第8話ダンティエスSide 1
ドロテア王国の第二王子として生まれ落ちた俺は、勉強も二番、王位継承権も二番、剣技や魔法も二番、持って生まれた魔法も兄上は光だったのに対して俺は闇…………全てにおいて兄上に劣る半端者だった。
しかし人間関係においては兄上より上手いようで、特に女性とはすぐに仲良くなれるし、顔立ちも良かったからか遊び相手には困らない生活を送っていた。
誰かと一緒にいると兄上には出来ない事をしているという優越感に浸れる事もあり、絶えず誰かと(主に女性と)一緒にいる事が多く、学園随一の遊び人と呼ばれるようになる。
そんな俺にも難攻不落の女性がいた。
クラウディア・ロヴェーヌ嬢だ。彼女は幼い頃から王宮に来ていた事もあり、兄上と仲が良よかった。
私もこっそり陰から見ていたけど、兄上に対抗心を持っている俺にとって兄上と仲が良い彼女に近づくのは容易ではなかった。
ずっと陰から見ているだけの存在だったが、いつからか2人の仲が悪くなり、クラウディア先生は見た目もどんどん遊び人のようになっていく。まるで俺のように……しかし俺と同じ遊び人といった感じなのに、なかなかに身持ちが固い。
兄上が離れたので彼女に声をかけられるようになり、さっそく周りの女性のように口説き落とそうとした。しかし俺がどんなに近寄って口説き文句を言っても笑顔でスルリとすり抜けていく。いかにも悪い女と言った感じなのに。
魔力も高く優秀だから全然近寄る事も出来ない。
こんな女性は初めてだった――――たいていは俺が声をかければ目が喜び頬が赤くなり、向こうから近寄ってくるのが定石だ。
クラウディア先生は声をかけたら一度は必ずスルーしてきて、何度目かでようやく立ち止まってくれる。
女性にここまであからさまに冷たい態度をされた事のない俺としては、傷つくというより興味深々だ。彼女が俺を無視できなくなった時にどんな表情をするのか見てみたい。
そんな好奇心が膨れ上がり、いつからかクラウディア先生から目が離せなくなっていった。
よく彼女を観察していると、気付いた事がある――――兄上との関係だ。
兄上はクラウディア先生の事を見た目のまま、ふしだらで学園の風紀を乱す悪女だと思っている。そして彼女もそんな兄上の誤解を解こうとしている様子は見受けられず、むしろ誤解されているのを逆手に取っているかのような態度だ。
この2人は一見正反対に見えるけど、お互いの存在が気になっているように見えるのは気のせいか?
兄上もどうでもいいなら放っておけばいいのに事あるごとに突っかかりにいく…………あの堅物な兄上の事だから一生認めなさそうだけど、男の勘で気になっているのは間違いないだろうな。
面白い、俺がクラウディア先生を手に入れたら兄上はどんな顔をするのだろうか――――自分の気持ちに気付けない兄上はそこから眺めていればいい。
俺は兄への劣等感からの対抗心に近い気持ちで、クラウディア先生にもっと近づこうと考えていた。
そんな俺の考えを見透かしているかのように副校長のミシェルが待ったをかけてくる。
「校長、ご存知かと思いますが、クラウディア先生は見た目とは違い、真面目な方です。あなたが利用していい人物ではありませんよ」
クラウディア先生が階段から落とされて休暇を取った後、復帰した日の校長室にてミシェルが指摘してくる。
どうしてミシェルには俺の考えている事が分かるんだ?
「どうして俺の考えが分かるんだ?って顔をしていますね。見え見えですよ、理事長室であんな風に理事長を煽るような態度をしていたら……クラウディア先生も戸惑っていたじゃないですか」
「ふふっ君は本当に優秀な副校長だね」
「…………褒められている気がしませんけど」
ミシェル副校長はクラウディア先生に次ぐ、俺に興味のない女性の一人だ。
見た目も兄上のように堅物な感じで眼鏡をかけて髪は1つにまとめ、常にキリッとしていて、どちらかというとカッコいい女性といった感じだ。
女性として近づいた事もあったけど、軽く一蹴されてあっさり終わったのだった。
俺はそんな彼女にいつもたしなめられながら、仕事面でよくサポートしてもらっている。
もちろん感謝はしていたが時々鬱陶しくもあり、けむに巻くように逃げ回っていた時もあった……しかしけっこう助けられる事もあって最近は大人しく従うようにはしている。
でもクラウディア先生の事に関しては言う事を聞くのは無理そうだ。兄上との関係は俺のアイデンティティにも関わる事だし、彼女が気になっているのも確かだから。
「まったく、校長はどうしてそんなに理事長との関係にこだわるのか、私には分かりません」
「…………まぁ君には分からないだろうね」
これは王族の二番手として生まれた俺にしか分からない気持ちだろうな。常に兄と比べられ、実力も全て敵わない。父上は実力次第で次男である俺にも王位継承権を与えてもいいという考えの持ち主だが、今のままでは兄上に勝つ事が出来ないのは明らかだった。
別に王位継承権がほしいわけでもないし、出来れば王位なんて継ぎたくはないのだけど、兄上に勝ったと実感出来るものといったら俺には女性関係と地位くらいしかない。
「ええ、分かりません。あなたにはあなたの良いところが沢山あるのに、どうしてそこまで理事長と張り合わなくてはならないのです?」
彼女の言葉に俺は固まってしまった。俺には俺のいいところ?
「それは、どんなところ?」
「…………そのご尊顔ではないですか?」
俺の顔が兄上より勝っているという事?確かに見た目には自信はあったけど、兄上ほどではないと思っていただけに何だか嬉しくなってくる。
「ミシェルは俺の顔が好きって事?」
「好きとは言ってません、顔が良いと言っています」
いつものようにキリッとした表情で照れる事もなく事務的に伝えてくれていたけど、彼女の言葉が思ったよりも深く自分の心に刺さった。
そしてミシェルに言われたこの日から、自分の顔が思いの外好きになれたのだった。
――――ドロテア王国王宮――――
「ふむ、近頃の息子たちはそなたの娘にご執心のようだな」
「陛下……決してそのような事は」
「私の目は誤魔化せない。息子達の様子はつぶさに報告してもらっているからな……早く一人前になってもらわねば、王都の外では魔物による被害が年々増えている」
そう言って窓の外を眺めながら厳しい表情をしているのは、ドロテア王国の現国王であり、シグムントとダンティエスの父であるエヴァンス・フォン・ドロテアだった。
この国は国王の力によって守られていると言われていた。特に王都には強力な結界が張られており、代々の国王が力を尽くしている為、魔物もここには入っては来られない。
「そろそろ身をかためてほしいところ……そなたの娘、クラウディア嬢が息子達のどちらかの”運命の相手”だといいのだが」
「それは……私からは何とも言えない事です。お互いの気持ちもありますし、娘の幸せが一番なので」
そう言ってニッコリと微笑みやんわりと断りを入れるのは、クラウディアの父であり、国王の側近でもあるロヴェーヌ公爵だった。
「ふふっ言うではないか。まぁまだ時間はある、息子達が”運命の相手”を見つけた時、ようやく私の役目も終わるというもの…………もちろん魔物がこの世からいなくなってくれれば一番なのだがな」
「陛下……」
そう言いながら国王は、物憂げな表情でため息交じりにドロテア魔法学園の方を見つめていたのだった。
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