第12話 覚醒
『このっ……!!』
ぶるんっ
『マジでっ……!!』
ぷるんっ
『っ…………!!!これならっ!!!』
ぷるるんっ
『はぁ…………っはぁ…………』
何度攻撃してもダメージが通ってる気配がない。どれだけ力を込めても跳ね返される。反撃こそされないが、倒せるイメージが出来ない。
こっちを一撃で片付けて、アイツらのとこに戻るって作戦だったはずなのに………いっそのことコイツは無視して帰るって手もあるか?攻撃がくる様子はないし、一般人の避難も済んでる。俺の足止めだけに用意された存在なら狙いはあっちのはずだ。だったら無視した方が…………
「!」
『なっ!?』
俺が意識を反らした瞬間、デザイアンは体から細い水鉄砲みたいなモノを発射し、コンクリートの道路に綺麗な穴を空けた。
『…………逃げるなって言いたいのね』
何も叫ばないくせに知能は高い。明らかに意思をもって動いている。俺が戻ればこれをばらまくぞという脅しのつもりなのだろう。
『皆に託すしかないか…………』
3人だって強くなってる。俺がコイツの倒し方が分かるまで持ちこたえてくれるはずだ。
『………お願い!!!』
ぷるぷると震えているだけのデザイアンに全速力で突っ込み、再び全力の蹴りを繰り出すのだった。
――――――――
「スカイっ…………!」
「……………………」
「……っアンバー!」
「……………………」
『ガッハッハ!!弱いなぁ!!死んじまったかぁ!?まだウォーミングアップも済んでねぇのによぉ!』
分かってた。
レイヴンがいなきゃ勝てないって。
それでも足止めくらいは出来るはずだって。
そう思ってた。
でも現実はそう上手くはいかなかった。スカイとアンバーがたった一撃で吹き飛ばされて、それから2人とも動く様子がない。私も立ってるだけで精一杯だ。
『…………分かったろ。オレ様と貴様らでは実力差が違いすぎる。死にたくなければ大人しくソイツを渡せ』
ディザイナーズはメッポを指差してそう言ってきた。
『メポ…………』
メッポは諦めてしまったのか、重たい足取りでディザイナーズの元へと向かっていった。
「渡さない!!!」
『メポっ!?』
『…………チッ』
俯いているメッポの前に立ち、私はディザイナーズにハッキリと宣言した。ディザイナーズはめんどくさそうに舌打ちをし、溜め息をついてイライラし始めた。
『…………貴様に関係ないだろ。そんなに死にたいのか?』
「死にたくない!!関係もある!!メッポは友達だもん!!」
怖くて震えてる体をなんとか気合いで支える。本当は痛くて、逃げ出したいけど、それでも私は勇気を振り絞って叫び続けた。
「私は友達を絶対に見捨てない!目の前で困ってる人を救いたい!あなた達みたいな悪い人に負けるわけなんてない!それに………」
魔法少女に初めてなったあの日。もちろんメッポの頼みを聞いたっていうのもあるけど、本当の理由はもう少し恥ずかしい。
小さい頃に私を助けてくれたヒーローが、デザイアンに襲われそうになって、私は彼を助けたくて、魔法少女になったんだ。
まだまだ恩返し出来てない。
あのバカで鈍感でナルシストな幼馴染みを今度は私が守ってあげたい。
マコトが…皆が住んでるこの街を、この世界を滅ぼさせたりなんてさせない。
だって…………
「まだ好きな人に告白してない!!だからこんなとこで負けるわけにはいかないの!!」
―――――――
あぁクッソ……イライラする…………
なんでこんなバカみたいなことしてんだ。
少し前まで街を守るだとか大層なことは考えてなかったのに。
何も出来ない俺にむしゃくしゃして、その気色悪い感情を発散したかったから意味わかんねぇ話に乗って、女にさせられて……
でも、頼られるのが心地よくて、強さを活かせるのが楽しくて、アイツが居る街を守ってるからって…………
それなのに……こんな敵の作戦にまんまと乗せられて、手玉に取られて、こんなふざけたヤツに苦戦して…………!!!
『「イライラするんだよ……」』
調子乗って街を襲ってるコイツらも……それに良いように弄ばれてる弱い俺にも……!
もっとだ。
もっと力が欲しい。
もっと…………もっとだ……
―――――――
『……くだらねぇ正義感だな。じゃあ死ね』
ディザイナーズが向かってくる。怖い。でも逃げたくない。でも死にたくない。でもレイヴンなら逃げない。マコトなら絶対に逃げない。
力が……
皆を守れる力が……
私にもっとそんな力があれば…………!!
どくんっ……
――――――
『………成った』
魔法少女達が戦っている街の遥か上空。黒いドレスのような服を身に纏った女がニヤリと微笑み、戦いの行方を俯瞰していた。
『さぁ見せてもらおうか。その力の片鱗を』
――――――
どっくん…………!
力を求めたその時、黒い魔法少女レイヴンの心臓が跳ねた。まるで心臓を直に掴まれてるような感覚。覚悟を試していると言わんばかりの痛みと嫌悪感。
だがレイヴンは躊躇うことはなかった。
レイヴンは自身の胸に手を当てると、迷いを捨てるため、覚悟を証明するために野太い叫び声を上げた。
『「いいから寄越せるもん全部寄越せ!」』
瞬間、レイヴンの体は光に包まれた。鮮やかなピンク色の輝きを放っていたその光は次第に黒く染まり、レイヴンを新しい姿へと変貌させていった。
フリルが特徴的だった可愛らしい服はロングスカートの漆黒のドレスとなり、黒を基調にしつつもピンク色の桜の花びらを模したかのような装飾が散りばめられている。靴はヒールへと変わったが、不思議と違和感はなかった。
『これは…………』
レイヴンは自身の身に起こったことに驚きつつも、すぐに思考を切り替えてデザイアンに右の手のひらを向けた。
『吹き飛べ』
そう淡々と呟くと、レイヴンの手のひらからピンクと黒の光が混ざった光弾が放たれ、デザイアンの体内へと吸い込まれた。
「!!!」
そして光弾は体内で炸裂し、デザイアンは内側から爆発四散した。飛び散った破片はすぐに光となり、残ったのは小さな小さな安物のスライムだけになったのだった。
―――――――
「……っ…フラ……ワー…………」
なんとか意識を取り戻したスカイがフラワーの名を呼ぶ。意識を失う瞬間、フラワーはまだ立っていて、立ち向かおうとしていた。早く助けなければ。そう思い、まだ無事であることを祈りつつ名前を呼んだのだ。
だが、未だに朦朧とする意識の中でスカイが目にしたのは信じられない光景だった。
『なに……っ!?ゴッ……!!?』
迫りくるディザイナーズの豪腕を片手で受け止めたかと思えば、黒い稲妻を纏いながら一瞬で懐に潜り込み、ディザイナーズの胴体の真ん中に向けてパンチを繰り出した。ディザイナーズは後方に大きく吹き飛び、その勢いのまま仰向けで地面に伏した。
「す……すごい…………」
スカイはその圧倒的な強さにありきたりな感想しか述べられなかった。だんだんと意識がハッキリとしていくにつれて、フラワーの姿が今までとは少し違うことにも気づいた。
服はピンクのドレスのような装いに変わっていたが、スカートが短く動きやすそうな印象を受ける。両手には黒い手袋のようなモノを着け、足にはゴツゴツとした黒のブーツを履いている。全身にバチバチと黒雷が迸り、まるでレイヴンを彷彿とさせるオーラを放っていた。
「フラワー……それって…………」
「あ、スカイ!良かったぁ……後で説明するから!今は動かないで!」
フラワーは安堵しつつもスカイにそう伝えると、立ち上がろうとしているディザイナーズにすぐに視線を戻し、己の覚悟を口にした。
「もう……私は負けないから」
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