第18話 変わり続ける空模様

「ただいま」


「お帰りセリナ。どうだった学校は?」


「……ぅん。まぁ」


 家に帰り、お父さんと軽く言葉を交わして私は自分の部屋に向かった。部屋に入ったら流れるようにベッドにダイブ。制服なんて脱いでる暇はなかった。



『スカイかな』


「っ~~!!!」


 さっきの言葉を思い出して悶える。のたうち回り、声にもならない声をあげながら今にも暴れ出そうとしている自分をなんとか抑えていた。



 だってそうじゃん。私は好きな魔法少女は誰?って聞いて、それでアイツからは「スカイ」って答えられたんだよ?つまりそういうことじゃん?いやメッポが言うには認識阻害はかかってるらしいけどさ、でもあんまり素振りとか変えてるつもりはないし。え、てことは?鴉谷は実は私のこと気になってるってこと?そういえば男子って気になる女子に意地悪するとか聞いたことある。え、そうじゃん。でもダメよ鴉谷……貴方にはホノカが…………



『スカイが好きかな』



 好きとかそんな!!!ダメよ軽々しく言っちゃ!!(言ってない)

 え、じゃあ今までもかまって欲しかったってこと!?鴉谷も子供ね!(違う)


「そっかぁ…………スカイが好きなんだ……ふぅん…………」


 すごく不思議な気持ち。今なら鴉谷に何を言われても寛大な心で受け止めてあげられそう。


「…………んふっ……ふふふ…………」


 頑張って頬の緩みを抑えようにも笑みが溢れてしまう。そんなの言われたことなかったから。小さい頃から周りにはそれとなく避けられてたから。男友達なんて初めてだし、もしかしたらそれ以上も…………


「ふふっ…………」





 その翌日、昼休みの廊下で鴉谷の姿が見えたので声をかけてあげようとしたら、鴉谷へと抱きつく黒い影が現れた。


「マコトー」


「くっつくな離れろ」


「………………」


 確かホームステイしてるとかいうデナって人。でもいくら外国の人だからって堂々と抱きつく?あんなに胸を押し当てて……鴉谷もすぐに引き剥がしなさいよ。私のこと好きなんでしょ。


「ちょっと鴉谷。廊下でそういうことしちゃダメよ。デナさんもすぐに離れて」


 自分でも気づかないうちに私は鴉谷の元へいき、2人に離れるように注意をしてしまっていた。でも廊下で見せつけてくる方が悪い。これは生徒会副会長として当然の義務。

 するとデナさんは私の顔をじっと見て不思議そうに尋ねてきた。


「……アナタは?」


「美空セリナ。生徒会です」


「…………なるほど」


 真っ直ぐに視線を向けてくるデナさんの瞳は引き込まれるような魅力があった。綺麗な黒だけど、なんだか底が見えないような、見てはいけないようなそんな瞳だ。


「でも離れません。マコト家族です。家族なら当然です」


「なっ……なんですってぇ!!」


 注意したというのにデナさんはもっと鴉谷に体を密着させた。私はそのことがどうにも許せなくて、ふたりを力付くで引き剥がそうと昼休みの廊下で子供みたいなやりとりをしてしまうのだった。




 その日の放課後、生徒会での会議を終えて帰ろうと校舎から出ようとした瞬間、急に土砂降りの雨が降り始めてしまった。そういえばお母さんが傘を忘れないようにって言ってた気がする。鴉谷のこと考えてたら忘れてた。

 折り畳み傘もなく、雨がやむまで図書室で待ってようと戻ろうとすると、突然後ろから声をかけられた。


「帰らないのか?」


「………なんでいるの?」


 声をかけてきたのは鴉谷で、私からの質問に「たまたまだ」と返すと手に持っていた黒の傘を私に差し出してきた。


「なに?」


「………やるよ。明日返してくれればいい」


「いらない」


「やる。折り畳み持ってるし」


「…………ありがとう」


 半ば強引に傘を渡されてしまい、その途端に私は顔がどんどん熱くなっているのを感じた。夏だからとかそんなのじゃない。鴉谷の行動の全部がそういう事なんじゃって思ってしまう。


「なにしてんだ?早く帰れよ」


「っ……言われなくても」


 鴉谷に急かされるがままに傘をさす。私の傘よりも大きくて男子のなんだと実感してしまう。そしてふと隣の鴉谷を見ると持っていると言っていた折り畳み傘を出さずに気まずそうにしていた。


「どうしたの鴉谷?」


「…………別に?」


「折り畳み傘は?」


「……………察しろバカ」


「バカは関係ないでしょ!?」


 急に悪口を言われてしまった。いくらなんでもバカバカ言い過ぎ。というか察しろって何?察しなきゃいけないことなんて何も………


「……まさか、持ってないの?」


「……………うるせぇ帰る」


「っ……ちょっと待ってよ!」


 土砂降りの雨の中を帰ろうとする鴉谷の大きな手を掴んで思わず引き留めてしまった。そこから先のことなんて何も考えてなかったけど、私の口からは勝手に言葉が出てしまっていた。


「ほら…さ、私にはこの傘大きいからさ、その………一緒に帰らない?」


「嫌だ」


「っ……なんでよ。私が数学勝ったのに」


「いつまで引きずってんだよソレ」


 鴉谷は一度私の方を見ると、めんどくさそうに「あぁ……ったく」と呟き私から傘を奪い取った。


「これでテストの話は無しだ」


「……うん。そうする」


 鴉谷の大きな傘の下に入り、私達はふたりで駅まで帰ることにした。道中色々と話をしながら帰っていたけど、なんだか鴉谷は気まずそうにしていた。やっぱり恥ずかしいのかな。それって私のことが好きだからなのかな。


 だったら……嬉しいな。



 そんな鴉谷との帰り道もあともう少し。私はちょっとずつ歩く速度を下げてたけど、鴉谷もそれに文句を言わずに合わせてくれた。絶妙な時間帯というのと、大雨のおかげで周りに人は見当たらない。本当にふたりっきり。


 もうちょっとだけ………もうちょっとだけでいいから一緒に………




「シタガエー!」


 突如、駅近くにある消防署の方から建物が壊れる大きな音と、聞き馴染みはないが嫌というほど聞いてきたようなフレーズが周辺に轟いた。


「あれは…………!!」


 音のする方を見るとそこには消防車に手足が生えたようなデザイアンが居て暴れ回っていた。私はすぐに思考を切り替え、隣にいた鴉谷に逃げるように伝えることにした。


「鴉谷!逃げて!」

「美空!逃げろ!」


「「え?」」


 だが互いに言葉が被ってしまい、一瞬固まってしまった。でもこんなことをしている間にもデザイアンは暴れまわっている。早く避難させないと。


「私はいいから!鴉谷は早く逃げて!」


「いいからって……いいわけないだろ!」


「大丈夫なの!」


「何を根拠に!」


「それは……………っ!?」


 私達が譲り合っていると、デザイアンはこちらに向かって水の塊を発射してきた。このままじゃマズイ。でも幸い周りには人は居ない。傘もあるし、雨も強いからもしもの場合でもバレるリスクは少ないだろう。後は鴉谷だけど…


「……皆には内緒よ!」


「は?お前こんな時に何言っ―――」


変身メタモルフォーゼ!!!」


 困惑している鴉谷の説得を諦め、私は勢いのままに魔法少女へと変身。こちらに向かってきていた水の塊を蹴りあげ、上空で破裂させることに成功した。


「え……おま……え…………ウソ…だろ?」


「……後で説明するから。今は避難してて」


 あまりの出来事に混乱してしまっている鴉谷に避難を促し、私はデザイアンに向けて決め台詞を放った。


「覚悟なさいデザイアン!私が……この魔法少女スカイが!相手をしてあげる!」


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