第32話 それぞれの近況話
「おはようございます。王子、リウマチの薬が切れそうなので新しいのをください」
「かしこまりました。では診察していきましょうね」
「はい。もうねえ、指の関節が特に痛くて痛くて……朝がひどいんですよぉ」
「わかりました。薬を飲むのも大事ですがなるべく身体を冷やさないようにしてくださいね」
「はい。王子」
このデリアの町に来てからは様々な出来事があった。ギルテット様とシュタイナー、そして町の人達との出会いにバティス兄様との再会。大祭にエリンとの出会い、父親の逮捕とサナトリウム行きにシャミリー王女との出会いにソアリス様との離婚……。本当に様々な出来事があった。
そして診療所に来る患者との出会いも様々だ。数日前。私達はこのデリアの町で最も長生きしていた老婆の最後を看取った。老婆の年齢は97歳。最近衰弱が進んだ事で食事を受け付けなくなった。ギルテット様と私がせめて好きなものだけでも……と食事を取るように促した所、白いクリームに覆われたケーキだけはほんの少し、食べてくれのだった。その様子を見てジュリエッタはこの白いクリームのケーキが好きだったのを思い出してしまった。
息を引き取る前日。子供達孫達ひ孫達が国の内外から駆けつけてくれた。たくさんの家族に見守られながら彼女は穏やかに息を引き取ったのだった。
「午前12時19分。死亡を確認いたしました」
というギルテット様の死亡宣告が静かに部屋中に響き渡ったのだった。
葬式は町の人達総出で生前の本人の希望通り明るくまるで結婚式のように執り行われた。町唯一の小さな教会には勿論人が全員入る訳がなく。なので途中からは場所を大祭でもお世話になった広場へと移す事が決まり彼女の亡骸が収められた白い木で出来た棺桶をどのメンバーで持ち上げて移動させるかでちょっとした小競り合いが起こったのもあった。
葬式も無事に終わり、今はまた穏やかな時間がデリアの町に流れている。やっぱりこの海に近いこの町の穏やかさと温かさが好きだ。出来る事なら死ぬまでこの町で暮らしたい。
さて、私はソアリス様と離婚した事でシュネル・アイリクスからシュネル・グレゴリアスと元の名前に戻ったわけなのだが、離婚したばかりという事もあり少し間隔をあけてから改めて国王陛下に結婚の許可を得る為に謁見しようと言う話をギルテット様とした。
「すぐに結婚するよりかは、時間を少し開けた方がいいでしょうね。何かあると思われてもいけませんし」
「確かにギルテット様の言う通りですね」
それにしても、私はギルテット様と再婚するのか……。と考えてしまうだけで頬が赤くなり、鼓動が早くなる。
(王子との結婚かあ……結婚式はどうなるんだろ、それに初夜……)
初夜……今度こそ成功させたい。いや、成功させるとなるとそれはギルテット様とあれやこれやする訳か。
(うわ、考えるだけでもドキドキする!)
バティス兄様は最近、ギルテット様やシュタイナーからそろそろ婚約者を探さないのか? と言われている。本人はまあ出来たらいいよね。みたいな言うほど乗り気ではないようだが、相手には特にこだわりは無いようだ。
「好みのタイプとかいないの? バティス兄様?」
「ジュリエッタみたいなやつじゃなかったら誰でもいいよ」
「容姿は?」
「そうだな、まあ不細工すぎなければ」
「……じゃあ、デリアの町の人の方が良かったりする?」
「ああ、そうだな。貴族の令嬢よりそっち方がいいかも」
「ほら、やっぱりこだわりあるじゃない」
「ははっ。だってこの町は居心地いいからさ」
バティス兄様なら、きっと良い相手を見つけてくれるだろう。どんな相手か楽しみだ。
そしてあのシャミリー王女だが、王女の籍のまま、1人で子供を育てる事に決まったらしい。そして今彼女の父親が結婚相手を探していたようで、シャミリー王女が子供を産んでしばらくしてから誰かと結婚するようにという考えがあったそうだがシャミリー王女はそれを断ったそうだ。
父親がなぜ断ったのかと理由を聞くと、彼女はもう結婚する意思が無い事を表明したと聞いた。きっといろいろ思う所があったのだろう。
そしてソアリス様についてだが、今の所彼の容態に関する情報は入って来ていない。彼の両親がたまに見舞いに訪れているとだけしか聞いていない。ギルテット様達も知らないそうだ。
果たして目を覚ましたのか、まだ気を失ったままなのか。
いずれにせよ彼が目を覚ましたら私と離婚した事を知る事になるのは想像に難くない。その時にどう行動を取るのかが怖いし楽しみだ。
また、父親はサナトリウムでの暮らしを続けている。最近ジュリエッタからバティス兄様に一緒にサナトリウムに来てほしいという手紙が届いたが、バティス兄様は手紙を破り捨てて返信を書く事は無かった。
このまま穏やかなに時が過ぎてくれたらいいのに……少し自分の胸の中で何かが起こりそうな胸騒ぎがしている。
出来たらもう何も起こらないで欲しいのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます