第25場 天才はカラカラ回す
彼女が稽古に参加するようになってから、脚本と演出のすりあわせが早くなった。彼の演出が現実的でないと見るや、その場で展開を書き直す。今までは彼女の脚本を再現するための演出だったが、今回は役者の力量や再現性を考えながらより負担のないものを作ろうとしているように見えた。
しかし、彼女はすべてを妥協したわけではなかった。改稿するたびにバランスやニュアンスは変えていくものの、脚本の芯である多国籍社会におけるままならさは、より鋭く、観客にわかるようになっていた。
部員たちのモチベーションもいつもより高い。彼の指導は感覚的で、疋田がその都度かみ砕いて説明しなければならなかったのが、彼女が言語化してくれるおかげで、伝えたいことを共有できるようになったからだ。意見交換も活発になり、彼一人の意見に従うようなことはなくなった。
あっという間に秋、地区大会は余裕で突破した。全体の完成度はそのままに、役者一人一人の良さを出すため、OBの三ツ木を呼び出して個人レッスンを行った。彼女の兄はすでに何度も一般客の視点担当として呼び出されている。
彼女はこの大会に賭けていた。持てるすべてを費やして、全力を出す。たまたま求められた世界で、どこまでできるのか。一介の脚本家としてではなく、演劇部の一員として、やりきりたいと思ったのだ。
そして、彼女の起こした風は風車を回す。彼女の代ではなし得なかった、県大会を突破した。初のブロック大会も接戦を制することができた。カラカラと回り始めた風車は勢いを増し、いよいよ全国大会を迎えようとしている。
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