第35話馬車の中で仁義なき戦い
「ラヴェンナ先生こそお優しいではないですか。いつも生徒の事を考えていて……先生の鑑です」
私の目の前に座っているゲオルグ先生は私の3個上(24歳)の伯爵令息であり、好き嫌いが非常に分かりやすい人で、常にラヴェンナ先生を褒め称えている。そして――――
「クラウディア先生がラヴェンナ先生と同じだなどと……あり得ない事です」
はいはい、よく分かっていますよ。
ゲオルグ先生はラヴェンナ先生が大好きでクラウディアが大嫌いなのよねーー本当に分かりやすい。
まだ仲直りする前のジークとはまた違った嫌味や嫌悪を向けてくる人――――
ジークは私の不真面目に見えるところを直そうとしていた人だけど、この人は単純な悪意を向けてくる厄介な人間なのよね。
私が転生した後もクラウディアを嫌悪する気持ちが消える事はなく、相変わらずこちらが引いてしまうような言葉を投げつけてくる。
まぁいいんだけどね……ラヴェンナ先生が清く、優しく、たおやかな女性だと信じて疑わないゲオルグ先生の夢が崩れ落ちる瞬間が来ない事を祈るわ。
ラヴェンナ先生は本当は好戦的なんて私が言ったら、ラヴェンナ先生への嫉妬や負け惜しみでウソを吹聴していると言われそうで厄介だし。
「クラウディア先生と同じだなんて嬉しいですわ~~ずっと憧れておりましたの。先生のようにカッコいい女性だったら……」
そう言いながらうっとりとしているラヴェンナ先生を見て、戦闘するカッコいいクラウディアを想像して、自分もそうなりたいとか思っているんだろうなと察しがつく。
「それに、昨年の魔法大会もクラウディア先生のクラスがクラス別対抗で優勝しましたわね!上の学年のクラスを押さえての優勝にとっても興奮しましたわ」
その話が出た途端にゲオルグ先生の表情は一気に憎々しげな顔に変わっていった。
この魔法学園には前の世界で言うところの運動会のようなものがあり、昨年は私の受け持つクラスが優勝したのだった。
火、水、風、土の対戦でも風が優勝だった……私が転生する前の出来事だけど記憶にあるし、ゲオルグ先生の火クラスとの戦いにも勝利したので本当に悔しいのだろうな……私が何となく気まずい気持ちでいると、ゲオルグ先生が重い口を開き始める。
「あの時は風クラスの生徒たちが最上級魔法を突然使えるようになったので、誰かの手が加えられたとしか思えませんでしたね」
「なっ……」
まさか私がインチキしたとでも言いたいの?風クラスには優秀な生徒が多かっただけなのに、私のみならず私の生徒たちも侮辱するような言葉に、さすがの私も怒りが沸々と湧いてきてしまう。
でも私の怒りを抑えるかのようにラヴェンナ先生がフォローしてくれたのだった。
「あれは、実力通りになったのでは?だってクラウディア先生のクラスは統率力が素晴らしかったですもの。魔力量の多い生徒も多かったですし、私は結果に納得していますわ」
「ラヴェンナ先生、ありがとうございます!水クラスの演武も素晴らしかったですわね!あの時、魔力暴走してしまった生徒がいましたけど、原因はなんだったのでしょう」
「それが、生徒に聞いてもよく分からないみたいで……いつもは優秀な生徒なのに」
学生といえども魔力暴走はそうそうなるものではなかった。皆得意の魔法を鍛えているし、3、4年生になる頃には自分の魔力をしっかりと操れるようになっているものだから、突然原因不明の魔力暴走っていうだけで不穏な気配を感じてしまう。
まさかその頃から瘴気が学園に入り込んでいたの?
強力な結界が張られているのに――――――
私がそんな事を悶々と考えている向かいでゲオルグ先生がラヴェンナ先生を恍惚と見つめながらとんちんかんな事を言っていた。
「ラヴェンナ先生はいつも生徒を気遣っていて優しいですね。あなたに気遣ってもらえる生徒は幸せ者です」
本当に恋する乙女みたいな反応ね……僕の事も気遣ってほしいと言わんばかりの言葉にゾッとしてしまう。
さすがにここまで盲目にはなりたくない。
ふとラヴェンナ先生の方を見ると、もの凄い笑顔なのにまったく笑っているようには見えない笑顔で無言を貫いていた。
そしてゲオルグ先生の横から土クラスの担任であるジョバン・ドブロニクス先生が口を開いた。
彼は見た目はクマさんのように大きく、性格は明るく朗らかで、この中では唯一の既婚者でもあり侯爵家を継いでいるという事もあって、学年主任を任されている。
本来なら侯爵家の仕事もあるのでしょうけど、優秀な魔法使いとして学園の生徒の為に勤務してくれていた。
「原因が分からないという事が怖いね。近頃魔物が増えていると理事長先生が言っていたし、今回の課外授業もとても心配しておられた。我々もくれぐれも気を付けなければ」
ジョバン先生は理事長や校長からの信頼も厚いので色んな情報が入ってくるだろうから、何か怪しい雰囲気を感じているのね。
「そうですね、どのくらい魔物が増えているのかは分からないですけど、皆で生徒たちをしっかりと守りましょう」
私の言葉に皆が無言で頷いてくれて、話が終わったタイミングで馬車がゆっくりと停車した。
課外授業を行うリンデの森に着いたという事ね――――気合を入れなきゃ。
初めての実戦にドキドキしつつも覚悟を決め、皆と一緒に馬車をおりていったのだった。
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