第34話課外授業へ出発


 瘴気というのはこの世界に巣食う邪の気配、それらが集まって魔物が具現化されている。


 ゲームでも戦闘に入る時は必ず瘴気が集まってきて魔物が大量発生するのだ。

 


 邪の気配は魔王がいる限り消える事はないので、世界を平和にするには魔王を倒すしかないんだけど、それがカリプソ先生から見つかったという事は完全体の魔王はもう誕生が近いという事かな……そこまで考えて、ふと思った。


 私はゲームが始まる少し前の世界に転生したのでは?と。



 もちろんジークを好きになったり私が聖魔法が使えたりというのはゲームにはなかった設定だけど、もしかしたらここからゲームの世界が始まっていくのかもしれない、なんて漠然とだけどそういう考えにいたったのだった。

 


 とにかく瘴気が入り込んでいるカリプソ先生を今まで以上に注視しておかないといけないわね。



 そんな風に気合を入れたものの、しばらくは穏やかに学園祭の準備が進み、特に何事もなく日常が過ぎていった。


 ジークは相変わらずカリプソ先生と一緒にいる事が多いし、噂も凄いものになっていたけど、私はそれほど気にならなくなっていた。


 自分の気持ちがハッキリした事もあるし、彼が公爵邸を訪ねてくれた時に私が抱えているものを半分こしようと言ってくれた事で、一人で頑張らなくていいんだと思うと本当に気持ちが軽くなったのだった。


 

 時々目が合うと「しっかり役目を果たしている」と言わんばかりにドヤ顔をしてくるのが、面白くて笑ってしまう。



 真面目で誠実な人なんだなと、日々好きが増しているような感じがする。



 でも穏やかに過ごしてばかりもいられないのが最終学年であり、王都の外に出て実戦を経験させる課外授業というものが待っている。


 担任としてももちろん付き添わなくてはならないし、この魔法学園の一大イベントでもあった。



 この課外授業をクリアする事で、初めて一人前として認定されるのだ。


 学園祭が始まる前に行われる行事で、数日後にその日は迫っていた。



 学園祭の準備も大変なのに課外授業まであるなんて、最終学年の生徒たちは本当に大変よね……しっかり生徒を守ってあげなくては。


 私はいつの間にか教師としての自分を受け入れていて、今となっては生徒たちを守る使命に燃えている、一人の熱血先生と化していたのだった。

 


 ~・~・~・~・



 課外授業の日を迎え、私は朝からバタバタと対応に追われていた。



 生徒たちが乗る馬車の台数のチェックをしたり、課外授業に向かう生徒の数をチェックし、名前もチェック。


 私たち大人がついているとは言え、王都の外は危険がともなうのであらゆる危機管理が必要だわ。



 様々な準備が整い、皆を馬車に乗せていよいよ出発となった。



 「気を付けて行ってきてくれ。生徒の安全が第一だという事を忘れないように頼む」


 「「はい!」」



 理事長であるジークが引率の教員に声をかけ、先生たちも馬車に乗り込んだ。


 今回の引率の教員は、ダンティエス校長、保健医のカリプソ先生、風クラスの私、水クラス、火クラス、土クラスのそれぞれの担任が行く事になっている。



 学園には1~3年生の生徒たちも残っているので理事長と副校長は学園に残る形だ。


 

 私も準備が整ったので火のクラス、水のクラス、土のクラスの担任の先生と一緒に馬車に乗り込み、馬車の窓からジークを見ていた。



 理事長として皆を見送る姿も様になっていてカッコいいわね……すると突然目が合ってわずかに笑いかけてくれる。


 それだけで何倍もの力が湧いてくる感じがして、私も笑い返したところで馬車が動き出したのだった。



 頑張ろう――――私にとっても初めての実戦だし、この世界の魔物と対峙するのも初めてだから、かなり……いえ、物凄くドキドキしていた。


 どんな感じだったかな……ゲームでの魔物は瘴気が具現化しているとは言え、見た目がハッキリしているものとハッキリしていないものと両方出てくる。


 まだ魔王が完全に誕生していない世界なら、見た目もハッキリしない魔物だろうか。



 とにかく生徒を第一に考えて行動しよう。



 今回は理事長ではなく校長が引率の教員のトップとして帯同していた。


 いつも何かと助けてくれるジークもいないのだから、私がしっかりと自立するチャンスだわ。



 心の中で色んなパターンや戦闘シーンなどを思い出しながら考えをめぐらせていると、隣に座っている水クラスの担任であるラヴェンナ・バレンタイン先生が話しかけてきてくれた。



 「クラウディア先生のクラスは上級魔法を使える生徒はどのくらいいます?私のクラスは半分くらいなので、今回の課外授業はドキドキで……」

 

 

 ラヴェンナ先生は私の一個上(22歳)の伯爵令嬢でふんわりとした雰囲気の見るからにお嬢様といった感じで、美しい水色の髪がサラサラしていてとても人気の高い先生だった。


 こんなにふんわりおしとやかな女性なのに芯が強く、戦いになると目の色が変わるのだった――――そう、このラヴェンナ先生もプレイヤーが操作する事ができるキャラクターの一人で、とても優秀な人物なのだ。


 ふんわりしているのに好戦的……このギャップがたまらないと人気のキャラクターでもあったのよね。



 ドキドキしていると言っているけど、もしかしたら違うドキドキなのでは?


 自分の出番がきたら嬉しいな、的な――――



 「ラヴェンナ先生、私のクラスも同じようなものですわ。上級魔法を使える生徒は心配していませんが、中級魔法までの生徒が半分くらいいますからしっかりとサポートしてあげなくては」


 「クラウディア先生は相変わらず優しいですわね~」



 そう言ってコロコロ笑っている。きっと沢山戦闘が出来そうで喜んでいるに違いないと思った。


 そんな私たちの会話に火クラスの担任であるゲオルグ・コーリング先生が会話に入り込んできたのだった。


 

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