第25話 王女シャミリー

「私もご同行いたします」

「シェリーさん?」

「シャミリー王女がどのような方か、この目で直接確認したいと思いまして」

「なるほど。あなたならそう言うと思いました。バティスとシュタイナーはどうされますか?」

「俺は勿論同行しますよ。当り前じゃないっすか」

「僕も同行します。ギルテット王子」

「では、決まりですね。皆さんが来てくれるなら俺はとてもありがたいです」


 そして私達は王都へと向かった。早朝デリアの町を出て馬で移動し、王都にあるあの宮廷へと入った。また宮廷に入る事になるなんて思わなかったけど、やっぱりいつ来ても良い所なのは変わらない。

 宮廷に通された私達は大広間で待つようにと侍従から促された時だった。


「王女がこちらへとやってまいりました!」


 門番役の兵士が侍従へとそう急いで伝えにやって来たのを目にする。


「王女はギルテット王子とお会いしたいそうです! どうされますか?」

「わかった。聞いてみよう」


 しかし侍従と門番役の兵士の会話はこちらからは筒抜け状態である。侍従が聞くよりも前にギルテット様の口がぱっと開いた。


「手短に。とお伝えください」

「はっ分かりました」


 門番役の兵士と侍従は会釈をして大広間を走って後にしていく。そして数分ほどして私達へと侍従3名が駆け寄ってきて案内すると言ってきた。

 彼らが私を案内するのは王族達が私的なお茶会をするのに使われる広間で、そこには複数のソファに椅子、テーブルに沢山の白い花瓶に生けられた花が設置されていた。


「どうぞお座りください」


 ソファに座って待っているといきなり白に様々な色の刺繍が施された赤髪の高貴そうな女性がばっと飛び出すようにして入って来た。そしてギルテット様の手を取り、手の甲にキスをする。

 あまりの勢いと速さに私は思わずえっと口を開けたままのリアクションになってしまう。


「お会いできて光栄ですわ。私がシャミリーと申します。私の未来の夫となるべきお方がここまで美しいお方だなんて光栄ですわぁ!」


 これがシャミリー王女か。うん、ジュリエッタみたいな女性だ。

 だが体型はジュリエッタとは違う。四肢は普通だけどお腹が少し出ているような……私の気のせいかもしれないけど。


「その話についてですが。お断りしに来ました」


 ギルテット様は両手をシャミリー王女から振り払うと。そのまま済ました笑顔を浮かべながらそう言い放った。


「ふふっ、それは私を知らないから言える事ですわ。こちら、お読みになって?」


 シャミリー王女が手紙をギルテット様にそっと手渡した。そこらへんはさすがは王女と言うべき品性ではある。


「どれどれ……」

「お父様からのお手紙ですわ」


 ギルテット様は手紙の上端を指で破りながら封を開けて中身を取り出した。


「ほう、シャミリーと結婚してほしい。ですか」

「ええ、そうよ!」

「お断りします」


 ギルテット様は笑顔で手紙をビリビリと破り捨てた。その姿に私達もシャミリー王女も口をポカンと開ける。


(えっ?! 破った!)

「では失礼します」


 ギルテット様はそのままソファから立ち上がると、そのまま早歩きで広間を後にする。私は動揺しながらも彼を追いかけていく。


「ギルテット様!」

 

 私だけでなくシュタイナーとバティス兄様も慌てて追いかけてきた。その後ろにドレスの裾を持ちとことことシャミリー王女が追いかけてくる。


「ギルテット様! ちょ、ちょっと待ってくださいませ!」

「待ちません。あなたとは結婚しませんから」

「そんな! お待ちになって……!」

「シュタイナー、部屋に避難する。王女は部屋に入れないでください」

「了解でーーす」


 そして最後は走りながらギルテット様の自室に避難し、シュタイナーが茶色く大きな部屋の扉を厳重に閉めた。


「ギルテット様! 開けてください!」


 シャミリー王女が扉をどんどんと叩く音がする。10分くらい経過して音は止まった。


「はあ……しつこい人だ」


 ギルテット様はため息を吐く。そしてやれやれとでも言いたいように肩をすくめた。


「ギルテット様……まさか手紙を破り捨てるだなんてびっくりしました」

「あれくらいしないと聞かないだろうと思いましてね。しかし俺は彼女とお会いしておいて良かったですよ」


 ギルテット様はにやりと悪巧みでもするかのような笑みを見せる。

 ギルテット様がシャミリー王女と会って良かった理由?

 

(……まさか)


 私の脳裏にシャミリー王女の姿がよぎる。

 確かに彼女は……お腹が少し出ていたような気が。


「ギルテット様、まさか……」

「シェリーさんも気が付きましたか? 彼女の腹部に。あれは妊娠していますね。ドレスのシルエットや彼女の身体つきに走り方は明らかにシェリーさんと比べると不自然でしたから」


 確かに走り方は少し慎重で、ゆっくりとしていたような。

 ヒールを履いていてももう少し早く移動できるはずだが。


「あの王は俺に厄介なのを押し付けようとしているのかもしくは知らないのか知りませんが……どこの誰かもわからない男の子を孕んでいる女と結婚する訳にはいきませんよね」

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