第49話学園祭開幕


 あの騒動の後、生徒たちは門の前に全員避難されていて誰一人けが人はなかった。でも大きな揺れに怯えている生徒もいたので、ひとまず皆帰宅させる事になったのだ。


 そして三日間学園がお休みになり、その間に国王陛下から隣国の山々で活火山が噴火した為に起きた地震だと民に知らされ、理由が分かると安心したのか生徒たちも休み明けからいつものように学園に通い、穏やかな日常が戻ってきた。



 魔王が復活していたなんてまさか言えないわよね…………自然災害は神の怒りだとも言われがちな世界なので、きっと全ての不安は払拭しきれてはいないのでしょうけど、怯えてばかりいられないものね。


 私をおびき寄せる為にカリプソ先生に操られていた生徒たちは、記憶が途切れ途切れだったものの、魔物化していた後遺症などもなく保健室で目覚めた後、元気に帰っていった。


 

 しかし魔物化していた事で身体に何らかの影響があっては危険なので、念のため数日は健康調査が必要となったのだ。


 

 カリプソ先生はというと、今回の騒動や私を突き落とした時など記憶がなかったわけではないので、無罪放免というわけにはいかず……公爵家を敵にまわしたという事も相まって学園を去る事が決定し、子爵家はお家取り潰しになり、国外追放が決まった。


 カリプソ先生のお父様である子爵が王族派から教会側の人間になっていた事が露見したのも大きく、陛下の信頼を一気に失墜してしまった為、恩赦する事もできず…………後味の悪い終わりになってしまったわ。


 カリプソ先生は学園が休みの間に跡形もなくいなくなり、その後どうなったかは分からない。



 そんな中、学園の生徒たちは元気に学園祭の準備を進めていて、あっという間に一カ月の月日は過ぎていった。



 私の身辺はというとそれほど慌ただしくなることもなく……逆に恐いくらいだわ。


 私の魔法が知れ渡れば色々と動きが出てくるのではと思っていたのに。



 でも学園がお休みの間にひそかにお父様からお話があり、学園祭が終わり次第、隣街のイルボーネへ居を移すように言われる。


 イルボーネの街がある土地一帯は王家で管理している事もあり、私も安全に暮らせるだろうと提案された。



 ゲームでも一番最初に訪れる街…………いよいよ動き出す感じがするわね。



 お父様がなぜそんな提案をしてきたのかはおおよそ察しがつくし、特に異を唱える事はしなかった。



 「私の聖魔法が教会の方にも知れ渡ったのですね?」


 「…………そうだ、それについては前から陛下も検討していた。このまま王都にいてもお前の身が危険な事には変わりない。娘の為にどうするべきかを私も随分考えたが…………こんな事しか浮かばずすまない。お前が王都から出ている間に我々も出来る限りの事はしようと思っている」


 「お父様が謝る事ではありませんわ。でも私が一時的に王都の外に身を置いたとしても一時しのぎにしか過ぎないと思います。そこで今回の事を踏まえてお父様にお願いがあるのですが……」

 


 王都を出て自由を手にするついでに私はお父様に1つお願いをする事にした。



 それは魔王を倒しに行く事を許可してほしい、というものだった。



 今のまま他の街に避難していても物事の解決にはならない事は皆分かっている。1つ解決策があるとするならば、魔王を倒してこの世界を安心して暮らせるようにするという事。


 それが出来れば私の存在があろうとなかろうと、人々は安心して暮らせる。



 「……………………ダメだと言っても行くのだろう?」


 「もちろん。私が為すべき事ですから」

 


 やっぱり全部分かっていてイルボーネの街に行けと言っているのね。陛下もきっと、私が自分から魔王と対峙すると言い出す事を期待していた、というところかしら。


 いくら聖なる力を持つ者と言えども魔王と対峙するからには命の危険がつきまとう。


 それを王命として私にさせる事はさすがの国王でも出来ないものね……そんな事をしようものなら、あらゆる方面から避難の嵐になるでしょうから。


 

 だから私はあえて自分からお願いする事にしたのだった。




 お父様は観念したといった感じで苦笑いし、許可を出してくれた。


 必ず毎日手紙を書く事を条件に……子供じゃないんだからと言ってしまいそうになったけど、この世界にスマホなどはないんだし、生死を確認する意味でも毎日連絡してほしいのかなと思って承諾したのだった。



 そうして学園祭の準備も終わり、いよいよ学園祭当日――――――――



 「さぁみんな、沢山のお客様をおもてなししましょう!」


 「「はーい!」」



 お客様というのは学園祭に訪れる全ての民で、私はと言うと、生徒たちにすすめられてメイド服のようなものを着せられていた。



 こういうものを着てみてあらためて感じるけど、胸のサイズが……何とか布で締め付けてみたけどあまり効果はなかったみたいで、やっぱりローブを着直したい。


 でも今日一日だと思って恥ずかしさを必死に耐える事にした。


 

 ドロテア魔法学園はこの国唯一の魔法学園なので、学園祭は多くの民がやってきて、クラスの催し物などを楽しむ一大イベントだった。


 私のクラスのバーチャルジェットコースターのようなものも大盛況で、特に小さな子供がとても楽しそうにしているのが嬉しかった。


 映像が動くだけなので乗り物自体はベルトを装着すれば落下する事もなく、小さな子供でも乗る事が出来る。



 魔法で作られた風を受けるのが気持ちいいのか、キャッキャッと子供たちの笑い声が沢山聞こえてきて、生徒たちも自分たちの作った物で楽しむ人々を見ると満足気に見えた。


 

 今日で皆と過ごすのは最後かと思うと、胸が締め付けられるように切ない。後任の人事は陛下が今調整してくれているらしいし、任せるしかないわね。


 最後まで担任を受け持ちたかったな……生徒たちには知らせずに行くので、きっと驚くでしょうね。



 でもこの子たちが生きる世界を何としても平和にしてあげなければ。


 私にはそれが出来るかもしれないんだから。そう考えると自然とやる気がみなぎってきて、沢山のお客様を楽しませる事に集中する事にしたのだった。




 ~・~・~・~・~


 

 お客様がだんだん少なくなってきたのを感じ、ふと窓の外を見ると日が暮れてきている事に気付く。


 もうすぐ後夜祭が始まる時間かしら……花火も上がるし、ひそかに楽しみにしているのよね。


 明日の出発の準備もあるし、後夜祭が終わり次第早めに帰ろう。


 

 そんな事を考えていると、一人の変装をした人物に声をかけられる。見た目はピエロみたいで誰が変装しているのかが全く分からない。



 「お嬢さん、とある人物があなたを捜しておりましたぞ」


 「え?…………えっと……あなたは………………」

 


 誰かが私を?それにしてもこの怪し過ぎるおじさん、誰だろう…………どこかで見た事あるような………………あっ!!



 「へ、へい……っ……んん゙っ」


 「しーっ!」



 私が正体を言いそうになると、すぐさま口元を抑えられてしまう。まさか本当に本人…………なぜ国王陛下がお忍びでこんなところに?!


 しかもピエロみたいな姿だから全く誰か分からなかった。ゲームで見た事があるのとクラウディアの記憶があるから分かったものの。



 「お忍びだからな。人事も滞りなく進んでいる、安心してほしい。君にばかり負担をかけてしまってすまないと思っている」



 国王陛下からこんな事を言ってもらえるなんて思っていなかったわ……とても嬉しいのだけど、口元を抑えられているからお礼を言う事が出来ない。


 まさかこの事を伝える為に変装して来てくれたの?



 私が驚いて目を見開いていると、変装した陛下のすぐ後ろに物凄い形相のジークが立っていた。



 

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