第50話 はじめて見た妹の表情
私はジュリエッタを直接問いただす為、シュタイナーへジュリエッタをこちらへと連れて来るようにと指示を出した。国王陛下夫妻と王太子殿下も真剣な目つきをしている。
「何よお姉様! 私に何の用?!」
としゃべりながらシュタイナーによって連れてこられるジュリエッタ。しかし彼女は途中で躓いたのかド派手に前へと転倒したのだった。
「きゃあっ!!」
ドレスの裾が派手に広げられ、彼女の細く華奢な足が太ももまであらわになった。ドレスの裾の裏側にはもう1着分の服の裾が見える。しかもよく見たらメイド服ではないか。
さらに右太ももには外側に黒いポケットがついたベルトが巻かれてある。このホルダーの中には何か入っているのか? まさか……。
「ねえ、ジュリエッタ。その太もものベルトには一体何が入っているのかしら? ……まさかウォリアー様のモンクスフードじゃないわよね?」
私がそうジュリエッタに話しかけた瞬間、出席者内からのざわめきがより一層高鳴った。皆それぞれなんだなんだとかまさかモンクスフードを盗んだのはジュリエッタなのか? という彼女を疑う声が次々とあちらこちらから噴出してくる。
「ちょっと確認させてくれ!」
背後からウォリアー様が勢いよく飛び出してきた。ジュリエッタは立ち上がろうとしたのをシュタイナーと近くにいた令嬢達が取り押さえてくれた。
「離しなさいよ!」
「確認させろ。そのホルダーの中には何が入っているんだ? 令嬢がこんなホルダーを身に着けている時点でろくでもないものが入っているのは明確だろうがな」
「なっ……」
ホルダーのポケットのボタンを外すウォリアー様。中から出てきたのは白い紙。そしてその白い紙を開くとそこにはしおれた紫色の花が1輪現れた。
「やっぱりお前だったのか……モンクスフードを盗んだのは」
「あ、ああ……あああああ……」
ウォリアー様がモンクスフードをつかみ取った瞬間、ジュリエッタが今までに無いくらい恐怖心に彩られた表情を見せる。ああ、やっぱりジュリエッタが犯人だったのか。
「それにその服装……メイドに成りすまして誰かに毒を盛ろうとしていたのだな? 兵士を呼べ!」
ウォリアー様の号令を国王陛下はじっと無言で見つめながら手を挙げた。国王陛下の近くからも複数の出入口からも同時に兵士達が押し寄せてジュリエッタを取り押さえる。いつもなら抵抗しそうなシチュエーションだが珍しくジュリエッタに抵抗する様子は見られない。それよりもがっくしと肩を落としている。
「連行する前にとりあえずなんでモンクスフードを盗んだのか、教えてもらおうか」
「ウォリアー様。……それはもちろんお姉様を殺す為に決まってるじゃない」
「……姉がそんなに嫌いか」
「ええ、嫌いよ。私より上に立つなんて許せないもの……! バティス兄様もお姉様も皆大嫌い……!」
ジュリエッタは私を見る事無くそう静かに低い声で吐き捨てた。ウォリアー様が宮廷の地下にある地下牢へと連れていけと兵士に促すとジュリエッタはいきなり激しく暴れだす。
「ああああ!!」
声にならない奇声を発しながら激しく身体を左右に揺さぶり抵抗するジュリエッタだが多勢に無勢。すぐに取り囲まれぎゅっと鎮圧されて横向きに抱えられた状態で地下牢へと連行されていった。
(あんなジュリエッタ……はじめて見た)
しんと静まり返った広間にいる出席者へ、国王陛下は重く閉ざしていた口を開く。
「もう心配しなくても良いぞ。皆、楽しんでくれとは言いたいが……婚約パーティーは仕切り直しとする。すまないが今日は皆もう帰ってほしい」
国王陛下の言葉には逆らえないし至極当然の事だ。こんな事があったのだから続行は出来ないだろう。
「ギルテット、シュネル。異論は無いな?」
「はい、父上」
「国王陛下。勿論異論はございません」
貴族達が静かにぞろぞろと広間を出ていく。そうか。続行できないなら確かに彼らはここにいる理由はない。
「皆様、誠に申し訳ありませんでした」
いてもたってもいられないので私はその場で皆へ頭を下げる。ルナリア家へ養女となったけどジュリエッタは一応私の血縁だ。彼女の血縁である私に責任が及んでも致し方ない。
「俺からも謝罪します。申し訳ありませんでした」
続いてギルテット様とバティス兄様も同様に頭を下げる。するとあちこちからあなた方は悪くない。謝る必要はないと穏やかで温かい擁護する声が響き渡って来る。
「そうですよ、お気になさらないでください」
「謝らないでください。悪いのはあの女でしょう?」
彼らの声を聴いていると胸が熱くなる。その胸の熱さをこらえきれないまま、私はもう一度深々と頭を下げたのだった。
……それからの話をすると、ジュリエッタはモンクスフード窃盗の罪に勝手に宮廷の関係者以外立入禁止のエリアに侵入した罪、私への殺害未遂の容疑をかけられて逮捕され地下牢へと繋がれた後裁判にかけられ有罪判決を受けた。刑務所で更生するとは思えないが、ちゃんと罪に向き合ってほしいと思うばかりだ。しかしながら刑務所での様子は聞いていないがろくでもなさそうなのは想像出来る。
私とギルテット様は婚約パーティーをもう1度開催し、その半年後に結婚式を王都の教会にてささやかに執り行った。
やはり私は1度は結婚した身。豪華な式を挙げる気にはなれなかった。ギルテット様には申し訳無い気持ちでいっぱいだったがギルテット様はむしろ俺は地味にひっそりやりたいと言ってくれたのは嬉しかったのだ。
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