第27話 ジュリエッタ視点③
午前。朝食を食べ終えて私が屋敷の自室にて紅茶を飲んでいる時だった。
「何?」
外ががやがやと騒がしい。すると玄関の方からどたどたという足音が聞こえてきた。何かしら、誰かお客様でも来たのかしら?
「お嬢様!」
メイドが部屋の扉をノックもしないで開けて来るのでちょっと苛立ちながらも何があったの? と聞いてみた。
「警察です。旦那様が逮捕されるようで……!」
「は? なんで?」
「メイド達に鞭で叩いていたからとか……!」
訳が分からない。メイドを鞭で叩いた程度で逮捕されるものなの?!
「ちょっと行ってくる!」
とりあえずお父様は今書斎にいたわね。ドレスの裾を掴み書斎まで走る。すると警察の人達がすでに書斎へと大勢詰めかけているではないか。
「ちょっと! お父様に何する気?!」
「ジュリエッタ様ですね。お父様を逮捕します」
警察の1人が私へと振り返ると冷たくそう告げた。お父様はどうなっているのか。警察達により形成された肉壁のせいで見えない。だがお父様のもがくようなうなり声は聞こえて来る。
ああ、やめてちょうだい! お父様になんて事するのよ!!
「なんでいきなり?! お父様は何をしたのよ!」
「メイドへの虐待の罪です」
「はあ? そんな事して無いわよ!」
ここで肉壁が少し崩れたのでお父様がどうなっているかを見る事が出来た。お父様は警察の人達により馬乗りの状態で取り押さえられている。そして両手に縄が縛られている所だった。
「ちょっとやめなさい!」
お父様の両手を縄で縛られるのを阻止しようと飛び出したが、警察達に阻止される。なんで邪魔するのよ!
「ジュリエッタ様は危ないので下がってください!」
「嫌よ! お父様にひどい事しないで!」
「ひどい事していたのはあなたのお父様でしょう?」
警察の人達はそう言って私を力を籠めて取り押さえにかかって来た。私は書斎から逃げ出すが結局廊下で捕まってしまう。
「離してよ! 離して!」
「お父様の連行が終わりましたら離します。それまでどうか我慢してください」
「な、なんで……」
お父様が書斎から出てきた。両手両足を縛られたお父様が警察達に抱えられるようにして出て来る。しかも口には麻布が巻かれていた。
「お父様! お父様!!」
「んーー!! んーー!!」
「お父様あああああああああああああああああああ!!!!!!!」
お父様はこうして逮捕されたのだった。
それから私は事情聴取の為、警察署へと連行される事になった。お父様が連行されたら離してくれると言ったのにあれは嘘だったのね。許せない。
事情聴取に使われる部屋は小さな個室だった。灰色の床も壁も全てコンクリートによるもの。冷たい空気が流れている。家具は木造りの椅子と机があるだけで、そこに珍しい女性の警察の人が私と向かい合うようにして座る。
「この屋敷のメイドがこちらへと通報してきて事件が発覚しました」
「え?」
メイドがこの警察署まで逃げ出したって言うの? 信じられない。
「あなたはお父様について何か知ってますか? 嘘はなしでお願いします。勿論あなたが話す事はしっかり記録していきますのでよろしくお願いします」
彼女の手にはメモ用紙とペンが握られている。……これ、私話す内容によっては逮捕されるかもしれない。そう勘が訴えてきている気がする。
「父親は……おかしくなったんです」
「おかしくなった。精神的なものでしょうか?」
「はい。グレゴリアスの悪魔。あなたも知ってるでしょ?」
「ええ、知っています。やはり精神をおかしくされたのは本当だったんですね。病院へは通わなかったんでしょうか?」
「貴族があのような病院に通うとでもお思いですか? お父様を説得するというのは死ぬ事と同じですわ」
「確かにそうでしょうね」
すらすらと警察の女性はペンを走らせていく。なるほど。ここに私が話した事すべてが書かれていくのね。
その後もいつ頃メイドへ虐待が行われたとか聞かれたが、その辺は知らない。と答えた。だって詳細な時期なんて覚えてないのだもの。
「最後にお聞きしますがグレゴリアス子爵はあなたへは虐待はしていなかったのですか?」
「ええ、可愛がってくれました」
「うそではありませんか?」
「勿論。真実ですわ」
これで事情聴取は終わった。さあ帰ろうという時に彼女が1つお話があると言ってきた。
「保釈金はどなたが支払いますか?」
「え」
「貴族ですから、保釈金さえ支払ってくれたら釈放できますけど」
ああ、そうだ。うちは貴族だから保釈金さえ納付すれば一旦は釈放されるんだっけ。
でも高額なんでしょ? 私からは出したくないわ。バティス兄様から出してもらわないと。と思ったけど……バティス兄様は今デリアの町にいるんだっけ。すぐには支払ってくれなさそうね……。
「わかりました。納付します」
「了解しました。では手続きに入らさせて頂きます」
こうして私はお父様を助ける為に、高額な保釈金を納付した。これだけの出費今までいろいろなものを買ってきたけど一番高い出費なんじゃないかしら。これは痛いわ。
だけどお父様は屋敷に戻らなかった。お父様はそのままサナトリウムへと移送される事が決まった。
「ちょっと! 話と違うじゃない! 保釈したら屋敷に戻れるんじゃないの?」
「だめです。何するか分かりませんからね。それに拘置所や刑務所から今後裁判で罪が確定し服役する事が決まってもうちでは対処できないのでサナトリウムへと入れるようにという声が届いております」
「はあ?!」
「それとサナトリウムには生活用品が全てあるという訳ではないので……どなたかによる支援が必要となります」
うそでしょ。そんな事ってある?!
だが警察の人からはもうこれは決まった事ですから……。と言われた。何度ごねても変わらない。それなら受け入れるより他ない。
しかしながら私がお父様の面倒をあれこれ見るなんて無理よ! もしかしてサナトリウムまで行かなくちゃいけないの? それは困るわ! 行きたくないわよ!
そんな最悪な状態の中、私はバティス兄様と再会した。彼もまた警察から事情聴取の為にわざわざ王都まで戻って来たそうだ。
「あらぁバティス兄様お久しぶり」
「ふん、ジュリエッタせっかくの美貌が目のクマで台無しだな」
「相変わらず口が悪いのね。サッサと言うけどお父様の支援よろしくお願いするわね」
「断る。ジュリエッタが全部しろ。僕は絶対やんない」
何よ。酷いわ。
「お願いよ! うちにはお金がないんだもの!」
「知るかよ! お前が浪費するからじゃねえの?!」
何度も泣きついたがバティス兄様は支援しないの一点張りだった。
……もしかして、爵位を継ぐ為にお父様の命を狙ってるんじゃないかしら? もしもお父様が死ねばグレゴリアス子爵家を継ぐのはバティス兄様だ。バティス兄様はもしかしてお父様に支援をせずサナトリウムで死なせる気なんじゃ?
「ねえ、バティス兄様」
「なんだよ。泣きついたって無駄だぞ」
「あなた、もしかして爵位を継ぐ為にお父様の命を狙ってるんじゃなくて?」
「はあ?! バカじゃねえの?! お前も気が触れてしまったのか?」
「だって支援してくれないんでしょ? だったらそう思うじゃない!」
「お前がいるんだから僕が支援する必要が無いだけだよ。お前が僕に押し付ける気満々なのはわかってるよ」
結局バティス兄様はお父様への支援はしないと言って私の元から消えたのだった。
ソアリス様にも頼み込もうとしたけど相手してくれない。
そして屋敷には私だけだ。メイドはほぼ全員が退職していった。
寂しい。どうしてこうなったの?
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