第38話 遺体の引き取り
父親が死んだ。手紙には死因は書かれていない。しかし父親……グレゴリアス子爵は死んだのだ。
もしかして動きがあると言う神父の占いの結果はこの事を指していたのだろうか? いや、これ以外にも何かあると言うのだろうか?
「遺体の引き取りとかやだね……ジュリエッタに任せときたいぜ」
「バティス兄様……確かにそうですよね」
「あのサナトリウムに行くだけでも時間かかるってのに。はあ……てか僕グレゴリアス子爵になるのか」
そうだ。父親が死んだという事はバティス兄様が新たにグレゴリアス子爵になる事も意味している。肝心の彼は頭を書きながら困った表情を浮かべていたが、ここでギルテット様がぱんぱんと手を叩く。
「とりあえずまずはサナトリウムに行きましょう。先にあちらが遺体を引き取っていたらそれでいいじゃないですかね? 悪用されたら困りますけど」
ジュリエッタが父親の遺体を悪用するのはうん、十分ありうる話だ。バティス兄様が後を継ぐのは嫌がってるだろうしそれなら遺体を引き取り死を偽装するなんて事も考えられる。
まあそんな大それた事をジュリエッタが出来るかどうかは微妙だが、決行されるよりかは早めにこちらが引き取って葬式を挙げた方が良いだろう。本当はあんな父親の遺体を引き取るだなんて心底嫌だけど。
「そうですねギルテット様。行きましょう」
「……シュネル本気か?」
「バティス兄様、私だってあのクソ父親の遺体を引き取るだなんて嫌ですよ。でもジュリエッタが悪用したら困るじゃないですか。死をごまかすとかなんてされたら面倒ですし」
「あーーそうか。その可能性が……あったな。畜生、行かなきゃいけねえか。よし。行こう!」
診察終了後。私達は急いで荷物をまとめて町の出入り口の近くに最近移転したばかりの馬小屋へと向かい、馬に乗ってサナトリウムへと移動を始めた。暗くなるのでコンパスやランタンなども必須だ。
休憩を何度か繰り返しそこで軽く食事もとり、眠くなる目をこすりながらもサナトリウムへと馬を走らせ、そしてようやく到着した。
「すみません、バティス・グレゴリアスです。父親の遺体を引き取りに来ました」
そうバティス兄様がサナトリウムにいた門番の1人に告げると、門番はお待ちしておりました。どうぞお入りくださいと言って私達をサナトリウムの中へと入れてくれた。
「失礼します……」
サナトリウムの1階は静かだが、程なくして上の階からぎゃあああああ! と叫び声が聞こえてきた。なので一瞬だけ肩を震わせて驚いてしまう。
「バティス様ですか? お待ちしておりました」
向かって左側の部屋からメイドとよく似た服装をした看護婦と思わしき40代くらいの華奢な女性が現れた。立ち居振る舞いは貴族の令嬢、それも高位の者のそれだ。
「はい。バティス・グレゴリアスです。父親の遺体を引き取りにまいりました」
「こちらへお入りください。ご遺体は既に各部位を縫い合わせて、持ち運び用の袋へと入れさせていただいております」
縫い合わせ? なんか不穏なワードが聞こえてきたのは気のせいか?
私達は看護婦に連れられ部屋の中へと入る。そのど真ん中に父親の遺体が緑色の袋に入れられて置かれていた。覗き込んでみると顔自体は傷はなく綺麗だが、身体のあちこちにつぎはぎのように縫い合わせた個所がある。しかも袋は上半身、へそのあたりから下はふさがっていて見えない。
「あの、どうしてこうなったので……?」
「崖から転落したようです。飛び降りたのか足を踏み外したのかはわかりません。気が付けば部屋はもぬけの殻となっていまして窓から下を見るとこのように……」
「え……」
「あの、下半身は?」
「今も見つかっていません」
下半身は見つからなかったのか。よほど損壊状態が悪かったのだろう。
「今下半身部分は探している最中です。しかしながらここに上半身部分をずっと置いておくわけにもいかないので先に引き取ってほしいと思いまして」
「そうでしたか」
「ここには遺体を長期間保存しておく設備はございませんから。申し訳ありませんけども一旦この上半身だけでもお引き取り頂けたらと存じます。下半身が見つかりましたらまたご連絡差し上げますので……」
そう言われたら仕方がない。他の3人も納得した表情を浮かべた。
「ありがとうございました。では引き取らさせて頂きます」
「バティス様、台車使いますか?」
「お願いします」
サナトリウムの入口までは父親の遺体を台車に乗せて移動し、その後は馬の背中に厳重に括り付けて王都への移動を開始しようとした時だった。
目の前に馬車がやって来て急停止する。そして馬車の中から派手な紅いドレスを身にまとい扇子をパタパタさせながらジュリエッタが現れる。
「な、バティス兄様と……お姉様?! まさかお父様の遺体を引き取りに来たの?!」
「そうだよ、何か文句あるか?」
「大ありよ! バティス兄様に遺体を渡せば何するかわからないもの!」
「バティスは跡継ぎですよ?」
ギルテット様が怒りを隠した笑みでジュリエッタへと近づいた。
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