第48話様々な思惑
魔王を撃退した翌日――――
父である国王陛下が待つ執務室へと向かいながら、昨日の出来事について考えていた。
彼女が放った聖魔法は確かに魔王に大きなダメージを与えたはずだ……しかし致命的なダメージを与える前に魔王がカリプソ先生から出ていったのを見てしまったので、恐らくギリギリのところで逃げたのだろう。
それを彼女も確認していたのか、悔しそうに手を握りしめていた。
そもそもあの場で魔王を撃退出来たのはディアのおかげなのだから、消滅させる事が出来なくて責任を感じる必要などないのに……とことん真面目なんだな。
そんな彼女の一面も愛おしい。
私はと言うと、悔しがる彼女をなだめるので精一杯だった事を思い出し、魔王の足元にも及ばない自分自身に対して情けない気持ちでいっぱいになる。
次に相まみえる時は必ず魔王から彼女を守れるようにならなければ――――
魔王と戦っていて学園の方は先生たちにまかせっきりになってしまったが、あれほどまでの衝撃が学園を襲い、生徒たちの中にも怯えている者も多数いたので、3日間は学園を休園する事になった。
民にも何かしらの知らせを発布せねば収まらないだろう。
しかし魔王が降臨したなどと知らせをすれば、たちまち混乱をまねく事は目に見えているので、対応については慎重に進めなければならない。
そんな事を考えていると、いつの間にか国王陛下の執務室の前に着いていたので、衛兵に目配せをして扉をノックする。
――――コンコン――――
「陛下、シグムントが参りました」
「入りなさい」
「失礼いたします」と声をかけながら扉を開き、中に入るとやはりロヴェーヌ公爵もその場にいて、二人ともお待ちかねといった感じだった。
「よく来たな、昨日の事はすでに我々の耳に入っている。そなたもその話をしにきたのだろう?」
「はい…………父上は我々が何と対峙したのかもご存じで?」
「…………………………」
父上は無言だったが私の顔を見据えていたので、それだけで全て分かっているのだなと察しがついた。恐らく父上のこの表情の意味はそれだけではないはず。
「…………シグムント、その事を踏まえてそなたに命ずる。一カ月後の学園祭が終わり次第……」
「ディアを王都から追い出す気ですか?」
「…………………………」
「私も共に行きます」
「そなたは…………」
「父上と言えども異論は認めません」
私は父上の言葉を遮るように自分の言葉を並べた。父上から彼女の担任の先生としての任を解いて、王都外へ居を移すように指示しろと言われる事は想定していたのだ。
彼女を王都に置いておけば教会が絡んできて、王家と教会の間で板挟みになり、政治の道具にされる事は目に見えている。
魔王まで復活した事を教会が嗅ぎつければ、いよいよ彼女が救世主に崇められ、ますます身動きが取れなくなるだろう。
優しい彼女が民の為と言われれば断る事が出来ない事も容易に想像がつく――――
「とにかくディアが王都外に身を潜めるなら、私も共に行きますので」
「………………ふ、ふふっははは!」
「陛下……そのように声を出して笑っては殿下に対して失礼ですぞ」
父上が突然声を上げて笑い、その様子を公爵が窘めている。二人のやり取りを見て、私ははめられたのではと嫌な予感が頭をかすめていった。
「すまない、あまりにもシグムントの態度が面白くてな…………バカ息子め、そなたがそう言う事などお見通しよ。誰も反対はしておらぬし、そなたに命じようとしていたのはそなたとクラウディア嬢2人で王都を出よ、という事だ」
「は…………」
「殿下、クラウディアはこれから王都にいては厄介な事に巻き込まれるのを殿下も分かっているはず。可愛い一人娘を一人で王都の外へ行かせるのはさすがに親としても心苦しい……殿下がともに行ってくだされば私としても安心です」
この2人の狡猾な父親どもはどこまで考えていたのだろうか……
「この私の言葉も耳に入らぬほどに入れ込んでいるのに、まだプロポーズをしていないのか?どういう理由で共に行くつもりだったのだ……未婚の女性が男と旅に出るなど前代未聞のスキャンダルになるぞ」
「な…………」
まさか私に二人で王都を出るように命じたのは、早くプロポーズをさせる為か?
確かに私がディアと共に王都を出るのならば婚約していた方が、様々な名目で2人で王都を出る事が出来る。
王家としても彼女を守る為に私が傍にいた方がいいのだろうし、父上は早く婚約させたいのだろうな。
………………結局父上の手の平の上で転がされているような気がして、頭が痛い。父上に流されたからプロポーズをするみたいで、怒りが沸々と湧いてくる…………
私が恨めしそうな目を父上に向けると、何を怒っているのだと言わんばかりの笑顔を見せてきたので、何だかバカバカしくなり話を進める事にした。
「父上に言われなくとも学園祭でけじめをつけようと考えております。ロヴェーヌ公爵もそれで異論はありませんね?」
「私は娘が幸せであれば何でもいいですから」
私の言葉に2人の父親は、終始ニコニコしているばかりだった。
そこへ突然執務室の扉が開かれたかと思うと、そこにはダンティエスが立っていて、勢いよく挨拶をしながら入ってきた。
「父上に兄上、ロヴェーヌ公爵もいらっしゃったとは!ちょうどいい、皆に聞いてもらいたい話があるのです」
ダンティエスの顔がいつになく輝いているように見えるのは気のせいか?
何だか嫌な予感がしなくもない…………いつもの軽いダンティエスのようで、そうではない雰囲気に不穏な空気が執務室に漂う。
「な、なんだ、ダンティエス。随分ご機嫌じゃないか…………お前が話を聞いてもらいたいだなんて小さな頃以来ではないか?」
父上が苦笑いをしながら少し茶化すように言葉を返す。
しかしダンティエスにはあまり何も感じていないようで、自身の気持ちを嬉々として語り始めた。
「私にもついに運命の相手が見つかったのです…………これからプロポーズをしに行こうと思っているのですが、父上にもひと言伝えた方がいいと思いまして」
「ほう?それは誰だ?」
何も知らない父上は不思議そうな顔で聞き返している。しかし私にはダンティエスがプロポーズをしようとしている相手が誰なのかが分かっていた。
「待て、ダンテ…………」
「ミシェル・ジョヴロワ副校長です!」
「「なに?!」」
ロヴェーヌ公爵も父上も驚きのあまり固まってしまっていた。
まさか、あの時の出来事でここまで気持ちが固まってしまったとは…………
「ダンテ、その前にミシェル副校長に想いを伝えたのか?まさかいきなりプロポーズをしようとしているのではあるまいな」
「?そうだけど?」
「「やめておけ」」
皆が声を揃えて止めに入ったが、当の本人は何がダメなのか分からないと言った感じで、さらに恐ろしい事を口にし始める。
「どの道彼女を誰かに渡すつもりはないし、何が先かはあんまり問題にしてなかったな~」
「お前…………」
空いた口がふさがらないといった感じの周りの空気などまるで意に介していない様子のダンティエスは、ミシェル副校長にプロポーズをして振られる事は微塵も頭にない様子だった。
自己肯定感が低いように見えたのに、こういう時は自信があるというのか?
闇の力がダンティエスに宿ったのが何となく分かったような気がする……
私はこれからのミシェル副校長の事を考えると、彼女の事がとても憐れに感じ、でもダンテの様子だと逃してはくれないだろうなと思うと、さらに頭が痛くなった。
~・~・~・~・~
その頃――――――――
「…………そうか、女神ヘーラーの力を持った者が現れたか」
白いダルマティカに身を包み、高級な長いストラを首から下げた高位聖職者が祭壇で祈りを捧げながら、知らせを持ってきた者の言葉を慎重に聞いていた。
「はい、教皇様。しかし国王が息子のどちらかと結婚させようとしているようで、我々から遠ざけようとしております」
「ふん…………王家で抱え込もうとするか。我が聖ロシナンテス教会の地母神である女神ヘーラー……その聖なる力を持った者がようやく現れたのだ。絶対に王家に渡してはならぬ。そなたは引き続き動向を見守るのだ」
「はっ!」
フードを被った使者は頭を垂れたまま、瞬間移動で音もなく消えていった。
「必ず手に入れる…………女神ヘーラーよ、我らに力を――――」
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