第51話 幸せとは

 デリアの町でも町唯一の教会にて結婚式を挙げた後、私達は結婚式の服装のまま誰もいない砂浜に座り静かに海を見つめている。


「シュネル」

「ギルテット様……」

「幸せとはなんでしょうね」

「……」


 幸せとは何だろうか。確かに私の妹ジュリエッタは父親から溺愛されなんでも与えられて育った。反対に私とバティス兄様は縛り付けられてきて育った。贅沢なんて事も無く、機嫌を損ねたら折檻を受ける。本当的な対照的な育ち方をした。そしてバティス兄様は毒舌っぽいのは変わらないけど立派な子爵家当主になったのに対してジュリエッタは私を殺そうとしてモンクスフードを盗み刑務所に行った。

 そういえばジュリエッタは動機をこのように語っていた。


「だってお姉様がいてそのままギルテット様と婚約したら私が幸せにならないじゃない。本当はバティス兄様も殺したかった。私はあの別荘にはいたけどいずれ私の居場所も全部無くなってしまうかもしれない。あなたもそう思わない?」


 幸せとは何だろうか。自分の思い通りに事が進む事なのだろうか? 自分の欲しいものが全て手に入る事だろうか?


「わかりません……私には」

「俺は……俺個人としては自分の居場所があるって事なのかもって思うんです」

「自分の居場所……」

「もうひとつは……安心できるもの、でしょうか」


 グレゴリアス家にもアイリクス家にも自分の居場所は無いも同然だった。おまけにグレゴリアス家では離れにいた時期もあった。

 そして、安心……私が明確に安心を得られたのはこの町に来てからな気がする。


(ああ、だから……)


 ……ソアリス様は私に安心を求めていたのかもしれないしジュリエッタは居場所を取られたくない。父親から愛され欲しいものは大方手に入っても安心は出来てなかった。だからより欲するようになっていった……か。

 そこは本人じゃないからわからないけど……。


「確かに、そうでしょうね」

「シュネル……」

「ギルテット様。私はこの町に来て安心も居場所もようやく手に入れられました。あなたがたのおかげです」


 私はそう言ってギルテット様の両手をそっと取り、握る。


「シュネル」


 ギルテット様が穏やかに微笑みながら私の名前を呼んだので私も微笑み返すと、彼の唇がそっと私の唇へと重なった。

 柔らかくて温かい彼の温度が私の身体へと伝わり嬉しさが増しつつも心がすっとまるで眠りに入るかのように落ち着いていく。

 涼やかな海風が私の身体を撫でるように吹き、穏やかな波が静かに寄せては返していた。

 

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