第29話 星空に堕ちる
強い。
こうやって本性をさらけ出されて、ようやく実感できた。
この前のディザイナーズよりも格段に強い。魔力の量も質も桁違いだ。
戦いを挑まれたら今の私ですら勝てるかどうか……
『……どうした?質問があるんだろう?早くしてくれ』
「えぇそれはもうたっぷりと」
挑発するように手招きをしてくるデナさんに対し、私も強がって返す。凄まじい魔力を放ってはいるが殺気は感じない。どうやら話には応じてくれる気ではあるようだ。
「………きっかけは水族館に鴉谷くんと遊びに行った日です。その時にディザイナーズの襲撃を受け、私は新しい力に目覚めました」
『それで?』
「その後、貴女に関する違和感に気づきました。突然現れ、さも当たり前のように学校で暮らしている貴女からディザイナーズと同じような気配を感じるようになったんです」
『なるほど私がつまりそのディザイナーズであると?だったらどうする?この場で戦るか?』
「いえ。そのつもりはありませんでした。おそらく鴉谷くん関連であることは予想がつきましたし、なにより危害は加えてきていなかった。だから私もあくまで普通に接しようと思っていたのですが……今日、貴女がホノカさんに手を出したことで考えは変わりました」
ただ冷静に経緯を話す。きっと鴉谷くんの力に関係があるのだろうし、もしかしたらメッポの仲間のような存在かもしれない。だから私達の敵ではないと思いたかったのだけど、友達に手を出されたからには動かないわけにはいかない。そう思ってこの話し合いに持ち込んだのだ。
「教えてください。貴女は一体誰なんですか?そして私達の敵なんですか?それとも味方なんですか?」
『………貴様は思ってた以上に頭が回る。そして意志が強い。いいだろう。簡潔に教えてやる』
デナさんは心底めんどくさそうに溜め息をつき、まずは人差し指を立てて私の質問に答えてくれた。
『私の名はデゥカス・エクス・カルナ。貴様の推理通り
想定していたはずの答えを突きつけられ、私は後退りしてしまう。正直なところデナさんがボスだったらどれだけ良かったことか。デナさんがこれならボスはもっと強いということになる。しかも参謀……より戦闘に特化しているメンバーもいる可能性があるということだ。
そんなデナさんは淡々と中指を立て、次の質問に答えてくれた。
『次に貴様らの敵かどうかという話についてだが……どちらでもない。私はマコトの味方であり、貴様らの仲間ではない』
「鴉谷くんに力を与えて何が目的なんですか」
『質問が多いな……まぁその答えも至ってシンプルだ』
デナさんは数多の星が輝いている夜空を見上げ、真剣な声色で語った。
『私の故郷を滅ぼしたディザイナーズを…その首領であるゼッドを潰す。私はそのためにここまでやってきたのだから』
「故郷を………」
『……少し長くなるぞ』
曰く、デナさんの故郷はディザイナーズの侵略によって侵略を受けた。理由はその地に眠る強大な力を得るため。デナさんは復讐のためにとディザイナーズに自ら入り込み、今の立場にまで上り詰めたと。幾度となくチャンスを伺っていた時にこの世界で偶然鴉谷くんに出会い、私達を参考にして魔法少女に似た力を与えた。ディザイナーズへの理由は実験と称して行っているらしく、なんとか裏切りだとはバレないように秘密裏に彼と…ついでに私達を鍛えているのだとか。
『というわけだ。理解してくれたかな?』
「…………なんとなくは」
つまり敵の敵は味方であるようなもので、デナさんは私達にとっては敵ではない。そういうことらしい。それでもどこか引っかかる点も多いが、デナさんや鴉谷くんが現れてから私達が強くなったのも事実。私達だけでは首領だけでなく、岩男のようなディザイナーズにすら勝てなかっただろう。
『……こちらからも質問をいいかな?』
「はい。どうぞ」
話し終えたデナさんは今度は私に向けて人差し指を突きつけると、心配するような声で尋ねてきた。
『その体……かなりの無理をして動かしているだろう?』
「っ……そんなことも分かるんですね」
『当たり前だ。概ね魔法の力だろう。戦う代わりに病を治してやるとでも言われたのか?』
「いえ……そこまでは。ですが負担を軽減してくれるとは」
『やはりそうか。では思ったことはないか?魔法なんだから病くらい治せないものかと』
「…………何が言いたいのですか?」
まるで何かを疑っているかのような口振り。病気の件に関してはもちろん最初にメッポさんから提案された時に思いはしたが、そういうものなのだろうと流した話だ。私が病気であることも見抜き、魔法で体を動かしていることも気付いていてわざわざこの話題をするということは……
『つまり貴様はあの白狐に命を握られているのも同義というわけだ。魔法少女として戦わないと決めたのなら……その時はどうなるのだろうな』
「…メッポさんはそんな方ではありません」
『分からんぞ。あの手合いが一番怪しい』
確かに漫画やアニメだったら実は味方だと思っていた相手が、というのはあるあるな話だ。だけどメッポさんに限ってそんなまさか……
『私なら完全に治してやる。その代わりに私の復讐へと力を貸してもらうがな』
メッポさんについて考えている私にデナさんはそんな交渉を持ちかけてきた。あまりにも甘美な誘いに私の心は大きく揺らいだ。この病気が完治すればもっと生きられる。ホノカさん達とも、お父様やお母様とも。そしてもちろんセバスとも。
私は……
「お断りします」
『……そうか。残念だ』
確かにメッポさんの事情を詳しく知らないし、その可能性も無いわけではない。だが胡散臭いという話をするのであらばデナさんの方がよっぽど信じられない。もしその時が来たとしても……セバスに伝えたいことも伝えたし、今が充分満たされているから怖くない。
『貴様の意志の強さには呆れるな。だが忠告はしたぞ。私のことを疑ってもいいが、あの白狐のことも信用しすぎるなよ』
「……えぇ。肝に銘じておきます」
話すことは話したと別荘の方へと帰っていくデナさん。振り向き様にチラリと見えた頬は少し緩んでおり、底知れない何かを感じさせるには充分だった。
私は知ってしまった事実を抱えながらも、未だに連絡がつかないセバスの元へと急ぐのだった。
――――――――
「鴉谷ってば……まだ来ないの……」
ミアに教えてもらった星が一番綺麗に見える場所だという別荘の裏山のてっぺんにまで来ていた。そこに置いてあったベンチに座り、綺麗な夜空を眺めながら呟く。鴉谷なら来てくれるって信じてたのに現れる気配がない。ちゃんと手紙を書いて、部屋にこっそりと入れておいたのに。
「もぅ…私のことが好きなんでしょ……」
好きなんだから告白してくるべき。私だってそれとなくアピールしてるのに。雑誌を読んで星のことだって勉強して、どれが夏の大三角なのかも分かるんだから。折角教えてあげようと思ったのに……
「あーーーーもーーー」
昼間から元気が有り余って仕方がない。ずっと泳いだり走ったりしてたのに疲れる気もしない。それどころか鴉谷を見るたびに元気が溢れてくる。
もしかしてこれが恋?この胸を締め付けるような痛みが恋???いやいやいや私が鴉谷に恋するわけがない。鴉谷が私を好きなのは当然として、私があんな不良モドキに恋するわけが…
「あれ……」
ふと体が動いた。何かに突き動かされるように足が動き、吸い寄せられる。山のてっぺんというだけあって空だけでなく海岸までよく見渡せる。そしてそんな海岸の隅で話している男女2人の姿もどういうわけだかハッキリと見えてしまう。
すごい距離があるはずなのに誰だか分かる。間違いなく鴉谷とホノカ。なんだか真剣な話をしている。
ズルい。
ズルいズルいズルいズルいズルいズルい!
私との約束を無視して、ホノカと話をして、私なんかどうでもいいってこと?
私のことが好きなくせに。スカイのことが好きなくせに。
あ、そっか。だったら鴉谷に見せてあげればいいんだ。
「……
鴉谷はきっと強い女性が好き。だから私が好き。スカイが好き。
「待ってなさい鴉谷。分からせてあげるから」
ホノカより私が強いんだってことを。
4人目の黒い魔法少女の正体が俺の幼馴染みにバレるまで @HaLu_
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