4人目の黒い魔法少女の正体が俺の幼馴染みにバレるまで

@HaLu_

第1話 黒の魔法少女


 事の始まりは今から2ヶ月ほど前に遡る。


 何の変哲もない、平穏だったはずのこの街に謎のバケモノが現れた。車に腕と足が生えたようなよく分からない姿のバケモノが街で暴れ回っていた。現場に居合わせた俺はどうすることも出来ず、逃げようとした矢先にバケモノの前に1人の少女が立ちはだかった。


 体格からして高校生くらいの少女の見た目はピンク色のツインテールにピンク色を基調としたフリルが満載の子供じみた洋服。普通ならコスプレか何かかと思うだろうが、その少女は確かに宙に浮いていた。そして危なげもなくバケモノを倒し、群衆の目から逃げるようにどこかへと姿を消した。


 その日からというもの、度々街にはバケモノが現れるようになった。しかしその度にピンク髪の少女が撃退し、人々を守っていた。いつの間にか青髪の少女が味方に増え、最近では黄色の少女を見るようになった。


 バケモノが現れ、3人の謎の少女達が倒す。この流れが当たり前になり、新しい日常となりつつあったのが昨日までの話。この不可思議な日常は、一瞬にして破壊されてしまうことになる。



 少女達は昨日、初めて敗北した。



 昨日現れたバケモノはいつもよりも数段大きく、これまでに出てきた無機物に手足が生えただけのような姿ではなかった。例えるならば鉄の巨人。純粋な暴力と圧倒的な固さになす術もなく押されている少女達が昨日の夕方のニュース番組で報道されていた。追い詰められた少女達だったが、鉄の巨人が急に止まり姿を消したことでトドメを刺されることはなかった。


 結果だけ見れば撃退したのだから勝ちかもしれない。だが、少なくとも俺はそうとは思えなかった。もしもう一度あのバケモノがやってきたら勝てる見込みはあるのだろうか。負けてしまったらこの街はどうなるのか。そう思わずにはいられなかった。




 そして今日。昨日の少女達の事実上の敗北はただでさえどんよりしている月曜日の教室の雰囲気を更に悪化させていた。

 俺の幼馴染みで、クラスのムードメーカー的存在でもある「花咲はなさきホノカ」がいないことも空気を重くしている原因だ。担任が言うには昨日の戦いに巻き込まれて怪我したらしい。どうせまた誰かを助けようとしていたのだろう。そんなので自分が怪我をしたら元も子もないってのに。




「どうなるんだろうなぁ………」


 昼休み。通っている高校の屋上で俺は他人事みたいなことを呟きながら寝転がっていた。

 俺の名前は「鴉谷からすやマコト」。少し目付きが悪くて体がゴツいだけの高校2年生。自分で言うのもアレだが典型的なヤンキーってやつだ。そのせいで教室で完全に浮いており、友人なんてものはおろか俺と話そうとする奴なんてホノカくらいしかいない。


 そんな俺の絶好の昼寝スポットである屋上で春の暖かな日差しを全身に浴びていると、突然校庭の方から重々しい物体が墜落したような音と共に生徒の悲鳴が聞こえてきた。



「ヒレフセェェェエ!!!」


「っ!!?」


 屋上にまで届くほどの爆音。その声を聞いた俺は急いで起き上がり、屋上のフェンス越しに校庭を見た。するとそこには昨日のニュース番組で少女達を追い詰めていた鉄の巨人が昨日よりも大きく、そして紫の輝きを放ちながら叫んでいた。


「なんで昨日の今日で………」


 いつもならバケモノ達が現れるのは一週間前後の間隔があるのが基本だった。それがアイツは2日連続で街を襲いに来た。やはり倒せていないのが原因なのだろうか。


 何はともあれここも危険だ。そう思いすぐに屋上から降りて逃げようとしたのだが、俺がフェンスから離れるのよりも早くバケモノに向かって2色の光が向かっていった。


 青と黄色の光はバケモノにぶつかったものの、あっさり弾き返されてしまった。その光の正体は例の少女達だったが、今日は1人足らないようだった。


 リーダー的存在でもあるだろうピンク色の少女が居ない。まさか昨日の戦いで動けなくなってしまったのではないか。3対1で勝てなかったのに2人で勝てるわけなんてない。

 

 そんな俺の後ろ向きな考えとは裏腹に、果敢にも彼女達はバケモノに立ち向かっていた。だが彼女達も疲労は溜まっているのだろう。明らかにいつもよりも動きが鈍い。それに対してバケモノは機敏でパワーも桁違い。戦いというより蹂躙だ。


 俺はその戦いを黙って見ていることしか出来なかった。逃げなければならないはずなのに足が動かない。

 半ば諦めているのだ。ここで少女達が負けてしまえば逃げても意味はないと。

 そして逃げることしか出来ない自分の無力さを少しでも誤魔化したいがために「俺だったらもっとこうするのに」と彼女達の戦い方を見ながら彼女達よりも弱いくせに考えていた。



 俺にもっと力があれば。


 バカ同士での喧嘩に勝ったとしてもこんな時に動けないんじゃ意味がない。初めてバケモノに会った時も立ち向かおうとすら出来なかった。


 目の前で勇敢に立ち向かっている少女達がいるのに、俺はこんなところで頭を悩ませているだけ。


 カッコ悪いなんてもんじゃない。




 俺にもっと……あんなバケモノを倒せるだけの力があれば…………っ!





『力が欲しいのか?』


 沸き上がる怒りのままに屋上のフェンスの金網を握りしめていた俺の脳内に妖艶な女の声が流れ込んできた。驚いて振り返ってみても誰もいない。幻聴かと思ったその時、俺の足元に真っ黒な猫のような生き物がいた。


『灯台もと暗しってやつだ。勉強になったろ』


「………んだよテメエは」


 猫といっても猫のような見た目をしているだけだ。全身真っ黒でフォルムだけなら猫そのものだが、顔はのっぺりとしており鼻や口すらない。目の部分には丸くて真っ赤な円が2つ並んでいるだけで細かな造形は本物の猫には程遠い。


『今から自己紹介をしてやってもいいが…そんなにのんびりしていても良いのか?あの子達が死ぬぞ?』


 俺を試しているような物言いで選択を急かしてくる。校庭の方に再び目をやると、少女達は地面に伏せ、バケモノがトドメと言わんばかりに大木のような両腕を振りかぶっていた。


 その光景を見てしまい、最悪の結末が頭によぎった俺はすぐさま猫に視線を戻し、全力で叫んだ。


「寄越せっ!!!」


『……では契約成立だ』




 ――――――――




「アンバー……はやくっ…動いて………!」


「私のことは気にしないで……っ…スカイだけでも…………」


 地に伏せ動けなくなった黄色の魔法少女「アンバー」を庇うようため、青色の魔法少女「スカイ」はなんとか立ち上がろうとしていた。だが昨日の戦いのせいで既に体力も魔力も空っぽ。何度力を込めても互いに体を起こすことすら不可能だった。


 そんな2人の魔法少女に対して巨人のような姿をしている「デザイアン」は両腕に膨大な魔力を込め、情け容赦なく叩き潰そうとしていた。


「っ……ごめんフラワー………」


 スカイの悲痛な叫びは誰にも届くことはなく、2つの正義の光はそのまま消え去るはずだった。



 だがその時、遥か上空で雷鳴が轟いた。


 その場に居合わせた全員が耳をつんざくような音に驚き、空を見上げた瞬間。空から一筋の漆黒の稲妻がデザイアンに向かって落ち、鋼鉄の胴体を一撃で貫いたのだった。


「ヒレッ……フ……………」


 胴体を貫かれたデザイアンの体は瞬く間に瓦解した。崩れていく体は次々と紫の光になって消え失せ、先程まで立っていたはずの場所には綺麗なブリキのおもちゃが転がっていた。



 そして稲妻が落ちた先には1人の『少女』が居た。だが少女というには背が高く、髪も真っ黒で綺麗な長髪。スカイやアンバー達と似たようなコスチュームだが彼女達のド派手な色使いとは違って黒を基調としており、その後ろ姿だけでも圧倒的な強者であることは誰の目にも明らかだった。


「あ、あなたは………?」


 未だに状況を飲み込めないスカイだったが、なんとか今の感情を言葉にした。すると黒い魔法少女はゆっくりとスカイ達の方へと振り返り、淡々と告げた。



『私は……魔法少女だ』

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