第37話暗中模索
すべて瘴気をのみ込んだ男子生徒は、さっきまでもがき苦しんでいたのが嘘のように突然静かになり、顔を俯かせてふらふらゆらゆらし始める。
そしてゆっくりと顔を上げると、目は白目のまま顔色は真っ青になり、顔中に血管が浮き上がった状態で肌は岩のようにデコボコになっていた……明らかに普通の状態ではない。
これは――――人の魔物化?
「ひっ」
「な、なんだよ、アイツ……」
「何が起こったの?!」
瘴気が見えない生徒たちは一様に混乱し始める――――私ですら混乱しているのに瘴気の見えない生徒たちはなおさらだわ。
「生徒たちは急いで馬車へ!」
ラヴェンナ先生は自分のクラスのだけではなく、生徒全員に呼びかけ、避難を促した。
人にもこんな風に影響をしてしまうのを目の当たりにしたら、今日の課外授業は中止せざるを得ないものね。
「みんな急いで!」
引率の先生方で生徒を馬車に誘導していると、瘴気によって状態異常を起こしている生徒が一人の女子生徒に襲い掛かっていった。
「グガァァァァア゙ア゙!!」
「きゃーーっ」
「危ない!」
私が叫んだと同時に辺りが闇に包まれ、男子生徒が闇に包まれて行った。
今は昼間よね?これは闇魔法?
女の子は襲ってきていた相手が突然いなくなってキョロキョロしている……暗闇の中、ダンティエス校長の声が響く。
「ダークイリュージョン…………今は彼を闇で覆っているので我々が見えていない。早く馬車へ走るんだ――――」
暗闇だけど馬車などの目的物は分かるわ。凄い闇魔法――――女子生徒は必死に馬車に走っていき、他の生徒たちも順々に馬車に乗り込んだところでだんだんと闇が晴れてきたのだった。
どうやら状態異常を起こした男子生徒にだけ暗闇の幻覚を見せる魔法みたいね。
突然目標物を失った男子生徒は混乱してキョロキョロしている。男子生徒の後ろの方では魔物が量産されているし、男子生徒は瘴気に取り込まれているしこの状況をどうすればいいの…………私が考えあぐねている間に、他の先生達が私たちに襲い掛かかろうとしている魔物を倒すべく、走っていった。
私も何体かは風魔法で応戦したけど、倒しても湧いてくるので埒が明かない。
とにかく男子生徒を何とかして学園に戻らなくては――――私は自分に出来る事は何かを考え、男子生徒を救う方に集中する事にした。
彼をこのまま置いていくわけにはいかないもの。
私の聖魔法ならなんとか出来るかもしれない……でも使ったら学園中に知れ渡る事になってしまう。
でも迷ってる場合じゃない!
生徒の安否がかかっているのだから出し惜しみしてどうするの。私は自分に活を入れて聖魔法を試してみる事にした。
先生達、ごめんなさい。もう少し耐えていて――――
祈るような気持ちで男子生徒の中から瘴気を追い出すための祈りを捧げ始めた。
胸の奥からいつものように懐かしい力が湧いてくる……大丈夫、助けるわ。私は自分の中に浮かんできた言葉を自然と口にしていた。
「[神聖魔法]――――ゴッドブレス――――」
私の中に集まった光を解き放つと、凄まじい光の光線によって、邪の気配が全て吹き飛んでいく――――――――
先生達と戦っていた魔物も私から放つ光によって瘴気に戻っていき、そのまま吹き飛んでいくのが見える……男子生徒の中にいた瘴気も彼の中から吹き飛ぶように消え去っていった。
神聖な光が消え去ると、魔物たちは跡形もなく消え、男子生徒は意識を失って崩れ落ち、森に満ちていた瘴気は綺麗さっぱりとなくなっていたのだった。
辺りは静まり返り、静寂が森を包み込む。
綺麗だわ……瘴気がないと、リンデの森ってこんなに美しい森なのね。ピクニックも出来そう。
でもこんなに綺麗な状態も一時的なもので、そのうちまた瘴気に満ちてくるのでしょうね。
魔王がいる限り邪の気配はなくなる事はない……それが分かっているから、とにかく今は意識を失って崩れ落ちている男子生徒を抱えて馬車に向かおうと思い、校長と先生達の方を向いて運ぶのを手伝ってもらう事にした。
「誰か手伝ってくれるとありがたいのだけど……」
私が声をかけると、皆一様に我に返ったかのような反応をしてくる。
「あ、ああ、そうだな……この子を運ばなくては」
最初に反応してくれたのはダンティエス校長で、他の先生達もやってきて運んでくれたので、私の仕事が一気になくなってしまう。
皆の前で聖魔法を使うのは初めてだから、きっと驚いているわよね。
すると後ろの方から突然カリプソ先生に声をかけられたのだった。
「クラウディア先生、お体の方は大丈夫ですか?物凄い力を使ったように見えましたので……」
そう言えばカリプソ先生も帯同しているんだった…………すっかり忘れてた。
カリプソ先生は保健医なので戦いに参加しないものね、ずっと馬車で待機していたのかしら。
「え、ええ、大丈夫です。特に魔力が枯渇してるわけでもありませんし、このまま馬車で休めば回復すると思いますわ」
そう言ってカリプソ先生との会話を終わらせると、急いで馬車に向かっていったのだった。
そう言えば今回はラクーが現れなかったわね。あんまり距離が離れていると感知出来ないのかもしれない。
そんな事を考えながら馬車に乗り込む後ろで、カリプソ先生に瘴気がどんどん入り込んでいる事に私は気付いていなかった。
「………………余計な事を……」
彼女の呟きは、私が馬車のドアを閉めた音にかき消され、私に届く事はなかった。
男子生徒は校長の乗る馬車に乗せられ、学園まで校長が様子を見てくれると言う。
帰りの馬車では非常に気まずい空気が流れ、特に火クラスのゲオルグ先生の態度が一番おかしくて、何だか不審者を扱うかのような態度に変わっていた事が一番気まずかったのだった。
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