第11話 仕組まれた戦い

『さぁ!このオレ様に平伏せ!くだらん魔法少女共!』


 大地を震わせるほどの声量。そして俺よりも遥かに巨大で強固な体。なにより会話が成り立つ。今までみたいな奴じゃない。知能がある。それも人間並みの。


(おいデナ。何者なんだコイツは)



 デナに語りかけてみるが返事はない。自分で急かしておいて居ないなんてありえない。取り込み中だってことも考えられるが……後できっちり問いただすとしよう。


「レイヴン!大丈夫!?」


 レンジのデザイアンと戦闘中のフラワーから声をかけられる。あっちは随分と余裕そうだ。


『ええ大丈夫!こっちは足止めしておくから!早くソイツを倒して!』


「分かった!まっかせといて!」


 俺はフラワーに返事をすると、改めてデカブツ野郎と向き合い、深呼吸をして冷静になった。


 あのサイズ感。それに鎧みたいな皮膚。一筋縄ではいかないだろうが、ここしばらくの戦いで力の使い方にも慣れてきた。


『……………ふぅ』


『準備は終わったか?』


『………待たせて悪かったわね。全力でいかせてもらうわ』


 息を整え、地面を踏み締める。デカブツはかかってこいと言わんばかり両腕を広げたまま待ち構えていた。


『フッ……!!』


『!!!』


 デナは魔法少女の力の本質はイメージだと言っていた。負けることを想像すれば勝てるものも勝てない。だがそれは逆も然り。


 自身の姿を一瞬だけ雷へと変え、デカブツの懐に潜る。そのままデカブツの顎へとサマーソルトキックを繰り出す。ふわりとバク転しつつ、空中に存在しない足場を作り出し、強く蹴ることでデカブツに向けて再加速。サマーソルトをくらって上を向いている顎に対して今度は膝蹴りをお見舞いした。


『ガフッ………やるじゃえねぇか!!』


 デカブツが俺を捕まえようと両腕を伸ばしてきたが、俺はその動きよりも速くドロップキックの体制に移り、続けざまに顔面めがけて全力の蹴りをかました。


『ッ……!!!この……ッ…!!!』


 デカブツは蹴りの衝撃によって大きくのけぞり、俺もドロップキックの反動を利用して距離を取って地面に着地した。この一連の動作に怒りを露にしているデカブツに、俺は挑発するように手招きをして宣言をした。


『私がタイマンで負けるわけないでしょ。出直してきなさい』




 ―――――――



「…………すごい。流石はレイヴンね」


「そうですね~」


 レンジのようなデザイアンと戦闘しながらも、フラワー達はレイヴンの様子が気になって仕方がなかった。強さについては信頼しているが、明らかに今までとは違う敵だった。だがレイヴンは目に止まらぬ動きで相手を圧倒し、膝をつかせている。そんな様子を見たスカイは安堵し、アンバーも援護の必要はないと自分達の戦いに集中しようとした。



 だが1人、フラワーだけは2人とは違う事を考えていた。


 先程レイヴンが敵に向けて放った台詞。少し古臭い、カッコつけた台詞回しにフラワーは驚いていた。


「今の…………」


 もちろん偶然なはずだと思ってはいる。だがしかし、蹴り技主体の戦い方も執拗に顎を狙うやり方もどこかフラワーには見覚えがあった。


「フラワー!見てないでこっち!」


「あ……うん!ごめん!」


 ボーッとしていたところをスカイに怒られ、気を取り直したフラワーは弱っていたデザイアンに対してトドメの必殺技を繰り出した。


「ブロッサムシュート!」


 フラワーから放たれたピンク色の光弾はデザイアンに直撃し、見事にデザイアンを倒すことが出来た。消滅が始まったのを確認し、レイヴンの援護に向かおうとした矢先、どこからともなく白い精霊メッポが現れ、焦りながら彼女達に叫んだ。


『大変メポ!高校付近に新しいデザイアンメポ!しかも紫の光を放ってるメポ!』


「え!?」


 メッポの叫びと同時に、レイヴンが相手をしていた敵が大声で笑い始めた。


『ガッハッハ!さぁどうする魔法少女共!早く行かないと大事なモノが守れねぇなぁ!』


「くっ……なんて卑怯な…!!」


『卑怯?褒め言葉だなぁ!』


 レイヴンを除いた魔法少女だけでは強いデザイアンに勝ったことは一度もない。だがだからといってレイヴンの攻撃を受けて余裕そうな目の前の敵に勝てる見込みはない。


『……フラワー!』


「は、はい!」


 3人が対応を迷っていると、レイヴンが突然フラワーの名前を呼んだ。するとレイヴンはフラワー達に振り向き、覚悟を問うような視線で語りかけた。


『ここは任せてもいい?』


「っ…………はい!」


 レイヴンはそう告げフラワーの元気な返事を聞くと、空に飛び上がり、黒い光となって彼女達も通う高校へと向かって飛んでいった。


『おいおい……見捨てられちまったなぁ!』


 敵が残された魔法少女達をわざとらしく煽る。だが託された3人の魔法少女は互いの顔を見合せて笑うと、堂々と宣言した。


「貴方みたいな奴、レイヴンの手を借りるまでもないってだけよ!」


「私達も強くなってますからね。そろそろ活躍しとかないと~」


「そういうこと!覚悟しなさいディザイナーズ!」


『いいだろう!全員ひれ伏せさせてやる!』




 ――――――――




『……ッいた!』


 フラワー達の精霊なのだろう白い狐みたいな奴からの情報を信じ、俺は高校へと急いだ。デナからは未だに返事がない。俺はデナに若干の不信感を抱えつつも、高校の最寄り駅の前でぷるぷる震えている巨大な液体のようなデザイアンを見つけた。


『悪いけど……一撃で終わらせる!』


 高速で移動していた勢いをそのままに、俺はデザイアンを貫くように一直線上の蹴りをくれてやろうとした。


 だが……



 ぐにゅんっ



『なっ!?』


 俺の蹴りがデザイアンを貫くことはなく、ゼリーのような感触の体にめり込み、まるでクッションの反発のような動きで跳ね返された。


 跳ね返されつつも、俺は一瞬で理解した。ここまで仕込まれていたことなのだと。俺の目の前のデザイアンは何か叫ぶわけでもなく、ひたすらにぷるぷると震えているだけ。だがそれだけだというのに、この状況の俺にとっては最悪の相手だった。


『これは………マズイわね』


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