第31話 離婚届提出

 ソアリス様の気が戻らないまま、バティス兄様はデリアの町に帰還した。彼は開口一番、国王陛下にあの紙を渡した事を教えてくれた。


「国王陛下が離婚を認めるってよ。でもってシュネルの名前はシュネル・アイリクスからシュネル・グレゴリアスへと変わったよ」

「そう……バティス兄様、ありがとう」

「いやいや。これでまあ落ち着くといいんだけどアイツはまだ目覚めてないの?」

「ええ、そうなの……」

「実は大きな療養所に転院させた方が良いって話になってな。だから医者と看護婦も連れてきたよ」

「ほんと?!」

「本当ですか?」


 という事でいまだに意識を失い横たわったままのソアリス様を担架に乗せ、診療所からけが人などを乗せる専用の馬車へと運んだのだった。馬車の中は専用の馬車という事だけあり、座席がドアから見て横向きに配置されている。


「すみません、後はよろしく頼みます」


 私達はそう彼らに深々と頭を下げた。彼らは大丈夫ですよ。と言ってくださった。とりあえずは良い人だらけで安心した。

 ソアリス様を乗せた馬車は静かにゆっくりと動き始めた。話を聞く限り彼はここから南にある街にある療養所で治療を受ける事となる。治療費はソアリス様のご両親が負担するという事だった。


「あ、そういえば義両親の2人は離婚についてなんとも言わなかったの? バティス兄様?」

「国王陛下に認めてもらった後に事後報告で全て話したよ。そうですか。シュネルには申し訳ない事をした。だってさ。ソアリスが意識を回復した後、後妻を迎えるかどうか改めて話し合うってよ」

「そう……」

(多分ソアリス様は拒否するだろうな……)

「ジュリエッタは後妻になると思う?」

「まあ本人が望めば、だろうけどソアリスからはアイツ相手にされてないしないんじゃね? だから愛人を後妻に昇格させるのは僕は無いと思う。体裁ってものがあるからね」

「まあ、そうでしょうね。アイリクス家の人達はそういうの気にしそうだもの」

「てかあの2人、ソアリスに愛人いるのも知らなかったって言ってたぞ。知ってて嘘ついてるのか、本当に知らなかったのかまでは分かんないけどさ」

「ええ……」


 もし前者だとしたら、知ってて私に子供を作るようにと迫っていたのだからそれは……嫌だ。後者も後者で頭がお花畑すぎるけど。


「あとクソ親父がいるサナトリウムの看護婦と会っちまってな。一応クソ親父はまだ生きてるってよ。病状がだいぶましにはなって来たからサナトリウムで作業しながら時間つぶしてるって聞いた」

「そうなんだ。まあ、もう良いけど」

「そうだよな、すまん」

「いいえ、バティス兄様は悪くないわ。気にしないで」


 それから1週間後。ソアリス様の容態についてはまだ何も情報が来ていない。そんな中診療所にソアリス様のご両親が訪ねてきた。


「シュネルさんはどこかしら?」

「あ、お義母様……お義父様……」


 ソアリス様のご両親は眉を下げつつ複雑そうな表情を見せている。お義父様の手にはトランクが握られていた。


「おふたりとも、診察室にどうぞ」

「ギルテット王子……すみません。こちらからで大丈夫ですわ。シュネルさん、今まで申し訳ありませんでした」

「シュネルさん。うちの息子が迷惑をおかけしてしまい本当に申し訳ない。まさかあんな奴だとは思ってもみなかったんだ。そしてあなたも傷つけてしまった。……形ばかりではあるが、受け取ってほしい」


 そう言ってお義父様が差し出したトランクの中に入っていたのは大量のお金だった。


「これはシュネルさんの望むままに使ってください。愚息の私物の一部を売り、得たお金です」

「よろしいんですか?」

「私達もあなたに酷い事をしました。お金で解決できるものではないと思いますが、どうか受け取って頂けたら」

「……分かりました。ではこれはこの診療所の為に使わせて頂きます」

「わかりました。では。最後に愚息には後妻をあてがい、爵位は私の弟夫婦の息子に継承させようと思います。今回はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「本当にごめんなさいね」

「……おふたりとも、こちらに出向いてくださりありがとうございました」

 

 これで……ようやく私はソアリス様と離婚出来た。

 しかし嫌な予感が少しだけ胸の中で騒いでいる。

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