第10話 週末はジェシカ来襲


 翌日の図書オリは、五分という訳ではなく、午前中の一限目を利用してしっかりと説明が有った。


 日本語の語学力が弱い俺にとっては魅力的な所だ。ラノベも置いてあると言っていたので、レイラと今度利用しようという事にした。


 今日から授業も始まった。ほとんどが科目担当の先生の自己紹介で終わったけど。放課後になり、レイラに

「なあ、図書室に行ってみないか?」

「今日?」

「ああ、どんな感じか今日のビデオでは何となく分かっただけだからな」

「分かったわ。ところで明日香。来週の月曜日は模試があるわよ。準備しないと」

「モシ?」


「模擬試験の事」

「プラクティス?」

「そう、自分の実力が全国とか東京都内でどの位置にあるか確認する為よ」

「そんな重要な試験なのか。一生懸命しないといけないな」

「そうよ。だから図書室は来週火曜日以降でも良いと思うのだけど」

「分かった。レイラの言う通りだな」


 そんな訳で私と明日香は、明日香の家に行って勉強しようと思ったのだけど、対象範囲が分からない。


 何と言っても高校の授業はこれからだ。対象にはならないだろう。多分中学生レベルの学力確認と行った所かな。


「明日香、高校受験の時に使った問題集とかある?」

「まだ残っているけど」

「じゃあ、それ使いましょうか」


 今日は木曜日だから日曜日まで時間有る。明日香の学力の伸びは中学終わり辺りから急に伸びて来た。多分問題ないと思うのだけど。



 次の日金曜日の放課後も明日香の家に行って勉強した。明日香の記憶力が凄いのか、ほとんどが満点に近かった。やっぱりDNAかな?


 これならと思い、勉強は土曜日だけにして日曜日は遊ぶことにした。


 土曜日、約束の午前十時に行ってインターフォンを鳴らすと直ぐに明日香が出て来た。

「上がってくれ」

「うん」


 もう慣れてしまっている。七年間も来ているんだから。家に上がってから私が飲みものを用意してリビングに持って行くと明日香は問題集の続きの部分を広げていた。


 明日香の記憶力は凄くて、ほとんどの問題は間違いなく解いている。その内私が教えて貰う事になりそうだ。


 午前十一時位になってインターフォンが鳴った。

「だれだ?」

「宅急便じゃないの?」

「両親からは聞いていない」


 また、鳴らされた。

「とにかく出たら」

「そうだな」



 俺は玄関に行き、インターフォンに付いているカメラで見ると、えっ!ジェシカ。何で来たんだ?玄関のドアを開けると

『アスカ、来たよ』

『来たよって。約束していたっけ?』

『していないよ。でも別に良いじゃない。上がらせて』


 俺が良いという前に脇を抜けてスルッと上がってしまった。

『へーっ、やっぱりマンションと違うなぁ。広い』

『ジェシカ、今勉強中なんだ。だから後に出来ないか?』

『勉強?何の勉強しているの?』

『プラクティスイグザムの準備』

『なにそれ?』


「明日香、どうしたの?」

 リビングからレイラが出て来てしまった。


『えっ?あんた何でここに居るのよ』

『今、レイラに教えて貰っている』


「明日香、何言っているの?」

「ジェシカがいきなり来たんで勉強中だから後から来てくれと言っていた」

「うん、勉強先だよね」


『アスカ、何言っているの?』

『今。勉強中だから後にした方が良いってレイラも言っている』

『勉強を後にして私に街を案内してしてよ』

『駄目だ。勉強が先だ。とにかく今は帰ってくれ』

『やーだ。じゃあ、邪魔しないから傍に居させて』


「明日香何言っているの?」

「邪魔しないから俺の傍に居させてと言っている」

「そんな事出来るの?何かと話しかけてくるよね」


 俺とレイラが話をしている内にリビングの方に行ってしまった。

『おい、ジェシカ!』

『へーっ。これが日本の問題か。全然読めないや。ねえアスカ。教えて』

『ジェシカ。いい加減に帰らないと怒るぞ』


 ジェシカは俺をジッと見た後、

『アスカの意地悪。じゃあ、夕方は?』

『とにかく今日は駄目だ』

『ちぇっ、仕方ないなぁ。明日また来るね』


 明日香が玄関のドアを開けてサッと帰ってしまった。


「なんか、嵐の様に来て帰って行ったね」

「ああ、ジェシカは昔からあんな感じなんだ。お父さんとお兄さんに可愛がられて甘やかされたから」

「そうなんだ。それより勉強途中だよ。午前中分早く終わらそ」

「うん」



 午前十二時を過ぎた所で

「大分復習したけど、明日香ほとんど間違わなかったね」

「ああ、一度やった問題だからな」

「それでも凄いよ」

「レイラだって同じじゃないか」

「それはそうだけど」


 前はこんなに出来なかった。でも日本語の吸収力の凄さが勉強にも反映しているのかも知れない。本当にもう私が必要なくなる時が来そうだな…。


「どうしたレイラ。寂しそうな顔をして」

「ううん、何でもない。お昼作るね」

「おう」



 明日香の家の事はよく知っている。キッチンや他の部屋とかの物理的な事だけじゃなくて明日香のご両親の事も。


 勉強を朝早くから夜遅くまで毎日やった時は朝食も昼食も夕食もご馳走になってお父さんが車で私の家まで送ってくれた。


 だから私の両親も明日香の両親の事は知っている。でも今の明日香の実力なら高校の勉強もほとんど自分で理解して行くだろう。

 その時は……。仕方ないか。


「レイラ、俺も手伝うよ。…レイラ?泣いているの?」

「ううん、何でもない。玉ねぎ切っていたら目に染みって」

「そ、そうか」

 玉ねぎはもう切り終わっている。なんで涙流していたんだ。何か寂しい事でもあるのかな。


 レイラの昼食が出来上がるとテーブルに運んだ。彼女の作るスコットランド料理を日本風にアレンジした料理はとても美味しい。日本の料理を少しずつ馴染めたのも彼女のおかげだ。


「レイラ、一段と腕をあげたな。日本版ハギスは両親も驚いてるよ」

「あのオリジナルはちょっと無理だけど、中に入れる詰め物を日本風にすればとても美味しくなる」

「ああ、とても嬉しいよ」



 食べている途中だけど、さっきの事が気になって

「レイラ、何か悩み事でもあるのか。もしあるなら俺で良ければ相談に乗るよ」

「ううん、何でもない」

「レイラ、ジェシカの事なら気にしなくていいぞ。あいつは我儘だけど素直で良い子だ。日本に来て友達もいないから来たんだろう。学校に行き始めれば友達も出来るさ」

 

 あたしは彼女の事は気にしていなかったけど

「学校?何処の?」

「インターナショナルスクール。それと日本語学校。一年間そこで勉強して俺達の学校に転入するとか言っていた。彼女は頭いいけど、そんなに簡単じゃないと思っているけど」

「それは凄いね。一年間で高校二年から転入してきたら天才だね」

「俺もそう思うよ。それより午後からどうしようか。もう試験の準備は良いだろう」

「そうだね。食べ終わってから考えようか」

「うん」


 私が思っている事なんて明日香には言えない。彼はずっと一緒に居てくれるなんて言ってくれているけど、先の事なんて分からない。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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