第31話シグムントSide ~6~
父上やダンティエス、ロヴェーヌ公爵の前で「必ず私が射止める」と啖呵を切り、王宮を後にしたものの、具体的に私が出来る事は限られていて、とにかく彼女を狙う者から守る為にも出来る限り傍についていようと決めたのだった。
私自身が彼女の傍にいたいという想いもあったが……その辺は己の邪な気持ちを振り払った。
カールの事件があったので、ディアにはしばらく庭園に行かない方がいいと伝える。
彼女は気付いていないが、カールは恐らくディアの事が好きなのだろう。その気持ちをいいように操られてしまったのだ。
彼にかけられていた魔法は複雑で、それこそ解呪するのはほぼ不可能と思われる邪魔法だった――――あの時ディアが自分で解呪出来なかったらどうなっていたかと思うと今でも恐ろしくなってしまう。
彼女を狙う者はカールの気持ちを分かっていて利用したのだろう。
私の推察だが、そこまで分かるというのはやはり犯人は学園にいて、ディアの行動や周りの人々の事をよく観察している人物ではないかと考えられる。
そう考えると、今はあまり庭園に近づかない方がいい。
決して私が彼女をカールに近づかせたくないわけではなく………………いや、それも大いにあるな。
独占欲にまみれた自分の気持ちを振り払いながら、真面目な彼女が恐らく聖魔法の練習をするだろうと考え、急いで仕事を終わらせた私は公爵邸を訪れる事にした。
突然の訪問は良くないとは思ったが、嫌な顔をせずに私を受け入れてくれて、ホッと胸をなでおろす。
そして聖魔法を使っている彼女は女神のようだった――――
私の光魔法と彼女の聖魔法は相性がいいと言われている。光魔法は聖魔法から派生したとも言われているし、私の力が彼女の助けになるのではと思い、手を握って補佐してみたのだった。
案の定彼女の能力を安定させ、そして高める事も出来た。
これはとても大きな事だ。私にもラクーのような役割が出来た事が嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまう。
補佐したいと思って握った手だったが、とても華奢で柔らかい彼女の手をずっと握っていたい気持ちに駆られた時の事を思い出し、顔に熱が集まってきてしまう。
私にしては少し大胆だったかもしれない。
聖魔法の練習をした後にカリプソ先生の話をされ、彼女の話を少しする事になった。
カリプソ先生は父上が寄越してきた女性で、父上と懇意にしている王族派の貴族、ヴィスコンティ伯爵の娘であり、娘の社会教育の一貫として学園に勤めさせてほしいという伯爵の願いを無下に出来なかったというわけだ。
伯爵はクマのように大きく代々王族派の人間で、父上はかなり信頼している。
身元はしっかりしているし、一人くらいならと養護教諭として勤めてもらう事になった。
私の苦手なタイプでねっとりと絡みついてくるように接近してくるので、極力保健室には近寄らないようにしていた。
ディアと違うところは距離が近いところだな……それでいて少し指摘すると涙を浮かべて上目遣いをしてくるので、面倒な事になり兼ねないと感じた私はあまり関わりたくないと感じていた。
しかし私がカリプソ先生の話をした後からディアの表情が優れない。
カリプソ先生に何かされているのか?
私に言いにくい事なのだろうか…………それとも私が何か彼女を傷つけるような事を言ってしまったのか?
ずっと嫌味を言い合っていた仲だったが、もう仲直りもしたのでこれからは彼女を傷つけるような事はもうしたくはない。
心配になり彼女の手を握ると「ジークは優しいわね」と力なく笑うのだった。
それは君だから、君にしか優しくしたいとは思わない、と伝えたかったがまだそのタイミングではないと自分に言い聞かせる。
ディアにこんな顔をさせてしまう私は、まだ彼女の信頼を得ていないのだろう。
今伝えたところで、そんな私の言葉など彼女に響かない。
途中で侍女が声をかけてくれたので、何とか伝えたくなる気持ちを我慢する事が出来たのだった。
翌日、また性懲りもなく公爵邸を訪れる。
一日でも離れていられないのかと自分に対して呆れるばかりだが、そんな私を優しく迎え入れてくれる彼女の厚意に甘える事にして、この日はまずはお茶をしながら少し話をする事になった。
そこで驚くべき話を耳にする。
生徒達がカリプソ先生に心酔しきっていて、すぐに保健室に駆けて行ってしまうのだという。
カリプソ先生を嫌っていたマデリン嬢までも突然豹変したというのだから、穏やかではないな。
魅了は魔法ではないし、そんなものを使える者など見た事もない…………いや、カールを操っていた邪魔法なら出来るのか?
それとも個人のスキルなのだろうか…………調査が必要だな。
ディアにはひとまず私がカリプソ先生を注視するという事を伝え、その日は彼女とのお茶を楽しんで帰る事にした。
翌日からカリプソ先生に接触を試みる生活が始まり、この事が事態を大きく動かしていく事になるとは、この時は思ってもみなかったのだった。
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