第17話 相性最悪のふたり

「どう鴉谷!今回は私の勝ちみたいよ!」


「…………本気じゃなかっただけだし?」


「ハッ!負け惜しみね!」


 期末テストを終えた昼休み。屋上に向かおうとしている最中に美空がテストの結果で勝負しようと挑んできた。逃げようにも挑発してくるので受けてやったのだが……


「あ、セリナちゃん今回はどうだった?」


「見てよホノカ!数学50点!」


「……………すごい!!」


 もちろん100点満点のテストなのだが、美空は胸を張って堂々とテスト用紙を見せつけた。ホノカも一瞬の思考を挟みつつ、笑顔で褒め称えていた。優しい奴だ。


「まぁホノカとミアのお陰なんだけどね。で?ところで?調子に乗ってた鴉谷は?負けたんだから何かあるよね?」


「………数学だけじゃねぇか」


「っ…………勝ちは勝ち!」


「へいへい…悪かったよ美空様は凄いです」


「バカにしてるでしょ!?」


 あの日以来、美空とは言い合う関係になってしまった。話すたびに互いの相性が最悪なのは良く分かる。そんな俺達を横で見ていたホノカは的外れな意見を言ってきた。


「セリナちゃん楽しそうだね」


「どこが!?ここ、こんな奴と話してて楽しいわけないじゃん!」


「そりゃ同感。こんなバカと話してたら俺の方のIQも下がるわ」


「なんですってぇ!?」


「…………仲良いねぇ」


「良くない!!!」「良くねぇって」


 ホノカは何を勘違いしているのか。どう見ても犬猿の仲ってやつだろ。バカなのか?





「ヨコセェエ!」


 その日の放課後。相変わらず街にはデザイアンが現れた。本当に懲りない奴らだ。今日のお相手は…………マトリョーシカ…ってやつだ。多分。巨大な人形の周りを小さい人形が大量に漂っており、壊せば壊すだけ増えていく。爆発とかはしないが単純に突っ込んでくるのがうざったい。


「もう!なんであの姿になれないの!」


 フラワーが頑張っているが苦戦を強いられていた。どうやらこの前の姿には変身出来ないようだ。だがしかしそれは俺も同じこと。試してはみたが一度も成功しなかった。

 デナ曰く『まだ使いこなせていないのだろう』とのことだった。それにしてもアイツは学校で何をしてるんだ。見た限りでは普通に過ごしているだけだ。人間の暮らしに憧れたとかそんな可愛い理由なのか?いやありえないだろ。


「レイヴン!」


『なに!』


 俺も小さな人形達に行く手を阻まれていると、スカイが大きな声で俺に呼び掛けてきた。


「貴女は本体に突っ込んで!私が援護する!」


『……分かった!』


 スカイの作戦を信じ、俺は真っ直ぐにデザイアンに向けて加速した。本体を狙って飛んでくる俺に対し周りの人形達が壁になろうと一斉に集まってくるが、その悉くをスカイが片っ端から魔法の矢で打ち落としていった。


『……っ流石!』


 俺はデザイアンの元にたどり着くと、いつものように胴体を蹴りで直線上に貫いた。いくつもの層を蹴り破っていく感覚はなかなかに爽快で、貫通し終えた時には学校でセリナと口論したことなんて忘れてスッキリとした気分だった。


「流石ねレイヴン」


『貴女こそ。腕を上げたんじゃない?』


 デザイアンが光になって消えていくのを確認しつつスカイと話をする。そんな俺達の元にニコニコしているアンバーと不満そうなフラワーもやってきた。


「なんであの姿になれないの~……」


「まぁまぁ。それよりもレイヴンさんとスカイは息ピッタリですね~。惚れ惚れしちゃいました~」


「そ、そう?」


 アンバーの言葉に照れながらもこちらを見てくるスカイ。俺の返事を待っているのだろう。そう思い俺も素直に答えてやることにした。


『えぇ。私もそう思ってるわ』


「…………そう??え、じゃあ…友達にでも……なる???」


『それは遠慮しておく。それじゃ』


「なんで!?待ってよレイヴン!!」


 後の処理は3人に任せ、俺は家へと帰ることにした。俺だって交流を深めたいのは山々だがそもそも俺は男だ。もちろんあの3人が女である確証もないが変に傷つく真似はしたくない。


 ……それでもスカイと気が合うのも事実だ。美空なんかとは大違いだな。全てが終わった時には話くらいしても良いかもしれない。






「ゲッ…………」


「なんでアンタがこんなとこに……」


 その翌日。学校帰りに無性にハンバーガーを食べたくなった俺は、以前に宝来と訪れたことのある駅前のハンバーガー店で食事をしていた。すると美空も店にやってきて、あろうことか俺と同じテーブルにつきやがった。


「他所に行け」


「……いいじゃない少しくらい」


 美空は買ってきたハンバーガーには手をつけず、どういうわけだか気まずそうにしていた。


「…………んだよ」


「……単刀直入に聞くわ。貴方はホノカのことをどう思ってるの?」


「………………お前に関係ないだろ」


「ダメ。テストは私が勝ったんだから教えて」


「……ただの幼馴染みだ。それだけ。はい終わり」


 どうしてそんな事が気になるのか意味が分からない。女子ってのはすぐに首を突っ込みたがる。後でホノカに文句言ってやる。

 すると美空は少し考えだし、何かを閃いたようなバカな顔で俺への質問を変えた。


「そうだ鴉谷。魔法少女は誰が好き?」


「…………レイヴン」


「……レイヴン以外なら?」


 やけにグイグイと迫ってくる美空。自分自身という選択肢を潰された俺は腹を括って考えてみることにした。逃げてもいいがその方がめんどくさいのは明らかだからな。



 アンバーは……掴み所が無くて苦手だ。フラワーはなんかこう………どうにもホノカを思い出してしまって話し辛い。となってくれば消去法ではあるが一番マシなのは…………


「……スカイかな」


「ぅぇっ………………」


 俺の答えに何故か美空は赤面し、そのままフリーズしてしまった。


「なんでお前が照れてんだよ……」


「て、ててて照れてなんて……ないけど?」


 美空は急に慌て始め、買ってきたハンバーガーのセットを持って席を立とうとした。


「わたっ……私やっぱり別の席いくから!」


「……いいよ別に。もう食い終わったし」


 そんな美空に座るように促し、代わりに俺が席を立った。食べ終わった後のゴミを捨ててから、改めて美空へと手を振って別れの挨拶をした。


「んじゃまた学校で」


「ぁ…………ぅん……」


 しおらしくなった美空を不思議に思いつつ、俺は逃げるように店を出て駅へと向かうことにしたのだった。

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