第27話 夏の暑さに浮かれて


 二泊三日用の荷物を部屋に片付け終え、俺は別荘のリビングルームへとやってきた。デナと相部屋をする予定だったのだがホノカと美空の抗議によって俺は一人部屋になった。というか宝来以外は一人部屋だ。アイツはしれっと執事さんと一緒の部屋らしい。それはそれで色々と問題があると思うんだけどなぁ。


「「あっ」」


 リビングには既に美空が居て、何やら雑誌を読んでいた。しかし俺と目があった瞬間にソレを隠し、下手くそ口笛を吹きながら誤魔化し始めた。


「な、なんのよう??」


「何の用って……集合場所だろ」


「………そっか」


「おう」



 適当に返事していたら完全に会話が途切れてしまった。美空はどこか気まずそうにしているが俺も俺ですごく気まずい。美空から自分がどう思われてるのかを知ってしまったせいで変に意識してしまう。それを解決するために宝来を頼ったはずなのに何の成果も得られなかった。それどころか宝来はニヤニヤしているだけ。他人事だと思って楽しんでやがる。



「………………星さ、綺麗なんだって。ミアが言ってた」


「星?」


 重たい空気をどうしたものかと悩んでいると美空がなんとも女子らしい話を振ってきた。確かにこんな自然に囲まれてれば綺麗には見えるだろう。


「……だからさ、もし鴉谷がどうしてもって言うならさ、私が着いていってあげないこともないよ」


「いやなんでそうなんだよ」


「え、だって……鴉谷は見たいかなぁって…………」


「なるほど。夜は怖いから着いてきてほしいと」


「そうは言ってないでしょ!?」


 遠回しに誘われてるのはなんとなく分かったが、そんな誘いに乗ってやるほど俺も甘くない。それに着いていこうものならそういう雰囲気になるのが確定してるみたいなもんだ。


「私はただ!鴉谷がどうしてもって頭を下げるなら着いていってあげてもいいってだけで!」


「うるさい離れろ……」


 急にソファから立ち上がったかと思えば俺の両肩を掴んでぐわんぐわんと揺らしてくる美空。俺がそんな美空を引き剥がそうと腕を掴むと、美空は顔を赤くして叫んできた。


「っ……つ、ついに正体を現したわね!」


「めんどくせぇ女……」


「はぁっ!!?」


 あまりにめんどくさすぎて心の声が漏れてしまい、怒った美空に更に詰め寄られる。そういうところがめんどくさいって言ってるんだが………


「……仲良いねふたりとも」


「えっ……いや!こんな男と仲が良いわけないじゃん!私はただホノカのために……」


 俺と美空が喧嘩しているとリビングへとやってきたホノカが暗い声で話しかけてきた。そんなホノカに美空は意味不明な言い訳をしていたが、どこか目が虚ろなホノカは下手くそな笑顔で返した。


「マコトに私以外の友達が出来て良かった」


「だからっ……友達ですらないって!」


「おやおや~。どうされたんですか~?」


 俺がホノカと美空の間に流れ始めていた不穏な空気を感じ取っていると、能天気な声色の宝来と執事さんがやってきた。


「どうもしてないよ!大丈夫!さ、行こ!」


 宝来が登場した瞬間にホノカは明るい笑顔に戻り、我先にと玄関の方へと走っていった。今の笑顔に変なところはなく、昔から見てきていたホノカの顔だった。無理してるという印象もない。とするならば先程の不気味な雰囲気の方が勘違いだったのだろうか。そんな色んな考えを巡らせながらも俺は目的の海水浴へと向かうことにしたのだった。




「ちょっと鴉谷!こっち見すぎ!」


「……いや見てねぇよ」


 海水浴ということは当然水着に着替えるわけで、俺は水着姿の美空に絡まれていた。


「いいや見てた!この変態!」


「誰がお前の水着なんて見るかよ」


「なんですってぇ!!?」


 青いビキニを着ている美空が俺の視線が気になると言いがかりをつけてきた。ちなみに美空の胸はホノカに比べればそこそこ大きい。それなのにこんな見てくださいと言わんばかりのビキニなんて着られたら見ない方がおかしいだろ。

 だがこれ以上絡まれるのもめんどくさい。そう思って視線を横にズラすと、日傘を差して執事さんと話していた宝来と目があった。宝来は相変わらず細い体で、全身を覆うタイプの黄色の水着だった。露出も少なく平たさが安心すら覚える。どっかの馬鹿に見習ってほしいものだ。


「…………減給です~」


「は!!?」


「ざまぁないわね!」


 宝来はそっぽを向き、執事さんからは睨まれてしまった。その様子を見ていた美空から嘲笑われた俺は美空に何か言い返してしてやろうとしたのだが、それよりも先にホノカが俺の元へとやってきた。


「ねえマコト。この水着かわいい?」


「……んだよ急に」


「いいから。かわいい?」


 やけに積極的なホノカに迫られ、マジマジと眺めてみる。上下ともにフリルが着いているピンク色の水着で、美空に比べれば露出は少ない。だけどなんかこう……妙に色っぽく感じる。ホノカなはずなのにホノカじゃない気がする。


「ほーら。かわいいでしょ?」


「…………なんかおかしいぞお前」


「え?どこが?似合ってないってこと?」


「水着はともかく、お前だよお前」


「私………?」


 普段とは少し違うホノカに違和感を覚え、本人に伝えることにした。するとホノカは不思議そうな表情で首をかしげた。この解放感でテンションがおかしなことになっているだけなら良いのだが、何やらそれだけではない気がしてしまう。


「マコトーーー」


「っ!!?!?」


 そんなやり取りの最中、デナの能天気な声と共に俺の背中に柔らかくて大きな感触が乗っかってきた。デナも水着になっているせいで普段よりも肌の感触がダイレクトで伝わり、その感触のせいで真面目な考察は全部吹き飛んでしまって馬鹿な事しか考えられなくなった。


「マコトーーー。早く泳ごーーー」


「分かっ……分かったから!とりあえず離れろ!」


 嘘の胸部であることは理解していたとしてもこのスキンシップに耐えられるのかどうかは別であり、健全な男子にとっては真っ直ぐに立っていられなくなるほどの拷問なのであった。

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