第21話 明日香が居ない間


 明日香がエディンバラに行ってから二日が経った。まだたったの二日なのに、こんなに長く居ない気持ちになるなんて。


 この気持ちが、あまりにも長く毎日一緒に居た事から来る寂しさなのか、それとも…。私は明日香が好きなの?友達としてじゃなくて異性として?


 でも彼を異性として見た事があるのだろうか。二人だけでどちらかの部屋にいても異性として意識した事はない。


 そうでなければあれだけの時間を二人だけで過ごすなんて無理だ。勿論彼だって同じ気持ちだったはず。私を異性として見ていたら…。


 分からない。全く分からない。そもそも愛って何?友達の好きとどこが違うの?ただ一緒に居たい。ずっと一緒に居たから、居ない不安感が分からなかった。この気持ちはどっちなの?



 分からないまま、更に二日が経った。でもまだまだ帰って来ない。気晴らしに一人で映画を見たり、買い物に行っても、詰まらない。

 明日香と一緒に見たから、彼と一緒に買い物したから楽しかった。


 本当はこんな気持ちを相談できる女の子の友達でも居ればいいのだけど…。いつも彼と一緒だった。だから女の子の友達も男の友達も明日香を除いては出来なかった。


 どうすればいいんだろう。自分自身では全く解決できない。




 その頃エディンバラでは、


『アスカ。遊びに行こうよ』

『ジェシカ。後にしろ。俺はお爺ちゃんとお婆ちゃんに会いに来たんだ。ご先祖のお墓参りだってしないといけない。もう八年もしていないんだ』

『じゃあ、それ終わったらいいの?』


『お父さんや、お母さんの都合に合わせるから俺個人の思いじゃ動けない』

『ふーん、分かった。じゃあ、私が明日香のご両親に言うから』

『何て?』

『アスカを私のステディな人にして下さいって』

『そんな事言っても何も言ってくれないよ』

『なんで?私はアスカの恋人になるんだよ。良いじゃない決まっている事なんだから』


 やっぱりこうなったか。日本では我慢していた我儘が、こっちに戻って来て爆発したってところだな。


 実際、俺が日本に行かなかったら、ジェシカとはそうなっていた可能性もあるが、もう俺の心の中はレイラしかいない。


 彼女が俺の事をどう思っているか不安はあるが、花火の時、彼女は俺が居ないと寂しいと言ってくれた。だから少しは俺の方を向いていてくれているはず。


 今の気持ちがあるうちにはっきり言った方が良いだろう。でももしそうでなかったとしたら。


 やっぱり、聞くのは怖い。もし恋人になってくれなんて言って、友達までよなんて言われたら、俺は立ち直れない。


『アスカ、何考えているの?あーっ、もしかして?!嫌だよ。アスカは私のアスカなの』


『玄関が五月蠅いと思ったら二人だったのね。アスカお部屋に入る?』

『いえ、これから両親と行く所があるので』

『そう、それは残念ね。またお話しましょう』

『はい』


『アスカ、だから用事終わった後で』

『ジェシカ。無理を言わないの。そんな事言っているとアスカに嫌われるわよ』

『えっ!そんな事無いよねアスカ』

『ジェシカのお母さんの言う通りだ。無理を強引に通そうとするのは良くない』

『えーっ!アスカのばか!』


 家の中に入って行ってしまった。

『アスカ、ごめんなさいね。でもジェシカの気持ちも分かってあげて』

『ええ、それは分かるのですけど』


 こんな感じでジェシカの我儘は続いたけど、なんとか家の用事を盾に断った。


 本当は早く日本に帰りたい。そしてレイラと会いたい。彼女が傍に居ないとどうしても気持ちが落着かない。


 良く分かった。やはり俺はレイラが居ないと駄目なんだ。彼女が傍に居てくれる事で俺の心は落ち着くんだ。


 やはりはっきり言うのが一番なのかな。でも断られたら。やっぱり出来ない。




 明日、明日香が返って来る。やっと帰ってくる。明日香からの連絡で空港に何時に着くかも聞いている。


 ずっと考えて出した私の結論は、アスカは私に必要な人。愛とか恋とかじゃなくてもいい。

 私は彼の傍にずっと居たい。一生彼の傍に居たい。それが愛とか恋とか言うなら勝手に言えばいい。でも私は彼の傍に居たい。




 私は朝早く空港到着ロビーで待っていた。もうすぐ彼の乗った飛行機が到着する。


 来た。BAだ。


 上手く着陸した。安心だ。


 それから四十分位してアスカが出て来た。ご両親と一緒だ。ジェシカは、あっ、後ろにいる。

 やっぱり。でも時期的にはこの位で帰って来ないといけない筈だから当たり前か。



 アスカは私を見つけると

「レイラ!」

「明日香!」


 明日香がいつもの様に思い切り抱き着いて来た。


「会いたかった。会いたかったよレイラ」

「私もよ。明日香」


 この感覚。明日香だ。普段しないけど今回は思い切り彼の背中まで腕を伸ばして抱き締めた。ジェシカの視線なんか気にしない。


 ふん、今のうちよ。絶対にあの女からアスカを取り戻して見せるから。



 明日香のお父さんは車を長期駐車場に止めてある。それを取りに行っている間、私達は空港の出口の傍で待った。

 明日香の家の車は大きなワゴン車なので、アンダーソン親子も一緒に乗れる。


「レイラ、お土産買ってきているから。帰ったら渡すよ」

「うん、楽しみにしている」


「レイラ、かえってきたよ。わたし」

 ジェシカが片言の日本語で言っている。


「ジェシカ、お帰りなさい」


 冗談で抱き締めてあげると

「おーっ、おっ、おっ」


「ジェシカなんて言っているの?」

「あ、あ…」


『アスカ、いきなり抱き着かれて驚いているって言って』

『あはは、分かった』



「レイラ、ジェシカがいきなり抱き着かれたので驚いているってさ」

「あっ、そうなんだ。じゃあ、あのおっおって言うのは、驚いていると言いたかったの?」

「そ、そのとおりだ」


「ふふっ、ジェシカも少し話せる様になったのね。じゃあ、これからは日本語で話そう。早く覚えるわよ」

「う、うん」


 くそっ、日本語なんでこんなに難しいんだ。



 明日香のお父さんのバンが出口の車留めに着いたので、皆で乗った。明日香が帰って来ると、あの緊迫感が無くなって安心感になっている。あの事話すのどうしようかな?


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る