第43話 幸せへの第一歩
「ギルテット王子、国王陛下がお呼びでございます」
バティス兄様と解散しギルテット様の自室でシュタイナーと共に紅茶を飲んでいた時の事だった。侍従の1人が静かに部屋へと現れギルテット様を呼ぶ。
「わかりました。すぐに伺います」
ギルテット様は侍従に案内され、そのまま部屋を後にする。何だろうか。王家の話なのかそれとも別の話なのか。
「シュタイナーさん、何かあったんですかね?」
「さあ……王子の個人的な話なのか、それとも王家が一堂に会しての話なのかまではわかんないっすね」
沈黙が流れる部屋。それからギルテット様が部屋に戻って来たのは体感で30分くらいだった。部屋に戻ったギルテット様は少しだけ口角をつりあげて嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「ギルテット様。何を話されたんですか?」
「ああ、あなたとの結婚及び婚約の許可が下りたのですよ。婚約自体はまだですけどね」
「えっ」
ギルテット様との再婚の許可が国王陛下から下りた。これは間違いなく重要な第一歩になる。私は聞いただけで全身から嬉しさが湯水のように湧いて出て来るのを感じた。
「あ、ありがとうございます! 嬉しいです……!」
「ええ、俺も嬉しいです。まだまだですけど、ようやく新たな一歩を踏み出せたわけですから」
「おおーーっ! 良かったですねえ。今夜はご馳走食べないと」
「おっシュタイナーが用意してくれるんですか?」
「そりゃあ王子とシュネルさんの為なら用意しますよ! おめでたい日は豪華に祝わないとっすね!」
シュタイナーがぱちぱちと両手で拍手を送ってくれた。そしてギルテット様がそっと私を抱き寄せてハグをする。
彼の温かくて穏やかな優しい体温が私の全身を覆ってくれる。
(温かい……ギルテット様、私はあなたが好き。ずっと一緒にいたい……)
「ギルテット様。私はあなたが大好きです」
「シュネル。俺もです」
「ずっと一緒に暮らしましょう」
「ええ、デリアの町でね。皆と一緒に過ごしましょう」
「俺も加わっていいんですか?」
ちょっと遠慮気味にシュタイナーが口にする。勿論だ。これまでギルテット様に多大なる貢献をしてきて私もお世話になった彼もいてこそな部分もある。
「シュタイナー、もちろんです。あなたも大事な仲間ですから」
「……ありがとうございます。騎士冥利に尽きますね。ま、俺は汚れ仕事もやる騎士っすけど」
「あなたがいないと俺は今生きていなかったかもしれませんからね」
「そっすね。まあ勿論死ぬまであなた方をお支えする所存です」
それから次の日。私はギルテット様とシュタイナーと共に改めて国王陛下の元へと謁見する事となった。国王陛下と王妃様が鎮座する王の間にて、ドレスアップした私は国王陛下の声を待つ。
「シュネル・グレゴリアス。前へ」
「はい」
数歩、前へとゆっくりと進み、ドレスの両裾を持ってひざまずく。たったそれだけの事なのだがやっぱり相手は国王陛下と王妃様という事だけあって緊張する。バティス兄様もこんな緊張が走ってたんだろうか。
「此度は大変な苦労をしたと聞いた。そして貴族令嬢でありながら看護婦としてデリアの町で献身的に働いているとも聞いている。そなたならギルテットの妻にふさわしいだろう」
「あ、ありがとうございます……! もったいなきお言葉でございます!」
「そなたについてだが、まず婚約するにあたってルナリア公爵家の養女になってもらう」
国王陛下の言葉に私はえっ。と思わず声を漏らした。だってルナリア公爵家はこのアルテマ王国一の貴族だ。そんな場所へ私は養女に行くというのか。
「ルナリア公爵家からは既に許可は得ている。養女としての手続きが終われば婚約だ。それでも良いか?」
「は、はい……!」
「よい返事だ。ギルテットも異論は無いか?」
「いえ、ありません。父上」
「では決まりだな。今からですまないがルナリア公爵家へと向かってほしい。ルナリア公爵家はそなた達と話がしたいと言っているのでな。では下がれ」
「はい!」
王の間を出て扉が固く閉ざされた時だった。
「本当にいくんすか?……」
シュタイナーの不安そうな声が廊下にしんと響き渡る。おおよそ彼らしくない弱い声音だ。
「シュタイナー、父上の命礼ですから観念してください」
「はあ……覚悟決めましたよこっちは」
「……シュタイナーさん、何かあったのですか?」
「ああ、まあ訳ありとだけ言っておきます。王子にもそのように話してるんで。何かについてはお察しください」
……彼にも嫌な出来事くらいある。これ以上は聞かないでおこう。
私達は宮廷から馬車に乗りルナリア公爵家へと移動した。
やはり公爵家。グレゴリアスの屋敷やアイリクスの屋敷の倍の大きさはある。茶色い外装に塔が4つある巨大で豪華な屋敷だ。
馬車から降りるとすぐに玄関の扉が開かれルナリア公爵家の執事からようこそおいでてくださいました。と声をかけられた。
「あの、公爵家の方達は?」
と、ギルテット様が執事に声をかけた時だった。
すみませーーん! と叫びながら紺色のドレスを身にまとった令嬢がこちらへとドタドタと走ってくる。
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