第50話後夜祭の時間に花火を見ながら
「いつまで触っているつもりですか……」
「まぁそう怒るな。減るものでもあるまい」
陛下が苦笑いをしながらそう言うと、ジークが陛下の腕をつかんで私の口から陛下の手を引き離した。
今日は学園祭という事もあってジークも理事長としてではなく変装して参加している為、滅多に見る事が出来ない吸血鬼姿を披露していた。
ピエロと吸血鬼…………とうてい親子には見えない2人だけど、やり取りを見ていると親子なんだなぁと思う瞬間が度々見られて、思わずクスッと笑ってしまう。
どちらかというと陛下はダンティエス校長と性格が似ているように感じるので、兄弟のやり取りみたいに見えるわ。
「減る減らないの問題ではありません。そもそもあなたは……」
「分かった、分かった。まったくそなたといい、ダンティエスといい、その執着する気質は誰に似たのか…………」
「あなたでしょう」
「…………………………」
なんだか陛下が押されているような……
そんな事より執着って誰が誰に――――私?ジークが私に執着しているという事?二人のやり取りを見ながらそんな事を考えていると、途端に顔に熱が集まってきた。
本当に?だとしたら嬉し過ぎるのだけど……考えれば考えるほど顔が熱くなってくる。
「?ディア?凄い顔が赤いぞっ!熱は…………ないようだな。ひとまず外に出よう」
「え、ええ……そうね」
「あなたは速やかに帰るように。きっと王宮の者たちもあなたの行方が分からなくて大騒ぎになっていると思いますよ」
「ははっそうだと面白いがな」
ピエロ姿の陛下は朗らかに笑い、私が陛下に頭を下げるとジークが私の手を握り、一緒に瞬間移動したのだった。
~・~・~・~・~
瞬間移動した場所は学園から少し離れた小高い丘で、とても見晴らしがいい。学園も丘の下の方に見えるわね。
日もほとんど暮れていて暗くなってはいたけど、王都からの光で真っ暗というわけでもなく、もうすぐ後夜祭の花火が打ち上がる時間が迫っていた。ジークと見たいと思っていたから一緒に見られそうで嬉しいな。
それにしても――――
「初めて瞬間移動を経験したわ…………本当に一瞬で移動するのね!すごい……学園が小さく見えるっ」
まさか外に出ようと言われて瞬間移動するとは思っていなかった私は、自分では出来ない瞬間移動を体験出来てとても感動していた。
時空魔法は使える者も限られていて、誰でも使えるわけではないから、一度は経験してみたかったのよね。
ジークと手を繋いでいる事も忘れて感動に浸っていると、手を繋いでいない方の彼の腕が私の体を引き寄せて、抱きすくめられてしまった。
手を握ったり、繋いだりは度々あったしキスをした事もあったけど、こんな風に情熱的に抱きしめられた事は初めてで、心臓が痛いくらいに脈打っているのを感じる。
嬉しいのかドキドキし過ぎて頭が追い付かないからなのか、涙が出そうになるのを必死でこらえて彼の胸に顔をスリ寄せた。
明日にはここを去らなければならない。
私の好きな人、あなたを愛していると伝えたいのにまだこの腕を解いてほしくなくて、彼の服にしがみつく。
そんな私の頭上から大好きな彼の声が聞こえてきた。
「私の瞬間移動で目を輝かせている君が愛おしいし、魔王に立ち向かう君も、涙を流す君も、生徒を守ろうとする君も、全て愛おしくてたまらない。君を愛している……しかし、私にそんな事を言う資格があるのかとずっと考えていた。君にしてきた酷い態度の数々を考えると、どうしても気持ちを口にするのを躊躇ってしまった」
話をしながらジークの腕に力が込められていくのが、彼の苦しい心情を表しているかのようだった。
ジークから思いもよらない言葉がふってきて、私はちょっとだけ動揺してしまう。その事は仲直りした時にもう終わりにしたと思っていたのに……彼の中ではずっと消えずにしこりのように残っていたのね。
私だって挑発するような事を何度もしてきたし、あなただけが責任を感じる事ではない。
そう言いたいけど、頑固な彼はきっと、私が気を使ってそんな事を言っていると思うのでしょうね。
ジークの腕が少し緩んだので彼の顔を見上げると、案の定とても苦しそうな表情をしていた。
いつもは王族として表情で悟られないように訓練している人が、こんな風に感情を露わにしている事で私をどれほど喜ばせているかをあなたは知らない。
「ジーク、私はあなたが好きよ、とっても。私も同じ気持ちなの。どう頑張ってもあなたを諦められなくて……喧嘩をしている時でも忘れられなくて…………もしあなたがどうしても気に病むと言うのなら、あなたのこの先の人生を私にちょうだい」
「……………………それは、私が喜ぶだけではないか」
「そんな事はないと思うわよ、私に散々振り回されて嫌気がさすかもしれないでしょう?なんと言っても私は世間では悪女だと思われているみたいだし」
「バカな……君が悪女ではない事くらい、私がよく分かっている」
「ふふっ嬉しい」
もうなんていうか、ジークのその言葉だけで色んな事が吹っ飛んで、全てを許せるくらいの気持ちになるなんて、彼は思ってもいないのでしょうね。
王太子としての自分の価値はよく分かっているくせに、私にとってどれほど大きい存在かはまるで分かっていないんだから。
これから、うんと分からせてあげないと。
「お互いの人生を与え合うのって、素敵じゃない?」
「それは素晴らしいな。元より私の全ては君のものだから、生涯をかけて君に愛を与え続け、この身を捧げると誓うよ」
「私も誓うわ」
お互いに愛を誓ったと同時に互いの唇が重なり合い、すぐに深い口づけになっていく。
キスをする私たちの後ろには大輪の花火が打ち上がり、まるで私たちを祝福しているかのようだった。
ここを去る前に彼と気持ちが通じ合う事ができて、とても幸せな気持ちに包まれる。それと同時にすぐに離れ離れになる事に寂しい気持ちも湧いてきて、心の中はとても複雑だった。
ジークに伝えないといけない…………
次々に打ち上がる花火に照らされながら、もう少しこの余韻に浸っていたいという私の願いは、ジークから驚きの言葉をもらって余韻など吹っ飛んでしまう。
「君がイルボーネの街に行くのなら、当然私も一緒に行くから、覚悟するように」
「え…………ええ?なぜその事を知って?!それにジークは王太子だし、学園の理事長でもあるのに、国を空けられないでしょう?」
「そこは父上がなんとかするだろう、父上も了承済みだ。君のお父上であるロヴェーヌ公爵もね」
「……………………」
まさかお父様はそれですぐに了承してくれたのでは…………私はまんまと陛下とお父様の思うツボだったのかと思うと、何だか複雑な気持ちになった。
「私が君を一人で行かせるわけがないだろう」
「なんだか色々と複雑だわ…………でもあなたが一緒に来てくれるのは嬉しい」
「…………そうか」
気を取り直して私の正直な気持ちを伝えると、ワンコのように喜びを隠しきれずに頬を赤くして返事をする彼が可愛くてたまらなかった。
後ろに尻尾が見えるようだわ。
私たちが話している間も花火は次から次へと打ち上げられている。
「これも魔法よね?」
「そうだ、火クラスの者が打ち上げてくれている。特に器用な者だと芸術的な花火を打ち上げてくれる時もある」
「そうなんだ…………あ、これはクジラ?海の生き物まで花火で作れるなんて凄いわ!」
「…………イルボーネの街は海沿いにあるから、海の生き物も見られるよ。明日は夜に出発しよう、夜の方が人目につかずに移動出来る。迎えに行くよ」
花火の明かりが彼の金色の髪をより一層輝かせて、思わず見惚れてしまうほどの美しさに息をのんだ。
お父様と隣町に行く話をした時は一人で行くものだと思っていたから心細い気持ちだったけど、ジークとこれからも一緒にいられると思うと旅がとても楽しみになってきて、彼とならどんな危険も乗り越えられると思えたのだった。
~・~・~・~・~
ラスト一話になります!よろしくお願いいたします<(_ _)>
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