第20話 友達の話

 スカイの正体が美空だと判明したその翌日。俺は美空から呼び出されて屋上で昨日の一件について話をしていた。


「私が魔法少女だってことは皆には内緒にして欲しい。詳しい話とかは出来ないんだけど、皆を戦いに巻き込むわけにはいかないの」


「……そうか。分かった」


 美空の表情は真剣そのもので、深く追求するのは不自然だと俺は判断した。デナの言うことが正しいならディザイナーズからこの街を守ってるって事だろう。

 だが俺が話をすんなり受け入れると、美空は気まずそうな顔でこちらを見てきていた。


「……んだよ」


「…………あっさり受け入れるんだなって。脅されたりとかするかと思った」


「人をなんだと思ってんだ」


 美空の目に俺は一体どう写っているのだろうか。まさか金銭を要求されたりするとでも思ってたのだろうか。

 とはいえこれ以上話をしても時間の無駄だと悟り、俺が屋上から去ろうとすると美空が突然大きな声で叫んだ。


「あ、あの!鴉谷!」


「………なんだ」


「……鴉谷はさ、わ、私のこと、どう思ってるの?」


「………お前?」


「そう……スカイじゃなくて、私のこと」


 あまりに突然な質問になんと返したものかと頭を悩ませる。「どう思ってる」とはどういう意味なのだろうか。それに美空のことなんて俺は別にどうとも思って………ない…


「……バカ真面目な奴だなって、そう思ってるよ」


「…………そう。ありがとう」


 皮肉も込めて言葉を返したのだが、美空はどこか嬉しそうに笑っていた。いつもならバカなんて言ったら怒るのに。女ってのはよくわからない。


 その会話を最後に俺達は屋上を去り、互いにいつも通りの昼休みを過ごしたのだった。






「シタガエー!」


 それから数日後。夏休み目前というタイミングでデザイアンが現れた。場所は街の大きな公園。バスケットボールに手足が生えたの弱いタイプのデザイアン。魔法少女3人でなんとかなっており、俺は市民の避難誘導や流れ弾の処理に徹していた。


 そのまま戦いも難なく終わり、俺は後片付けに巻き込まれる前に帰ろうとしていた。最近は魔法少女達も強くなったおかげでやることが少ない。もちろん苦戦なんてしないに越したことはないのだが、どうにも運動不足だ。


「レイヴン!」


 なんてことを考えながら帰ろうとしたタイミングでスカイから声をかけられた。いくらレイヴンの翻訳機能があると言ってもあまり話したくないのだが……


『なにかしら?』


「……貴女に聞いて欲しい話があ…ります」


『………いいわ。少しだけね』


「っ……ありがとうございます!」


 珍しく敬語で話しかけてきたことから大事な話なのだろうと察し、俺はスカイの頼みを聞くことにした。


 他の2人には聞かせられないということで後片付けをフラワーとアンバーに任せ、俺は人気のない山奥へと連れていかれたのだった。


『それで?話というのは?』


 正体がバレたことだろうか。でもそれを俺に話す意味はない。ということは強くなりたいとかあの姿の変身方法とかだろうか。どちらにせよ上手く教えられる気もしないのだが……


「これは……友達の話…なんですけど……」


『………続けて』


 絶対に本人の話だ。今時その話の入りをするバカいるんだな。まぁ美空だし仕方ないか。


「その友達には………き…苦手な相手がいるんです。いっつもだらしなくて、口喧嘩ばかりしてる男子が」


 スカイを美空だとするなら……これまさか俺の事か?今から自分の悪口でも聞かされるのか?いや美空に限ってそんな陰口みたいなこと……


「友達のことバカバカって言ってきて、あっちもバカなのにデリカシーの欠片もなくて…酷いと思いませんか?」


『…………そう』


 まさか他人に相談するほど嫌だったとは。女子はそういうの溜め込むって聞くし……今度会ったらちゃんと謝ろう。


「………でも、彼はわ…っ友達が注意したことは守ってくれるんです。ぶっきらぼうに見えて優しいとこもあるし、正面から喧嘩出来るのも実は楽しいっていうか、男子の友達がいたらこんな感じなんだろうなって思ってるんです」


『…………なるほど』


 急に褒められるとそれはそれでムズムズする。なんださっきから不満を言ったり褒めてみたり……ここからどこに着地しようってんだ。


「………で、彼が他の女子と話してるの見てると、なんだか胸がキュゥってなる…らしいんです。感じたことない苦しさで、ズルいなって…思っちゃって、だからレイヴンに聞いてみたくて……これってもしかして、友達はその彼に恋してるってことなんでしょうか!」


『ブフッ!!?』


 あまりに突然のカミングアウトに思わず吹き出してしまった。いきなりなんてことを言い出すんだこの女は。


「どう思いますか!?これが恋なんですかね!?」


『待って落ち着いて!』


「あ、ごめんなさい……」


 興奮してしまったスカイを一旦落ち着かせる。その友達の話に出てくる男子とやらは多分俺のことだし…そもそも友達も美空本人だろう。話を聞くにそういう可能性だって無いわけじゃないだろう。


 でも……だとしても…この状況でYESもNOも言えるわけがない。どちらの択を選んだとしてもそれはレイヴンではなく俺の意見になってしまう。美空はそういうつもりで相談しているわけじゃないはずだ。



 いや待て。本当に友達の話だという可能性もあるじゃないか。そうだそうに決まって……


「………………っ!」ジーッ


 めっちゃキラキラした目でこっち見てる…多分美空の話だこれ。お前はレイヴンをなんだと思ってんだよ同級生だよ恋人なんて出来たことない男子高校生なんだよ。


 いやまぁ簡単な話だ。「それは恋じゃない」と言えば丸く収まる。収まるんだけど、なんかズルいような気がする。実際恋じゃないって場合もある。というか俺だって恋愛なんてしたことない。


 そうだそれでいこう。うん。正直に話せばいいじゃないか。


『……ごめんなさい。分からないわ』


「そ、そうですか………」


 俺がそう告げるとスカイは露骨に落ち込んだ表情を見せた。レイヴンに聞けば答えてくれると踏んだのだろうが中身はただの童貞なんだ本当に申し訳ない。


『……じゃ、じゃあ私はこの辺で』


「…………はい。ごめんなさい」


 あまりの気まずさに帰ろうとすると、スカイは落ち込んだまま動こうとしなかった。そんなスカイを見てられなくなって、俺はちょっとだけ本音で話すことにした。


『きっと……その男子も楽しいと思ってるはずよ。私の憶測に過ぎないけどね』


「そ、そう思いますか!?嫌われてないですかね!?」


『………ええ。きっと』


「っ…………そっかぁ……そっか…!」


 やばい目茶苦茶恥ずかしい。早く帰ろうそうしよう。これ以上は俺がおかしくなる。


 そう確信した俺は嬉しそうにしているスカイを置いて急いで家に帰ることにしたのだった。




『やぁおかえりマコト』


「ちょっとどけ」


 いつものように窓から部屋に入り、久しぶりに猫の姿でベッドに寝転がっていたデナをどかす。そのままベッドにダイブし、色んな感情を押さえつけようと顔を枕に埋めた。


 スカイの話を美空本人の話だとするなら、きっとそうなんだろう。ということはアイツが俺にやけに話しかけてきたのもそういうことなんだろうか。デナがくっついてくるのをやたら剥がそうとしてきたし、俺に好きな魔法少女について聞いてきたこともあった。そういやあの時も「スカイ」って言われて照れてたような…


「あ゛ぁぁぁぁぁ……」


『……楽しそうだね』


 デナに茶化されてるがそんなのどうでもいい。思い返してみればそんな言動も多かった気がしてくる。絶対に聞いちゃいけない話を聞いてしまった。これからどんな顔して美空に、スカイに会えば良いのか…………



『……だから余計な情報は無駄になると言ったのに』


「…………うるせぇ正論猫」


『人間というのは本当に愚かだね』


「………………うるせぇ」


 俺はデナに悪態をつきつつ、そのまましばらくベッドで悶え苦しむハメになったのだった。

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