第23話 少女の秘密
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
「……そりゃどうも」
水族館の広々としたエントランスで大きなイルカのぬいぐるみを抱えた宝来に深々と頭を下げられた。そんな満足にしている宝来に俺は今日のデートの意味を尋ねることにした。
「で、何が目的なんだよ」
「………聞きたいですか?」
「おう。いい加減教えろ」
「分かりました。実は私――」
やけに深刻そうな顔をした宝来がバックから何かを取り出そうとし始めた。だがその時、俺はどこからか発せられた不気味な感覚に襲われ、反射的に体が跳ねた。
「っ!!?」
「どうしました?」
その感覚はどうやら俺だけなようで、宝来は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「いや…………なんか……」
気のせいにしてはあまりにも強烈だった。宝来が平気そうだということはきっとディザイナーズが何かをしている可能性がある。そう考えた俺は周囲を見回したのだが、周囲の状況がさっきまでと違うことに気づいた。
「…………人が…居ない?」
「え?あれ……さっきまで確かに…」
謎の感覚に襲われるまでは確かに人が居た。客だけではなくスタッフも居ない。俺達が誰かいないかと周りを見回していると、通路の角から宝来の執事が現れた。
「セバス!良かった無事だったのね!」
執事の姿を確認して駆け寄ろうとする宝来。だが執事は下を向いたまま、足取りもふらついていた。そんな執事が顔をあげ、宝来を見た瞬間に俺はさっきと同じ感覚に襲われた。
「ヒレフセ……」
「…………セバス?」
「オレの前に……ヒレフセェ!!!」
「なっ…!?!」
執事が叫び声を上げたかと思えば、獣のようになっている右腕を振り上げて宝来へと飛びかかった。宝来はあまりの事態に動けていない。このままでは確実に死ぬ。考えてる暇はない。
「
俺は何の躊躇いもなく魔法少女に変身し、鋭利な爪で切り裂かれる寸前だった宝来を抱えるようにして助けることに成功した。
『…………っ…大丈夫!?』
「え…レイヴン!?なんで…あれ、鴉谷くんは………」
レイヴンの登場に宝来は驚きつつも冷静に辺りを見回して俺を探していた。俺がどう説明したものかと悩んでいると、攻撃を避けられた執事がゆっくりとこちらを睨んできた。
「ハナレロ……」
『貴方が危害を加えないと言うなら離れてあげる』
「オレは………っ…オレは…………!」
執事は頭を抱えて葛藤しているかのような素振りをみせた。どんな状態なのかは分からないが普通ではない。
俺がどうしたものかと対処を悩んでいると、執事は急に狼の遠吠えのような雄叫びを上げた。その瞬間執事の全身を黒い光が包みこみ、次第に人ではない形を型どり始めた。
「ヒレフセェ!!!」
そして再びの叫びと共に黒い光が弾け、全身を黒い毛でおおわれた二足歩行の狼が現れた。紫のオーラを放ち、聞き慣れてしまったフレーズを叫ぶ。俺は宝来から手を離し、狼男と正面から向き合った。
『そこを離れないで』
「はい……あ、でも鴉谷くん…私と一緒にいた男の子が………!」
『絶対に大丈夫だから。私を信じて』
「大丈夫って………まさか…」
察しが良いと言うのも考えものではあるが、今はそんな事は後回しにするしかない。俺は狼男に向かって全速力で突撃し、挨拶代わりの膝蹴りを鳩尾めがけて放った。しかし避けられはしなかったものの、胸の前で重ねた両腕で見事にガードされてしまった。
『良い反応するじゃない…でもこれなら!』
俺はあらかじめ両手を組んで大きく振りかぶっていた拳を頭頂部めがけて一気に振り下ろした。だが俺の用意していた二撃目を見てから狼男は後ろに飛び退いて躱し、一瞬で俺との距離を離した。
『ちょっと速すぎだと思うんだけど』
「ガルルル………」
この数秒で分かったが今までのデザイアンとは強さのレベルが段違いだ。それこそあの時戦った岩男に近いだろう。手応えからして一対一ならなんとか勝てるだろうがこっちには宝来がいる。なんとかして逃がしたいところだが…
(デナ…………おいデナ!!)
呼び掛けてみるも応答はない。こういう時に限って答えやがらない。まさか今回のも必要だったとか言い訳するんじゃないだろうな。だとしたら一回ぶん殴ってやる。
「鴉谷くん!」
『なに!……ぁ』
宝来から名前を呼ばれ、色んな事で頭がいっぱいだった俺は反射的に返事をしてしまった。俺
がなんと言い訳しようかと考えるよりも前に宝来はとんでもないことを言ってきた。
「私も戦います!」
『はいぃ!!?急に何を――』
「
怒涛の流れに俺が困惑しつつも宝来の方を振り返ると、そこには黄色の魔法少女アンバーの姿があった。
『あ、貴女…………』
「話は後です。今はこの場を切り抜けなくてはいけませんから」
「ッ……ヒレフセェ!!」
止まっていた狼男は急に動きだし、目の前の俺ではなくアンバーへと突進。あまりの展開の連続に俺は反応がワンテンポ遅れてしまった。
けれどアンバーはお得意のバリアを張り、狼男の突進を見事に防いだ。
「レイヴン!」
『分かってる!』
バリアに阻まれた狼男を全力でぶん殴った。よほどアンバーに執着してるせいか今度は避けることは出来ず、狼男はそのままの勢いでお土産屋へとすっ飛んでいった。
『…………これヤバいかな』
「安心してください。お金ならありますので」
壊れた棚や吹き飛んだ商品を見て俺が後々の処理を心配になっていると、アンバーから淡々とそう告げられた。流石は金持ちだ。発想が違う。
「さてレイヴン。私達がふたりで戦うのは初めてですね」
『他のふたりは?』
「ダメです。圏外で繋がりません」
『そう。なら仕方ないわ』
アンバーは俺の隣に並び立つと、何やら覚悟を決めているかのような真剣な眼差しで狼男の方を見つめていた。
「まずは彼を止めましょう。詳しい話はお茶を飲みながらでも出来ますし」
『そうね。素直に止まってくれればいいけど』
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