第19話 大雨の後には

「覚悟なさいデザイアン!私が……この魔法少女スカイが!相手をしてあげる!」


 雨に打たれながらもデザイアンに真正面から対峙し、堂々と名乗っているスカイ。俺はとりあえず駅の方まで逃げて状況を必死に整理していた。


 美空が突然「内緒よ」とかなんとか言ったかと思えば見たことある姿へと変身してみせた。今も消防車のデザイアンと戦闘を続けている。


 信じられないしあまり信じたくもない。あの美空が魔法少女だったなんて。でも思い返してみればどことなく言動も似てたような気がしてくる。ホノカや宝来はこの事を知ってるのだろうか。だとすればまさかあのふたりも……


「これで終わりよ!」


 俺が悩んでいる間に戦いは終盤に差し掛かっていた。スカイがいつもよりも巨大な弓を作りだしデザイアンに向けて魔法の矢を放った。矢はデザイアンの体を貫き、これといった苦戦なんてすることもなく元の消防車へと戻った。


「よし………あ、大丈夫!?」


 戦闘を終えたスカイは俺の元へとやってきた。確かに改めて見てみると美空にしか見えない。俺はとりあえずスカイに頭を下げ、感謝を述べた。


「ありがとう。助かったよ」


「……ど、どういたしまして」


 スカイはどこかソワソワしていたかと思えば急に胸を張ってドヤ顔を披露しだした。


「どうかしら!!私の活躍ぶりは!」


「……ありがとう」


「あ、握手とかしてあげてもいいんだけど!」


「それは別にいいかな」


「なんでよ!?」


 中身を知らなければ握手くらいしたかもしれないが、知人が魔法少女でしたーとなれば何故か握手をする気がなくなってくる。しかも美空って。世の中とは思ってるより狭いらしい。


「スカイー!無事ー!?」


 そうして俺達が無駄な問答をしているとようやくフラワーとアンバーがやってきた。丁度いい機会だし正体を尋ねてみようと考えていると、突然横から抱きつかれた。


「マコトー」


「デナっ!?お前どっから……」


「なっ……貴女は!!」


 先に帰ったはずのデナが俺の腕に豊満な胸を押し付けるように抱きついてくる。だがこんな可変式の胸に興奮するほど俺もガキじゃない。興奮なんてしないから引き剥がす必要もない。ただのスキンシップだからな。


「ちょっと!ふたりともこんな公衆の場で…」


「帰ろーマコトー」


 そんな俺とデナをなんとか離そうとしてくるスカイ。だがデナはそんなのお構いなしに俺を改札の方へと連れていくのだった。


 スカイ達から離れ、周辺の復旧作業が始まったのを確認して、俺はデナの思惑について聞いてみた。


「何が目的だ?」


「何が、というのは?」


「もう少しでアイツらから色々聞けたってのによ」


「………そんなこと聞いて何になる。無駄な情報は判断を鈍らせるだけだ」


「そりゃ……そうかもしれねぇけどよ」


 デナの言ってることは分かる気もする。現にスカイの正体を知ってしまってこれからどう接していこうかと悩んでいる。変なボロを出して俺の正体までバレたらたまったもんじゃない。


「さぁ帰ろうマコト。家族が待ってるぞ」


「…………おう」


 妙に急かしてくるデナ。こういう時のコイツは何かを隠している。だが聞いても無駄なのも分かってる。スカイのことは気になるがとりあえず今はデナに従っておくのが無難だろうと考え、俺はデナと共に帰路に着いたのだった。



 ――――――――



「ごめんなさいふたりとも!鴉谷にバレちゃった!」


 駅前の修復を終え、私達はホノカの部屋に集まって緊急会議を開いていた。議題はもちろん鴉谷について。それを聞いたホノカとミアは少し驚きつつも、怒ったりはしなかった。


「仕方ないよセリナちゃん!むしろマコトを助けてくれてありがとう!」


「そうですよ~仕方なかったんですから~」


「で、でも…………」


 私が罪悪感を感じている理由はバレたからだけではなく、鴉谷にアピールするためという邪な気持ちも確かにあったからだ。私がスカイだって知れば鴉谷が私に気持ちを向けてくれるかなって考えてしまっていた。ホノカが鴉谷のことを好きだって分かってるはずなのに。私は最低な大バカなんだ。


 そう私が反省していると、ホノカがメッポに話を聞いた。


「ねえメッポ。大丈夫かな?」


『大丈夫メポ。鴉谷マコトは言いふらすような人じゃないメポよね?』


「それはもちろん!マコトはそういうとこはちゃんとしてるから!」


 鴉谷について自信満々に答えるホノカ。ふたりは幼馴染みというだけあって互いによく理解しあっている。私の知らない鴉谷のことも知ってるだろうし、なんだかんだ鴉谷もホノカには優しい。


「………………っ…」


「……どうしましたセリナさん?」


「な、なんでもない!なんでもないから…」


 なんだか胸の辺りがズキズキする。ホノカが鴉谷について話すたびに、私の知らない感情が痛みになって私に襲いかかってくる。



『とりあえずセリナ、明日鴉谷マコトと話し合って欲しいメポ。でもあまり詳しい話をしちゃ駄目メポよ。戦いに巻き込むわけにはいかないメポから』


「え、えぇ……分かったわ…」


 メッポからの頼みに気持ちのこもってない返事をする。私の頭の中は鴉谷の事でいっぱいだったからだ。


 そんなわけないと何度も否定する。ホノカがいるからと何度も誤魔化そうとする。鴉谷にはデリカシーの欠片もないし、校則とかたまに守ってないし、私なんかとは正反対な男だ。


 でも私が注意したことはちゃんと守ってくれる。私が話しかけても逃げずに答えてくれる。変にカッコつけて私に傘をくれたし、最初に会った時だって私のことを心配して声までかけてくれた。



 この気持ちの正体は私には分からない。


 ハッキリさせたいけど、ホノカやミアには相談できない。



 …………そうだ。



 レイヴンなら、彼女になら話してみても良いかもしれない。


 

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