第11話風魔法の実習授業



 今日は風のクラスで中級魔法である「フェザークロス」の練習をする日だ。


 魔力でつくられた羽根を大量に作り出し対象を攻撃する中級風魔法で、最上級生ともなれば上級魔法を使える生徒も多々いるのだけど、まだ中級魔法までの生徒も半分くらいはいる。


 出来ない事をさせると大変な事故になり兼ねないし、中級魔法に合わせて練習する事が多い。


 幸い風魔法のクラスはそこまでやんちゃな生徒は多くない……と思うので、それほど大きな問題は起きずに授業をする事が出来ていた。



 「…………風の精霊よ、我が魔力を以って命じる。汝の子らをその力で守りたまえ――――[防御魔法]シールド」



 私は教室全体を保護するシールドを張り、教室が破損する事がないように準備をする。


 もう魔法に関しては、クラウディア先生が使えていた魔法は全て使えるようになっていた。コツをつかめばなかなか楽しいものね。


 あとは私の前に自身を防御するストームシールドを発動させ、風の攻撃魔法を吸収出来るようにする。


 生徒たちには、そこに向かってフェザークロスを放ってもらうのだ。



 「みんな、用意は出来たかしら?」


 「「はい!」」



 元気な返事が返ってきたところで練習を始める事にした。



 「じゃあ順番に発動させてみて」



 最初はおさげの女生徒デイジーから始まった。彼女は子爵令嬢で、今のところ中級魔法まで使える――――フェザークロスも綺麗に発動させ、ホッとした表情を見せて次の生徒に代わった。


 次は子爵令息のパトリックが難なく発動させ、黒いサラサラの髪をなびかせながら眼鏡をクイッと上げて次の生徒に代わっていった。物凄く頭脳派って感じね。


 その次は男爵令嬢のティファ、次は筋肉質な男爵令息のレックス……生徒達が次々と成功させていく――――この調子なら順調に終わりそうね。



 「いい感じよ!その調子でどんどんぶつけてきて」



 私の前のストームシールドが生徒達のフェザークロスを吸収していくので、私自身には傷1つつかない。魔法って危険もあるけど、こうやって身を守る事も出来るんだなと感心してしまう。


 4人目まで無事に成功したところで、伯爵令嬢のマデリン・トンプソンの番になった。


 彼女はとても美しくて自分に自信のある生徒なのよね。クラスにはもう一人美しい生徒がいて、先ほどフェザークロスを成功させた男爵令嬢のティファとクラスの男子の人気を二分していた。


 そしてマデリンは、ドロテア魔法学園ゲーム内でプレイヤーが選べるキャラクターの一人だった。なぜなら彼女はとても魔力量が多い。


 私たち先生方に匹敵するほど……彼女にとってはこの実習授業は退屈そのものでしょうね。


 そんな彼女が少し悪役令嬢のような表情をしながら私に声をかけてくる。



 「クラウディア先生、フェザークロスなど私にとっては簡単過ぎて練習するに値しませんわ。もっと他の上級魔法ではいけませんの?先生ならば受け止められると思うのですけど」



 私を挑発するかのように言いながら、クスクス笑い始めた。


 そう、マデリンはクラウディア先生を敵対視しているのよね。こんな場面はゲームではなかったからこのクラスで授業するようになってとてもびっくりしたのだけど。



 「マデリン、これは授業であって遊びではありませんよ。皆が好き勝手する場ではないの。それくらいはあなたなら分かってくれるわよね?」



 私も波風は立てたくなかったので、ウィンクをしながら笑顔で答える。



 「…………仕方ありませんわね」



 とっても不本意といった表情だけど納得してくれたみたい。ホッと胸をなでおろすと、マデリンが何かに気付いて顔をパァァと輝かせた。



 「理事長先生!どうしてここへ?!」



 彼女の言葉に皆が教室の外へ目線をやると、そこにはシグムント理事長が私のクラスの授業を見ていたのだった。


 マデリンは喜び勇んで理事長に駆け寄っていく。


 そう、彼女がどうしてクラウディア先生を敵対視しているかというと――――



 「理事長先生も一緒に授業を受けましょうよ!次は私の番なんですけど、なかなか上手く出来なくて……理事長先生が手伝ってくれたら嬉しいなぁ」


 マデリンは理事長の腕に自身の腕を絡め、クラスに引っ張っていこうとしていた。


 さっきまでフェザークロスなんて簡単過ぎると言っていたのに……ここまであからさまだと分かりやす過ぎて面白くなってしまう。彼女は理事長に好意を寄せていて、王太子妃になりたいのだ。


 とても優秀だし、美人だし、こんな事をしなくてもなれると思うのだけど。


 クラウディア先生は理事長が治める学園の風紀を乱すし、理事長を誘惑していると思い込んでいて、マデリンにはとっても敵視されているのだった。



 「いや、私は各クラスを回っていただけだから――」



 美しい金髪の髪を揺らしながら理事長が柔らかい笑顔でやんわり断ろうとする。


 生徒の前ではそんな笑顔をするんだ……あまりにも綺麗で見惚れてしまったと同時にちょっとだけ胸が痛んだ気がした。


 私には絶対向けられる事のない笑顔――――そう思うと少し寂しい感じがするから胸が痛むのかな。


 私がそんな事をぼんやりと考えていると、生徒達は滅多に姿を見られない理事長が覗いていたとして「理事長もやりましょう」と次々と授業に誘い始め、その場を去れなくなってしまった理事長は苦笑しながら授業に参加する事になった。


 まさか理事長が本当に風魔法の授業に参加するだなんて、失敗しないかすっごく緊張する。


 相変わらずマデリンや生徒達には柔らかい笑顔を向けた理事長は、マデリンに寄り添うように彼女の隣りに立っていた。

 


 

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