第2話 戦いの翌日
学校がバケモノに襲われた翌日だというのに、当然のように休みになんてならず授業を受けなければならなかった。というのも昨日の戦いの跡は綺麗さっぱり無くなっていたからだ。便利なこった。
昨日は休んでいたホノカも元気に登校してきており、クラスの雰囲気も一気に明るくなった。それだけなら良かったのだがクラス……いやこの街そのものがとある話題で持ちきりだった。
『4人目の魔法少女が現れた!今度は黒!』
昨日までの敗戦ムードはどこへやら。朝のニュースだろうが電車の中だろうが教室だろうがこの話題しか話してなかった。
そんな日の昼休み。俺はいつものように屋上に訪れていた。だが今日は昼寝の為ではない。別の目的のためだ。
「おい猫!出てこい!」
シーン……………………
「…………チッ」
声をかけてみるが反応はない。俺は軽く舌打ちをしつつ、屋上に寝転がりながら昨日俺の身に起こった大事件について考えることにした。
あの時、黒猫の交渉にのると決めた瞬間に不気味としか表現出来ない何かが体に入り込んでくる感覚に襲われた。実際には1秒にも満たなかったその感覚は、体感では1分程度に思えた。
そしてその感覚が消えたあと、俺はすぐに自分の体の異変に気づいた。
あったものが消え、無かったものが増えていたのだ。
当然ながら俺はその異変について黒猫に聞こうとしたのだが……
「なんだよコレ!?…っあぁ!?」
『なんですかコレ。……え?』
発したはずの言葉と実際に俺の耳に聞こえてきた言葉が違う。声も女みたいな声になっていて俺の頭はこんがらがっていた。
すると黒猫は端的にあの時の俺の状態について説明してくれた。
『その姿は魔法少女さ。あの子達と同じね。喋り方については自動翻訳つきだ。親切だろう?』
ツッコミたいことは山ほどあったが、そんなことは後回しにして俺はバケモノを倒すために屋上のフェンスを飛び越えるためにジャンプした。すると普通の人間ではあり得ない高さの跳躍をし、俺はその高さを生かしたままバケモノに向かって一直線にキックをお見舞いしてやったのだ。
その後、青い少女に素性を尋ねられたが俺は答えることは出来ず、咄嗟に黒猫の言っていた「魔法少女」という単語を借りることにした。そして深く追及される前に全力でジャンプし、コッソリと屋上に帰ったのだった。
だが帰った時には既に黒猫はおらず、俺の姿もすぐに男に戻ってくれた。
というのが昨日までの話。なので今日、俺は黒猫に話を聞くために屋上にやってきたというわけだ。
それなのに肝心の黒猫が現れない。今日は諦めて昼寝でもしようかとすると、またしても声が直接脳内に聞こえてきた。
『私をお探しかな?』
「……そうだよ」
妖艶な女の声が聞こえてきたかと思えば俺の腹の上に黒猫が乗っかっていた。絶対に数秒前までは居なかった場所に何かがいることに若干の恐怖は覚えつつも、俺は黒猫を問いただした。
「説明してもらおうか。昨日のアレ」
『ふむ……必要か?』
「当たり前だろふざけんな」
『せっかちだね。そんなんじゃモテないよ』
「…………うるっせぇ」
黒猫は首を左右に振ると、俺の腹の上で本当の猫みたいに丸まって可愛げのない声で話しかけてきた。
『昨日も言ったが、アレは魔法少女だ。それ以上でもそれ以下でもない。魔法少女だから女の子の姿になったのさ』
「……じゃあお前は何者なんだよ」
『私か?そんなことも知らないのか無知な奴め。魔法少女の側には必ず精霊がいると決まっている。もちろんあの3人にもね』
そういえば昔ホノカに見させられたアニメにもそんなのいたな。ということは俺はあの3人と同じ力を手にしたのだろうか。それにしては明らかにパワーが違いすぎる気がするんだが。
「お前は特別な精霊……ってやつなのか?」
『いいや違う。彼女達の精霊は力を三等分しているようなモノなのさ。だから個人個人の出力の上限がある。でも君は1人だ。1人なら発揮できる力も多くなるのも必然だ』
「出力ねぇ……」
駄目だ話を聞けば聞くほど知らない情報が出てきて終わる気配がない。聞いてもねぇこと喋りすぎだろコイツ。
『………なんだもう飽きたのか?』
「……そうだな。悪いけど授業聞くのすら億劫な人間なんでな」
『ふむ。では最後に力の使い方だけでも教えておいてやろう。魔法少女の力の本質は【
「便利なもんだな」
『いいやそうでもない。この力はプラスにもマイナスにも作用する。昨日の彼女達の戦いなんてまさにそうだ。常に負けるイメージを持って戦い続ければ自ずと魔力は弱まるというわけさ』
「なるほどねぇ……」
色々と話してくれた黒猫はムクリと体を起こすと、『最後に』と大事なことを伝えてきた。
『私の名前は【デナ】だ。間違っても黒猫なんて呼ぶんじゃないぞ』
「……デナね。へいへい」
『これからもよろしく頼むよ。マコト』
俺の方からは自己紹介はしていないはずなのだが、デナは俺の下の名前を呼びながら姿を消したのだった。まぁこんなことが出来るんだ。名前くらいチョロいもんなのだろう。
やっと小難しい話が終わり、時間もまだあるので昼寝しようとすると、今度は屋上の扉が開いた。
「………終わった?」
「………………いつからいた」
「うーんと、少し前から」
屋上の扉を開けて現れたのは幼馴染みの花咲ホノカ。ピンク色の長くもなく短くもない髪。家が隣同士なだけのそれだけの女だ。
そんなことより、今の口ぶりからしてまさかさっきまでの会話を聞かれていたのだろうか。変なことはあまり言ってないとは思うが……それでも確認はしておくべきだろう。
「……盗み聞きしてたのか?」
「いやいやいや!なんか話してるなーって思って待ってただけだよ!」
「……じゃあなにしにきた」
「それは………昨日大丈夫だったのかなぁって…ほら学校が襲われたらしいじゃん?」
こちらへと歩きながら俺の心配をするホノカ。俺にしてみれば昨日学校を休むほどの怪我をしていた奴が来ている方が不思議でしょうがない。
「俺は平気だよ。お前こそ日曜に巻き込まれたんじゃねぇのかよ」
「えっ……あぁうん!でも平気!この通りピンピンしてます!いやぁ軽い打撲くらいだったのにお母さんに止められちゃってさぁ…もう高校生なのにね!」
「ふーん……」
身振り手振りがいつもよりうるさい。ということは嘘だ。きっと今も無理して学校に来ているのだろう。本当にバカな奴だ。
「えーっと…………あ、てかさ!誰と話してたの!もしかして彼女!?」
「ちげぇよ」
「照れんなよー!通話してたんだろー!幼馴染みにも紹介してよー!」
「してねぇって……揺らすな!寝にくい!」
自分の嘘を誤魔化すために俺に必要以上に絡んでくるホノカ。そんなホノカに対して俺も嘘をついていつも通りあしらった。そうして結局この日の昼休みは一睡も出来ないまま、午後の授業に臨む羽目になったのだった。
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