第22話使い魔


 「魔力が回復してきたみたいだから、少し練習をしてみようかな」


 「そうだな。今は私もいるし何かあれば必ず助けるよ」



 ジークが力強くそう言ってくれたので、不思議と怖い気持ちがなくなり、前向きな気持ちでこの新たな魔法と向き合おうと思えた。


 意を決して庭園で使った聖魔法を試してみる。


 あの時は確か必死でカールを操っている魔法を解除するように祈ってたのよね。


 今回は――――ジークがお疲れのように見えるから何か回復魔法を使ってみようかな。そんな気持ちを込めて祈りを捧げるように両手を組んで目を閉じた。


 すると庭園の時のように胸の奥が熱くなってきて、私の体が光り輝き始める。その状態を確かめる為に目を開いてみると、発光しているかのように私自身が光に包まれていた。


 そしてあの時も感じた…………妙に懐かしい気持ち。この光に包まれていると、何だか家族に見守られているかのように感じてとても落ち着く。


 ジークの方を見るととても驚きながら目を見開き、私を凝視していた。でもその瞳に恐怖は感じられなかったので、内心ホッとしている自分がいる。


 新たな自分を受け入れるのにまだ戸惑っているのに、ジークにまで怖がられたら今の自分を受け入れる事が出来なくなりそうで、その事の方が怖かったのだ。


 彼が拒絶しないでくれている事が嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。



 「ふふっそんなに驚かなくても私は私よ」



 全身発光している状態で言う言葉ではない気がしたけど、驚き固まっているジークにこの状態で会話してみた。



 「すまない……なんだか、女神様みたいで…………」


 「……………………」



 凄く恥ずかしい事を言われた気がする……顔に熱が集まってくるのが分かる。そんな風に見えていたの?


 とにかくこのまま聖なる力を宿した状態でいても仕方ないので何か魔法を使ってみよう、そう考えた瞬間、私の目の前にラクーがぴょこんっと現れる。



 「クゥゥーー」


 「ラクー!」



 そしてあの時のようにまたラクーと私は共鳴し合い、1つになるような感覚を覚えたかと思うと、胸の奥から1つの魔法が浮かび上がってきた。



 「[治癒魔法]キュアプレアー」



 私がその言葉を発した途端に光は1つに集まり、ジークの中に溶け込んでいった。そして彼が一瞬だけ光った後、回復したジークのお肌はツヤツヤになっていたのだった。



 「これは……私を回復してくれたのか?」


 「ちょっとお疲れに見えたからあなたを癒せたらと思って祈りを捧げたんだけど……とっても肌艶がよくなったわね」



 疲れを取るとこんなにお肌にハリが戻るんだと思うと何だかおかしくなって、思わずふき出してしまう。



 「うふふっすっごくツヤツヤよ」


 「からかわないでくれ……」



 ジークは気まずそうな顔でひと言返すのが精一杯といった感じで、その表情がとても可愛く思えてしまったのだった。


 婚約者でも何でもない私が、王太子殿下に可愛いだなんて言うのを周りに聞かれたら、即不敬だと言われてしまうわね。


 でも彼はそんな事を言う人ではないと分かっているから、こんな風に軽いやり取りも出来てしまうのだけど。



 「それにしても、その生き物は君が力を使おうとすると出現するな。庭園でも出てきたが……君が拾った生き物だね?」


 「え、ええ。でも何故それをあなたが知ってるの?あの時は私とラクーしかいなかったと思うのだけど……」


 「あ、いや、あの時は…………」



 何やらおかしいわ、ラクーと出会った時は本当に私だけだったはずだし、あの時はって事はこっそり見られていたって事?


 私が怪しげな目線を送ると、釈明するかのようにその時の事を話してくれたのだった。



 「疲れた時にあの庭園に通うのは私も同じなんだ。あの時も癒されたくて庭園まで足を運んだんだが、君が先にいて…………その生き物と戯れているのを見て、庭園に行くのを止めたんだ」


 「へぇー……」


 「ほ、本当だ!その時にその生き物から聖なる力を感じていたから、怪しいなとは思ってはいた。それを君に伝えなかったのはすまないと思っている……」



 え、ラクーから聖なる気が?私はまだ新たな力に目覚めていなかったから感じられなかったのかしら――――



 「どうしてあなたはラクーの気を感じられたの?」


 「恐らく私が光属性の魔法を使える者だからだろう。光属性は聖属性から派生したものだから……以前の君からは何も感じなかったが、今の君からはちゃんと聖なる力を感じるよ」


 「そんな事が……じゃあラクーと私が共鳴するのも聖なる力に関係しているの?」



 私とラクーは同じ属性なので共鳴し合うのかしら。素朴な疑問をジークにぶつけてみると、彼からは違った見解が返ってくる。



 「私の推察だとラクーは君の使い魔的な役割ではないかと感じている。君を補助したり、時には魔力を増幅させる事もあるかもしれない。そもそも聖なる力を使える者は数百年に一人くらいしか現れないのだから、ラクーと共鳴し合うのも君しかいないだろうからね」


 「なるほどね……ラクーには私しかいなくて、私にもラクーしかいない、と……」


 「いや、君には私が――――」


 「?ジークは光属性よね?」


 「いや、そうではなくて……」



 なぜだかジークがガックリと項垂れているけど、私が力を使う時に必ず現れてくれるラクーが相棒に見えてとても心強く思える。ラクーを手の平に乗せてお礼を言う事にした。



 「ラクー、助けてくれてありがとう。私の使い魔さん、よろしくね」


 「クゥゥーーー!」



 私の言葉に全身で喜びを表しているラクーが可愛すぎて、いつまでもなでなでしていたのだった。


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