプソ先生と良い仲になっていて、生徒に見られるような場所でキスをしていたというものだ。



 自慢ではないが、兄上の事は嫌というほどよく分かっているつもりだし、だからこそ絶対に人目につくところでそんな事をするような人間ではないので、どうしてそのような噂が広まっているのか不思議で仕方なかった。



 しかし、よく分かっていると思っていたのに、俺の目にカリプソ先生と仲良く話している兄上の姿が目に入ってくる。


 

 なぜだ?カリプソ先生と兄上は何のつながりもないはず……兄上はカリプソ先生のように噂好きでねっとりとした女性は苦手だったはずだ。



 絶対に相手にしないタイプなのに近頃は見かける度に本当に一緒にいる。そして距離も近い――――

 

 こんなところをクラウディア先生が見たらどう思うか……そして案の定、2人を見ているクラウディア先生はとても辛そうだった。



 好きな女性にこんな表情をさせるなんて、本当に兄上らしくない。



 クラウディア先生の辛そうな顔を見ていたれなくなり、学園の裏側にあるいつもの庭園へと誘った。そこなら兄上たちを見ないで済むだろうし、気分転換にもなる。


 

 庭園の花達に囲まれているクラウディア先生は女神のようで…………



 「学園祭が終わるまででいいんだ、俺にもチャンスをくれない?クラウディア先生の心に入り込むチャンスがほしいんだ」



 思わず本音がもれてしまい、少し頑張らせてほしいとお願いした。


 優しい彼女は俺の願いを聞き届けてくれて、その場で返事はしないという選択をしてくれる。



 結果は分かっていても、この件に関しては俺の気持ちを尊重してくれた事がとても嬉しかったし救われる気持ちだった。



 でも課外授業へ一緒に行った時に聖なる力を使うクラウディア先生を見て、何故だかとても遠い存在に思えた――――俺とクラウディア先生が肩を並べて歩いているところが想像できない。



 課外授業から戻ってきて、どう見ても想い合っている二人を目の当たりにして、やっと自覚する事が出来た。この気持ちは恋ではなく憧れだったのだと。



 幼い頃、声をかける事も出来ずに物陰から兄上と遊ぶクラウディア先生を見ていた時から、2人と肩を並べたい、俺の事も受け入れてほしい、一緒に遊びたいと思っていた幼い俺がずっとそこから動けずにいただけだった。



 自分の気持ちに踏ん切りがついたので、理事長室で課外授業の報告をしている時にクラウディア先生の髪にキスを落とし、自分の心の中でお別れをした。

 

 俺のその行為に嫉妬したのかクラウディア先生の後ろから物凄く鋭い眼光を見せる兄上が見えて、一瞬笑いそうになってしまう。


 

 「おっと、俺はそろそろ行こうかな。誰かさんが食ってかかってきそうな怖ーい顔をしているからね」



 笑いそうになるのを誤魔化しながら、ミシェルの手を引いて理事長室を出る事にした。


 扉を出る前に少し振り返ると、クラウディア先生が申し訳なさそうな涙をこらえているかのような表情をしていたので、ウィンクを返しながら「お邪魔しました~」と手をヒラヒラ振り、軽い挨拶をして理事長室を出たのだった。



 

 「良かったのですか?」



 俺がクラウディア先生に執着していたのを見てきたミシェルは、兄上の背中を押した俺の行動に対してを淡々と聞いてきた。



 相変わらずの分厚い眼鏡で彼女の表情は分からない。声もいつも通りだしミシェルがどういう気持ちで聞いてきたのかは分からないけど……俺の事を心配してくれているのだろか。


 だとしたら嬉しいなぁ。


 

 「いいんだよ、自分が入る隙間なんてないって分かっていたし。それに…………俺には頼りになる相棒もいるしね」



 最近は本当にミシェルの存在に救われている感じがするので彼女の方を向いて伝えると、ミシェルは相変わらず表情を変えずに直立不動で固まっているようだった。



 「………………………………」


 「ミシェル?」



 あんまり反応がないので顔の目の前で手をヒラヒラさせると、突然手首をつかまれてビクッとしてしまう。



 「ミ、ミシェル……?」


 「………………仕方ありませんね。相棒になったつもりはないんですが、校長が頼りないので相棒でいてあげます」



 そう言って眼鏡をキラリと光らせたミシェルはとても頼もしく、誰よりもカッコよく見えた。



 「ミシェル、慰めて~~」


 「お断りします」


 「慰めるのも相棒の仕事でしょ」


 「じゃあ相棒を止めます」


 「そ、そんな~~」



 ミシェルのカッコよさに感激して慰めてほしいとお願いしたけどあっさり却下され、相棒まで止めると言われてしまったので、泣きつきながら一旦二人で校長室に向かった。



 校長室は理事長室のすぐ下に位置している。大きな窓から庭園がよく見える部屋なので、ここで過ごすのは気に入っていた。


 校長室でミシェルと少し仕事をしようとしたところで、窓から庭園を見ていたミシェルがポツリと呟いた。



 「あれは……クラウディア先生ではないですか?」


 「え?どこ?」



 突然ミシェルに声をかけられて庭園の方を見ていると、数人の生徒とクラウディア先生が立ち入り禁止の森に入っていくところが目に入ってくる。


 「あそこは立ち入り禁止…………なぜクラウディア先生が生徒と入っていくのでしょう」


 「さぁ…………でもこれは兄上に伝えるべきかもしれない。もう知っているのかもしれないけど……戻ってきたばかりだけどひとまず理事長室に行こうか」


 「はい」



 そうして校長室を出て1つ上の階の理事長室に向かおうと方向転換すると――――



 ――――ドォォンッッ――――



 突然の爆音とともに物凄い衝撃が学園全体に響き渡り、地震のように建物が揺れ始めた。


 今まで経験した事のない衝撃と揺れに、あちこちから生徒たちの悲鳴が聞こえてくる――――揺れはおさまってきたものの相変わらず地鳴りのような振動は続いていて、学園は一気に混乱のした生徒たちで溢れかえっていったのだった。

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