第20話 明日香の帰国


 明日香には、私の両親の気持ちも話して今回はエディンバラに行かない事に決めた。

 彼はとてもショックだったようだけど、あまりにも突然すぎる話に彼の両親も無理を言うなと彼に言っていた。


 でも、その後に

「麗羅ちゃん、あなたさえ良ければ、正式に私達の両親に紹介するわ。アスカはその気持ちで居るのよ。分かってあげて」


 どう返事して良いか分からなかった。



 八月五日。明日香の両親が夏休みに入った当日から西伊豆にある海水浴場に、明日香の家族と私で行く事になった。


 これについては、私の両親も喜んでいてくれた。当日は明日香のお父さんの運転する大きな車で私の家まで迎えに来てくれた。


 そして私のお父さんが

「明日香君、今度は我が家の旅行に一緒に行こう」

「ありがとうございます。ぜひお願いします」


 そんな会話の中で明日香のご両親と私の両親が家の中で少し話をした後、出かけた。

 水着は勿論新調した。明日香の両親とは毎日の様に会っているが、流石に中学からの水着という訳には行かない。



 行った先は、入り江になった砂浜のある海水浴場で、宿泊先は海の近くにある立派なホテルだ。


 宿泊代の事を言ったら、

 麗羅ちゃんには明日香が言葉に表せないほどお世話になっているのよ。貰ったら私達に罰が当たるわとか言われて。素直に出して貰う事になった。


 一日目はオンシーズン故の渋滞に捕まってドライブ疲れも有ったので、明日香と二人で港の散歩。ご両親はホテルのラウンジで休憩となった。


 夕飯は展望レストランの指定テーブルで海の幸をこれでもかという程の料理を頂いた。



 二日目は、朝から皆で海水浴場へ。私も彼も水泳が出来ない。だから大きな浮輪を借りて私が中に入って、明日香が浮輪を引っ張るという光景だ。ご両親は砂浜のパラソルの下でのんびりしている。


 午後三時位に上がって、休んだ後、夜はホテルの一階海側に面している所で野外BBQ。一通りの準備はされているので火起こしとかはしなかったけど焼くのは私達。


 明日香が伊勢海老を丸焦げにしてお母さんから随分言われていた。どうも明日香は甲殻類が苦手なようだ。


 私とお父さんは、その光景に笑うだけだったけど。でも、どれもこれもとても美味しかった。


 お父さんはビールもほどほどにウィスキーを飲んでいる。結構強そうだ。お母さんはビールだけ。勿論明日香と私はジュースだけど。


 三日目は午前中、車で三十分位走って水族館に行った。結構色々な海の生き物が一杯見れた。

 午後はホテルに帰って、私達は海に、ご両親はホテルのラウンジでのんびりする様だ。



「お母さん、明日香と麗羅ちゃん。何時になったら恋人同士になるのかな?」

「あら、もうなっているじゃない」

「だけど、あの様子じゃ、キスも何もしてないんじゃないか」

「それは時間が勝手に解決してくれるわよ。まだ十六才よ。後二年もすれば色々気付くわよ」

「そんなものかな?」

「そんなものよ」



 明日香の両親からそんな話をされているとは知らずに、私達は浮輪を借りて水遊びを楽しんでいた。



 夜は、展望レストランでまたまた海の幸満載の料理を頂いた後、浜辺に行って四人だけど花火大会をした。


 浜辺に打ち寄せる波の音を聞きながら明日香としゃがんで花火をしている。顔も後数センチでくっ付きそうなくらいだ。


「レイラ」

「うん?」

「エディンバラに一週間戻ってくるけど…」

「なに?」

「何でもない。ただレイラが一緒に居ないのが寂しいなと思って」

「そうね。初めて明日香と会ってから一週間も離れているなんて初めてだものね。私も寂しいよ」

「そうか。良かった。レイラが同じ気持ちで」

「……………」


 いつもの私が戸惑う様な言葉じゃない。明日香が私に対して不安を口にした。どうして?明日香は私がこれほど傍に居たいという気持ちを分かってくれていないのだろうか。


 だからあれ程、いつも一生一緒に居ると言って…。それって私にアピールしていたの?


 えっ、えっ、えっ…。どう言う事?



 花火が終わってしまった。

「明日香、もう花火無くなっちゃったね。片付けて戻ろうか」

「レイラ…」

「うん?」


「戻ろうか」

「うん」



「やれやれ、先は長そうだな」

「そう見たいですね」



 次の日は、渋滞に巻き込まれない様に午前十時にチェックアウトするとそのまま東京に戻った。


 そして二日後に明日香はご両親と一緒にエディンバラに向かった。私は明日香達を見送った空港から戻って来ると自分の部屋に入った。


 今日から一週間。いや、実質九日間。彼とは会えない。何をするにしてもいつも明日香が私の隣にいた。まだ、夏休みは半月もある。何をしようかな?



 その夜、両親と夕食を食べていると

「どうしたの麗羅。魂が抜けた様になって」

「……………」

「やっぱり明日香君が居ないと駄目なのか?」

「……………」


「お母さん、これは結構重傷だな」

「ええ。でも麗羅、彼と初めて知り合ってから今まで一週間も離れていた事なんてないでしょう」

「お母さん、実質九日間!それに中学の時、一ヶ月明日香が帰国していた時が有った」

「あら、そうなの。でも麗羅。丁度いい時間かも知れないわよ。彼との間を見直す為に」

「見直すってどういう事よ!」

「勘違いしないで。明日香君と麗羅はいつもずっと一緒だったから、お互いの気持ちが分からなくなっていた。

 友達なのか恋人なのか。長くずっと一緒に居るとそれが当たり前になってしまって、大切な事を見失う事も有るのよ。

 だからそこをもう一度、自分の心に話しかけて見たら。私は明日香君をどう思っているのかって」

「お母さん……」


 確かに良い時間なのかも知れない。私の心をはっきりさせる為の…。でもそれでもし彼が好きだって分かったら、これからどうすればいいの。

 

 今迄の様な気持ちで会えるの。意識して返って駄目になってしまわないの?それは嫌だよ。


「麗羅、彼が戻ってきたら思い切って聞いてみたら。私の事どう思っているのかって。いつも一生ずっと一緒って言葉の意味は何って?」

「でも、それが最悪の結果だったら?」

「それは無いと思うわ。彼が不安なのは麗羅からどう思われているかなのよ」


 そういえば海で花火をしている時のあの時の言葉。確かにあれは彼の心の不安を表していた。


 帰るまで考えてみるか。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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