第30話 気持ちのぶつけ合い
貸し切りのビーチで遊びに遊んだ日の夜。俺はホノカとの約束を果たすために暗くなった砂浜へと向かって歩いていた。本当ならもっと早く話しておくべきだったのだがタイミングが掴めなかった。それに直接じゃないと出来ないこともある。
『待つんだマコト』
「……その姿もなんか久々だな」
道中。黒猫姿のデナに呼び止められた。出来ればバレたくなかったのだが一筋縄ではいかないらしい。そんなデナはいつもより真剣なトーンで俺の脳に直接語りかけてきた。
『もしやと思うが正体を明かすつもりではないだろうな』
「まさか」
そうして聞いてくるということは俺が正体を明かすとやましいことがあると言っているようなものだ。ミアとの水族館での一件を聞いた時にも怪訝そうな顔をしていた。
「疑うならそこら辺で見てろよ」
『……いや。生憎と私も用事があってな。マコトの言うことを信じるとしよう』
「あっそ」
言いたいことが終わったのかデナは一瞬でその場から姿を消した。俺は念のために辺りを見回して確認し、ホノカとの約束の場所へと改めて歩き出した。
無駄に広い砂浜の端の岩陰。ここなら誰にも見られないだろうと決めた場所には既にホノカが居て下を向いてソワソワとしていた。
「よっ」
「ひゃい!!」
俺が来たことにも気づいていなかったようなので軽く声をかけると、ホノカはビクリとその場で跳び跳ねて返事をした。
「いやビビりすぎだろ」
「ううううっさいなぁ!」
顔を真っ赤にし、夜とは思えないほどの声量で叫ばれる。うるさいのはそっちだろ。慌ててるホノカでもう少し遊んでやろうかと思ったがあまり時間をかける話でもない。デナとの件もあるしサクッと終わらせよう。
「……お前さ、俺に隠してることないか?」
「へっ!!?」
正直薄々察してはいる。セリナがスカイでミアがアンバー。となれば一緒にいるホノカがフラワーと言われても不思議ではない。素直に話してくれるとは思っていないが…それでも聞いておきたかった。
しかし………
「………っ…マコトだって隠してるくせに」
「……は?」
「マコトだって隠してることあるでしょ!ミアちゃんとこそこそ話ばっかりして!」
「なんで急に怒んだよ……」
「怒るよ!乙女心を踏みにじって!私達なんてただの幼馴染みじゃん!言えない秘密くらいあるよ!」
どことなく機嫌が良さそうに見えたのに怒り出してしまったホノカ。これだから女はめんどくさい。乙女心とか男なんだから分かるわけないだろ。
「教えてほしかったらマコトの秘密から喋ってよ!あるでしょ!ひとつやふたつ!ベッドの下のえっちな本とか!」
「なっ!?お前いつの間に!?」
「あんなとこに隠してある人が悪いんですぅ!」
「勝手に部屋に入ってんじゃねぇよ!てかもうバレてんならそっちの話しろよ!」
「嫌でーす!」
大事な隠し事の話をしていたはずなのにしょうもない言い合いに発展してしまった。すぐに終わらせたかったのに俺も俺でヒートアップしてしまう。こうなったホノカは本当に折れない。だけど俺だって折れたくない。こちとら秘蔵のお宝の場所をバレてるんだ。引き下がるもんか。
「ほら白状しろ!デナさんとはどういう関係なんだ!」
「だからアイツとはなんもねぇって!」
「おっぱい見てた!」
「っ…………男だから仕方ないだろうが!」
「「このっ……!!!」」
バッシャァァァァアン
「「…………え?」」
くだらない口喧嘩になり、話の方向性がブレまくっていると海の方から空から物体が落ちてきたような爆音と、自然ではありえないような大きな水柱があがった。
突然の事態に俺とホノカはふたりで固まってしまう。するとどこからか怒りを感じる声が聞こえてきた。
「鴉谷ってば………私との約束を無視して…ホノカとばっかりイチャイチャして……」
「え、セリナちゃん!?どこ!?」
声の主は美空なのだが、辺りを見回しても誰も見当たらない。というか美空との約束ってなんだ。そんなことしてないんだが。
「ホノカ……いえフラワー!私とここで勝負しなさい!!!」
「ひぇっ!!?急に何言ってるのセリナちゃん!?違うよマコト!!?違うからね!?」
「………そんなことより多分ヤバイぞ」
「なんでそんな冷静なの!?」
美空からフラワーと呼ばれ、必死に誤魔化すホノカ。俺だってその事実に驚いてはいるが、今はそれよりも空で悠々と浮いてる存在が放つ威圧感の方が危険だと本能が訴えていた。
「……どうしたスカイ。イメチェンか?」
「イメチェン?そんなつもりはないけど……でもね、力が溢れてくるの。なんだか今ならなんでも出来そう。そんな気がする」
上空に浮いているスカイはいつもの姿ではなかった。明るい青色だった服や長い髪には黒が混じり、至るところに星のような輝きが散りばめられていた。その青黒い姿はまるで宇宙のようにも見えて、上空の星空に溶け込んでいた。
「ほら早く変身しなよホノカ。それとも変身しなくても私になら勝てるとでも?」
「いやだからっ…私はフラワーじゃ………」
「そう。なら………」
つまらなそうに呟いたスカイは空に右の掌を掲げ、その腕を力強くこちらに振り下ろした。そして次の瞬間、夜空に浮かぶ星の1つが青く輝いたかと思えば俺達の背後の砂浜に何かが着弾した。あまりに一瞬の出来事で一歩も動くことはできず、恐る恐る背後を振り返るとそこには人間の頭1つ分ほどの星型の穴がくっきりと空いていた。
「次は当てるから」
「っ………マコト。早く逃げて。巻き込まれちゃう」
「……良いんだな?」
「…………クラスの皆には内緒だよ」
覚悟を決めたホノカの眼差しを見て俺は一旦その場を離れることにした。俺がほどよく離れた事を確認したホノカは大きく深呼吸をすると上空のスカイに対して叫び声をあげた。
「一応聞くけど!どういうつもり!」
「……言ったでしょ。勝負だって。私の方が強いって証明するの」
「いや全然分かんない!分かんないけど……スカイがそのつもりなら応えてあげる!
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