第9話 何度でも

「私を…貴女みたいに強くしてください!!」


 デザイアンを倒し、後のことは任せて帰ろうとすると、フラワーから勢い良く頭を下げられた。俺は唐突な頼みに戸惑いつつも、フラワーに対して思っている事を口にした。


『私みたいに、とは言うけどね。私と貴女は違うの。さっきもなんで直接殴ろうとしたの?貴女は他にもやれることはあるでしょ?』


「それは…………えっと……」


 さっきの戦闘において、フラワーは何故か接近戦を挑んだ。フラワーは光線を放つなどの器用な戦い方も出来るのにだ。俺だって撃てるもんならビームを撃ちたい。でも上手いこと形にならないから毎回殴ったり蹴ったりしてるわけだ。


『自分の長所も理解してない人に私は何かを教える気はない。そもそも教えられるとも思ってないけどね』


「ぐぬっ…………だったら!」


 フラワーは悔しそうな顔をしたかと思えば拳をこちらに突き出して叫んだ。


「私と戦ってください!魔法少女同士……タイマンしましょう!」


『タイマンって貴女ねぇ………』


 今時タイマンなんて死語を使う奴俺以外に初めて見たぞ。勝手に女かと思ってたけどもしかしてコイツも男なのか?あり得ない話じゃないがだとしたら正体は知りたくないな。


『あのね、私は忙し――』


【良いじゃないか。付き合ってあげれば】


 俺が適当な理由をつけて断ろうとすると、脳内にデナの声が聞こえてきた。しかし周りを見渡しても姿はない。どっかで隠れて見てやがるんだなアイツ。

 俺はデナにどう返事したものかと悩み、とりあえず頭の中の声に答えるようにと意識してみることにした。


(……あー。これで聞こえてんのか?)


【流石。飲み込みが早いな。で、付き合ってあげないのか?】


(必要あるか?そもそも力には上限があるんだろ?)


【……それはそうだが、上手な力の使い方を彼女らが身に付けられれば自ずと戦力アップにも繋がるはずさ。現にスカイだって君のアドバイスのおかげで絶好調だ】


(………まぁ一理あるか)


【それに場所なら用意してあげよう。君達が力をつけるのは私にとっても嬉しいからね】


 そうやって俺がデナと脳内で会話していると、スカイが申し訳なさそうな顔つきで俺とフラワーの間に割り込んで頭を下げた。


「レイヴン。無理はしなくていい。私達なりのやり方できっと強くなってみせる」


『あぁいえ……そういうわけじゃ』


 気をつかってくれたスカイに俺は頭をあげるように促し、改めてフラワーへと尋ねた。


『………やるからには本気でやるけど、それでもいいの?』


「っ……は、はい!むしろ本気でお願いします!」


【決まったかい?ならフラワーと手を繋ぐんだ】


『……フラワー、こっちにきなさい』


「へ……こ、こうですか?」


 デナの指示通りに俺はフラワーへと手を差し伸べた。フラワーはおずおずとしながら差し出された俺の手を優しく握った。


『……………っ…』


「ぁ…………ぇ……」


 俺達が手を繋いだ瞬間。何か不思議な感覚が流れ込んできた。どこか懐かしいような、そんな言葉では言い表せない感覚。こちらを見上げてきているフラワーも同じような感覚に陥ったのか気の抜けた表情になっていた。


「…………ぁ…ごめんなさい!なんだか……つい………」


『いえ、こちらこそ………では……』


(おい早くしろ)


【………空間転移テレポート


 互いに顔を見つめていたことを謝り、俺は恥ずかしさを誤魔化すようにデナを急かした。するとデナはテレポートと唱え、次の瞬間には俺達ふたりはだだっ広い平原へと移動してきていた。

 この一瞬の出来事にフラワーは辺りをキョロキョロと見回しながら驚きの声をあげた。



「うぇっ!?なにこれ!?こんなことも出来るですか!?」


『…………まぁね』


 フラワーから尊敬の眼差しを向けられ、思わず瞬間移動を自分の手柄にした。いやまぁ俺の精霊なんだし俺の力と言って間違いはないだろ。


『さて、早速やりましょうか。ふたりを待たせては悪いわ』


「……よろしくお願いします!」


 俺は繋いでいた手を離し、少し距離を取った。戦いの後だというのにフラワーもやる気は充分。こういうのは気持ちの問題だからな。


『……………フッ!』


 俺も手加減なんてするつもりはない。タイマンという言葉を使った以上、それだけの覚悟があるということだ。

 俺は全速力でフラワーに接近し、がら空きのボディに向けてパンチを繰り出した。


「はやっ……!?」


 フラワーは咄嗟に腕で庇うようにガードしたが、俺はそんなのお構いなしに拳を振り抜いた。


「ぁぐっ!」


 フラワーはパンチの衝撃によって見事に後ろに吹き飛ばさた。その体は何度か地面を跳ね、転がり、衝撃が収まった頃にはフラワーは地面に突っ伏して動けなくなっていた。


『あっ………大丈夫!?』


 手加減するつもりがないとはいえ流石にパワーは調整していたのだが、明らかにやりすぎてしまった。

 俺が心配してフラワーに駆け寄ると、フラワーは俺に向けて手を伸ばして「まだっ…!」と全身に力を込めて起き上がろうとしていた。



「このくらいっ………!」


『……あのね。勇敢と無謀は違う。これが貴女と私の実力差ってこと。分かったなら早く………』


 俺はフラワーに諦めさせようと声をかけようとし、途中で止めた。それは立ち上がろうとしているフラワーに周囲からピンク色の光が集まっていくのが見えたからだ。


 光はフラワーの腕や足に集まって傷を癒していった。そしてフラワーがしっかりと立ち上がった時には既に傷は癒えており、なんなら先程よりもフラワーからは謎の威圧感とでもいうべきものを感じるようになっていた。


「もう一度……お願いします!」


『………元気ね貴女』


「はい!それだけが取り柄なのでっ!」


 ニコッと笑うフラワーに俺は何故かホノカを重ねてしまった。アイツが魔法少女なんてことしてるわけないのに。


 俺はホノカの幻影を消すように首を横に振り、フラワーとのタイマンを続行することにしたのだった。



 ――――――――



「フラワーは大丈夫かな…」


「どうでしょう。レイヴンの事ですし優しくしてくれるとは思いますけど……」


 スカイとアンバーは壊れた街の復旧をしながら話し合っていた。フラワー達が消えてから既に10分は経とうとしており、ふたりとも気が気ではなかった。


「……ねぇ。アンバーはレイヴンについてどう思っているの?」


「そうですね~………」


 スカイからの急な問いにアンバーは少し悩み、「あっ」と何かを思い付いたような表情になって答えた。


「カッコいいですよね~。あんなに強くて…まるで漫画の王子様みたいで憧れます~」


「王子様って……レイヴンは女よ?」


「あら。王子様は殿方だけの特権ではないんでよ~?そういうスカイこそ。なんだか仲良さそうじゃないですか~?」


 アンバーからの返しにスカイは「ふんっ」と鼻を鳴らし、どこか嬉しそうにレイヴンの事を語り始めた。


「仲良くはないわ。ただ頼りにしている部分はもちろんあるけどね。それに………」


「それに~?」


「……いや?何も?」


 スカイは「実は結構口悪いんだけど、アレは私だけに見せてくれたんだよね」と謎の魔法少女の意外?な一面をアンバーには隠すことにしたのだった。





 ―――――――



「はあっ…………っ…まだぁっ……」


『もう無理よ。やめておきなさい』


 開始から10分。フラワーは満身創痍だった。俺はフラワーに反撃のチャンスすら与えずにぶっ飛ばし続けた。フラワーも何度もダウンし、果敢にも向かってきたが、いくら回復するといっても限度はあるらしい。立ち上がる度に動きは良くなっていたが流石に膝がガクガクと震え始めていた。


「私は……っ…強くならなくちゃ…………」


 だというのにまだ立ち向かってくるフラワー。俺はそんなフラワーに気になる事を聞いてみることにした。


『…どうして貴女は魔法少女になったの?』


「ぇ………どうして……と言われても…」


 俺からの急な質問にフラワーは何故か頬を赤く染めると、力が抜けたのかペタッとその場に座り込んで呟くように語り始めた。


「ただ守りたいんです。街や、友達とか……その…大切な人……とか…」


『…………立派ね』


「いやぁ……それほどでもぉ………」


 あまりに真っ直ぐな信念。やはり魔法少女に選ばれただけはある。俺みたいな未だにノリだけで戦ってる男とは訳が違う。


『今日は帰りましょうか。ほら手を貸してあげる』


「……はい。ありがとうございました」


 戦う空気でもなくなったので俺は座り込んでいたフラワーに手を差し伸べ、そのままグイッと引っ張って立ち上がらせた。


(デナ。帰らせてくれ)




「あれ?どうしたんですか?」


『……ごめんなさい。ちょっと待っててくれる?』


 不思議そうな顔でフラワーから見上げられる。まさかデナはついてきてない?だとしたら相当マズいな。こうなったら一か八かテレポートって自分で唱えて――



【悪い。少し考え事をしていたよ。ではいくぞ。空間転移テレポート



 デナの声がいきなり聞こえたかと思えば、これまたいきなりテレポートを行われた。瞬きをしている間に元の場所へと戻ってきており、概ね復旧は進んでいるようだった。


「あ、帰ってきました~」


「おかえり………」


「ちょっ……大丈夫フラワー!?」


 フラワーはスカイにもたれかかるように抱きついた。俺はそのどさくさに紛れて帰ろうとすると、いつの間にか背後に回っていたアンバーに腕をしっかりと掴まれていた。


「フラワーはあの調子ですし~手伝ってくれますよね~?」


『いや……その…私こういうの苦手で…』


「手伝ってくれますよね~?」


『………はい』


 何故かアンバーには逆らえないと感じた俺は、フラワーの代わりという形で始めて魔法少女達と共に街の復旧を手伝うことにしたのだった。

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