第13場 凡才、定規を持つ
あっという間に五月が終わり、六月に入った。まだ梅雨の兆しは見えず、蒸し暑い日々が続く。文化祭まであと一週間を切った。
舞台の手前には平台が並べられ、ステージは拡大されている。演劇部によって照明も取り付けられており、ちょっとしたホールに匹敵する設備が整えられていた。舞台を使える最終時間、今は演劇部がリハーサルを行っている。
「よくやるよな、あれ」
パイプ椅子を2脚ずつ運んでは並べている男子生徒、その一人が声を漏らした。舞台に立つ部員に指示を出しているのは、部長である忠海だ。立ち位置を決めているようだが、指示は細かい。「もうちょっと前、いや戻って、ストップ」などと微調整を繰り返している。
「なんか、ちまちましてんなあ」
4脚抱えてきた男子生徒ががしゃん、と乱雑に置く。と、忠海の隣にいる女子生徒がきっと睨んだ。副部長の疋田である。
おおこわ、などと笑い合いながら、男子生徒たちは椅子をどんどん並べていく。
「でも、よく見ると全然違うんだよなあ」
後方にいた男子生徒が呟く。舞台を眺めてばかりで作業は進んでいないようだ。
「不思議だよな」
傍らにいた男子生徒が頷き、よいしょと椅子を開いた。
「……定規を持ってる」
今までずっと黙って作業をしていた女子生徒がぽつりと言う。彼女はこの学校の生徒会長だった。
「あの子には、私たちが見えないものが見えてるのかも」
かしゃんかしゃんと続けざまに椅子が並べられ、席の用意が終わった。生徒たちは幾分か晴れやかな表情で体育館を去る。生徒会長だけが、最後までリハーサルを見ていた。
祭りは、すぐそばまで迫っている。
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