第38話報告
急いでリンデの森を離れ、王都に入るまでは皆緊張した面持ちだったものの、王都に入ったのを確認すると先生たちの表情も緩み、ホッとした顔をしていた。
そして学園に無事に着くと点呼を取り、生徒たちは課外授業から解放されて嬉しそうにそれぞれの教室へと戻って行った。
魔物化した男子生徒も校長と一緒の馬車に乗っている最中に意識が戻り、記憶もなかったようでケロッとしながらクラスに戻っていった。
自分がなぜ校長先生と馬車に乗せられているのか分からなかった男子生徒は、馬車の中で酷く動揺していたようで、校長からその話を聞いた時は思わず笑ってしまったのだった。
今回は終わるのも早かったし、これから課外授業の感想や意見などをレポートにまとめる時間が終わったら帰宅となる。
皆無事に帰ってくる事ができて本当に良かった…………
「びっくりしましたわね…………まさかリンデの森があそこまで瘴気でいっぱいとは思いませんでしたわ……」
生徒たちが教室に戻るのを見守っていた水クラスのラヴェンナ先生が私に声をかけてくれたので、全力で同意する。
「本当にそうですわね。人体に入るとあんな風になるなんて――――」
皆が到着した時に副校長のミシェルとジークも出迎えに来ていて、私の言葉にジークが反応してくる。
「瘴気が誰かの中に入ったのか?」
「え?あ、えーっと…………」
私が言いにくそうにしていると、横からゲオルグ先生が鼻息を荒くして当時の状況を語り始めたのだった。
「理事長先生!森に満ちた瘴気に侵された男子生徒が一人いたのですが、我々が魔物と戦っている間にクラウディア先生が変な力を発したのです。得体の知れない力です……これは危険な力かどうか、要調査の案件なのではありませんか?!」
「…………………………」
この人は力の種類を感じる事ができないのかしら……ジークはすぐに分かってくれたのに。どう頑張っても私の事が嫌いらしい。
転生して中身が違うとは言え、ちょっと傷つくわね。
そんな私の気持ちをすくい上げるかのようにラヴェンナ先生がすぐに言葉を返してくれたのだった。
「あの力は危険なものではありませんよ?あなたは感じなかったようですけど……聖なる力ですわよね、理事長先生」
「ああ、そうだ。危険などと間違っても言ってはいけない」
「な、クラウディア先生に聖なる力?!そんなバカな…………このような女性に」
そこまで口にしたところでジークがゲオルグ先生に詰め寄る。
「このような女性とは誰の事だ?私の目を見て言うんだ」
「ひっ」
ジークから発する凄まじい殺気に気圧されて、何も言葉を発する事が出来なくなったゲオルグ先生は、その後ラヴェンナ先生にも「呆れますわね」とダメな男認定されて撃沈してしまったのだった。
私のせいで申し訳ない気持ちになったけど、皆がかばってくれたのが嬉しくて顔が緩んでしまう。
「ひとまずクラウディア先生の力についてはまだ公にはされていないので、陛下からお達しがくるまで胸にしまっておいてくれ。皆ご苦労だった。クラウディア先生と校長は理事長室にくるように。少し話を聞きたい」
「「分かりました」」
校長と同時に返事をして、他の先生たちとは挨拶を交わし、理事長室へと向かったのだった。
~・~・~・~・~
理事長室には私とダンティエス校長、ミシェル副校長にジークの四人になり、課外授業の状況を事細かく報告した。
とは言ってもほとんどダンティエス校長が伝えてくれたのだけど。
「思っていた以上に瘴気に満ちていたよ。来年以降は課外授業の休止も検討しなければならないかも。魔力の低い生徒はとり込まれてしまうし……今日クラウディア先生がいなかったら、あの生徒も危なかった」
「そんなに…………すぐにでも父上に報告しなければな。クラウディア先生もご苦労だった。怪我は…………なさそうだな」
相変わらず心配症なんだから……そう思いつつも心配してくれた事が嬉しい自分がいる。
さっきもゲオルグ先生に言い返してくれて、嬉しかったな。
「校長の闇魔法も凄かったですね!あっという間に闇が満ちて男子生徒が見えなくなって。ダークイリュージョンでしたっけ?初めてみました……」
「そう?嬉しいな~~クラウディア先生にそんな事言ってもらえるなんて」
私と校長が和気あいあいと話していると、ジークから咳払いが聞こえてくる。そうだ、報告に来ているんだった。
「それにしても聖なる乙女にお会いできるとは!光栄ですっ」
いつもは全く表情が動かないミシェル副校長がキラキラした表情で祈りのポーズをしながら私の目の前で感激している。
こんなに表情が豊かな副校長のお顔が見られるなんて嬉しい反面、校長も理事長も驚いて固まってしまっていたのだった。
「隠していて申し訳ございません、ミシェル副校長」
「そんな、謝る事などありませんわ!聖なる力を使える者など見つかったら大騒ぎになるのは分かりますので。今回も生徒を救う為に皆の前で使ったのですわよね?」
「ええ、あの状況で皆が助かるにはあの生徒を置いていくしかなくて……絶対にその選択はしたくないと思い、力を使う選択をしました」
次から次へと湧いてくる魔物は自分たちで何とか出来たものの、瘴気に蝕まれた状態の生徒をどうにかする手立てはなかった。
唯一私の聖魔法が効くかどうかだったので、一か八か試したのだった。
もちろん周りの人間は私の力など知らないので、私が独断で使った事になる。でも後悔はしていないわ。
生徒を置いていくなんて言語道断だもの。
「クラウディア先生の選択は間違っていません。現に生徒は助かったわけですし……ありがとうございます」
「そんな!副校長が頭を下げる事はありませんわ。あれは私の独断で――――いい選択だったかも分かりませんし」
「クラウディア先生は真面目だな~~ミシェルがお礼を言いたいだけなんだから、受け取っておけばいいんだよ」
「校長……」
「校長にはもっとお礼を言われたいところですけどね」
ミシェル副校長からの鋭いツッコミに「日々言ってるじゃないか~」と校長は嘆いていた。
「ふふっお2人は本当に仲が良いのですね」
「………………クラウディア先生はさ、そうやって笑っていた方がいいよ、絶対」
私が心から笑っていると、校長が私の髪に口づけをしながら笑顔でそう言ってくれたのだった。でもその笑顔に何故か無性に切ない気持ちになる。
「校長……」
「おっと、俺はそろそろ行こうかな。誰かさんが食ってかかってきそうな怖ーい顔をしているからね」
「?」
校長が何の事を言っているのか分からず驚いていると、後ろからジークの声が聞こえてきた。
「ダンティエス、いいのか?」
「まったく余裕のない顔をしているくせに何を言ってるんだか。兄上にそんな顔をさせる人なんてもう現れないんだから、しっかりやりなよ」
「なっ」
校長は片手をひらひらと振って「お邪魔しました~」と軽く挨拶をしながらミシェル副校長の手を引いて、慌ただしく理事長室から出ていった。
私はまだ返事をしていない状態だったけど、私の為に言わなくていいようにしてくれたような気がして、そろそろ自分の気持ちにけじめをつけるべきかなと伝える決意をしたのだった。
~・~・~・~・~
ここまで読んでくださってありがとうございます!
あと10話ほどで終わる予定ですので、最後までお付き合いいただければ幸いです(*^^*)
よろしくお願いいたします~<(_ _)>
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