第12話魔力暴走とハプニング
「では授業を再開しましょう、マデリンからね」
私が声をかけたのが聞こえているのかいないのか……見た感じ聞こえていないかのようにマデリンは理事長へのアプローチを続けている。
「理事長先生……私、上手く出来るか不安で……理事長先生が傍にいてくれたら上手く出来る気がするんです」
そう言って上目遣いでシグムント理事長にお願いするマデリン。
「私はここに立っているから、そろそろ始めよう。クラウディア先生も待っている。君は素晴らしい魔力量を持っているのだから自信を持つんだ」
理事長が促してくれたおかげでマデリンは不服ながらも私の方に向き直ってくれたようだった。
理事長に励まされて――――そう思っていたのだけど、彼女が何かを呟いたのが風にかき消されて聞こえずに、授業が再開されてしまう。
「何よ…………あんな女待たせたからって……」
マデリンはフェザーストームの詠唱を始め、彼女の周りにどんどん魔力で作った羽根が大量に舞い、集まっていく。
どんどん、どんどん集まって――――って集まり過ぎじゃない?
この量は…………魔力の暴走?!
「いけない……マデリン、もう少し抑えるんだ!」
シグムント理事長が危険を察知して彼女に声をかけると、マデリンは嬉しそうに振り返った。
「理事長先生、今マデリンと仰ってくださいましたね……私、嬉しい」
「っ……そんな事より前を見るんだ!このままでは……」
「ふふっいいんです……クラウディア先生はお強い方ですもの、このくらいの魔力が必要なんです」
そう言ったマデリンは理事長から私の方へと向き直り、極上の笑顔で私に笑いかけてくる。
「クラウディア先生、先生はこのくらい、大丈夫ですわよね?…………フェザーストーム!!」
「……っ」
私は咄嗟にストームシールドを2つ増やし、自分の周りを防御するべく対応を取った。
これで彼女の魔力もストームシールドが吸収してくれるはず…………そう思っていたのだけど、物凄い威力で私へ向かってきた羽根達は途中で動きを変え、上下左右いたるところから私に襲い掛かってくる。
ストームシールドで四方は固めたけど、私の上下が空いていた為、そこから大量の羽根が入り込んできた――――
「クラウディア先生!!」
理事長の叫び声が響き渡ったと同時にズド――ンッ!!という爆音と爆風が舞い上がり、生徒達の悲鳴の後、教室内がシン――と静まり返った。
だんだんとストームシールドが解けていき、私は理事長のマントにくるまるように守られている事に気付く。
どうやらあの爆音と爆風は、マデリンが放ったフェザーストームを私のストームシールドが吸収しきれず爆発した為に起こった事だったようで、私自身に怪我は――――ないとは言い難い状態のようね。羽根によって服が切り刻まれてしまっていた。
特に胸のあたりの破け具合が酷くてこのまま生徒の前に立ち上がる事は出来ないかもしれない……なんて事。でも血は出ていないので肉体へのダメージはなさそうでホッと胸をなでおろした。
魔力が暴走気味だったとはいえ、中級魔法を防御出来ないなんて……まだ本当のクラウディア先生みたいに魔法を使いこなせていないのかな。
「理事長…………ありがとうございます。助かりました」
私がマントの中で力なく笑うと、私の肩を抱いて引き寄せ「怪我はないか?」と耳元で囁いてきたのだった。
距離が近いし、耳元で囁いてくるし、自然と顔に熱が集まってきてしまう。
「だ、大丈夫です。怪我はありませんが服が…………」
私がそう言うと私の状態を確認した理事長の顔が、青くなったり赤くなったり忙しく顔色が変わっていく。
「こ、これは大丈夫じゃないな……すぐに保健室に行こう」
「きゃっ」
保健室に行こうと言ったまでは良かったのだけど、何を思ったのか理事長は私を自身のマントにくるみ生徒の前で横抱きで抱き上げたのだった。
「私はクラウディア先生を保健室まで連れて行く。君たちは教室を片づけて自習をしていてくれ。マデリンは後で校長室に行く事、分かったね」
「は、はい…………」
マデリンは校長室行きを言い渡され、それが何を意味するのかが分かっていたのか、俯き加減で返事をしていた。
校長室に呼ばれるという事は厳重注意か謹慎か……いずれにしても何らかの処分が言い渡されるのだ。
魔法は許可なく人に向けて発動してはならないという規則がある。
今回は許可を得て実習をしていたけど、意思を持って魔法の威力を上げ、他者を攻撃した事は看過できないと判断されたのだろう。
この場に理事長がいて目撃者になってしまったから……
他の生徒達は理事長の行動に呆気に取られていて、ひとまず返事だけを返すのが精一杯といった感じだった。
保健室に行く廊下で抱きかかえられながら、恥ずかしさに耐えられずに理事長に声をかける。
「理事長、一人で歩けます!下ろしてくださって構いませんわっ」
「それは出来ない。そんな姿の君を誰かが見たら…………いや、とにかく急ぐぞ」
マント越しに伝わる温もりと、マントや理事長から彼の匂いがしてくる。
前世でもこんな風に男性に抱き上げられた事なんてなかったのに、まさかの異世界に転生してお姫様抱っこなんて。
それにシグムント理事長はゲームの中ではずっと堅物王太子といった行動や言動ばかりだったけど、今はただただ本当の王子様にしか見えなくて、保健室に着くまで終始私の心臓は痛いくらいに脈打っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。