第19話 夏休み


 体育祭後のトラブルが有った後は、静かに過ごせた。一学期末考査も終り、結果は中間考査と変わらなかったけど、成績順位表に載っているという事は、俺の日本語力からすればまずまずだろう。


 ジェシカは土日の度にやって来る。当然レイラも居る訳で、俺とレイラとの間に割って入る事は簡単でないと察したジェシカは、不服?ながらもレイラと仲良くするようにしている。


 そして後一週間もすれば夏休みだ。ジェシカが


『夏休みは、エディンバラに帰る。全部じゃないけどお爺ちゃん、お婆ちゃんそれにお父さんもお兄さんとも大分会っていないから。ビデオ会話は出来るけどやっぱり違うからね』

『良いじゃないか』

『アスカは帰らないの?』

『俺は両親が日本にいるんだ。ここが実家さ』

『ふーん。そうなんだ』

 ジェシカがちょっとだけ寂しそうな顔をした。


「明日香なんて言っているの」

「ジェシカが夏休みはエディンバラに帰るんだって」

「そっか、ジェシカちゃんの家族は、お母さん以外は向こうに居るからね」

「そうだな」



 日本に来て四か月だけど、少しずつ断片だけど日本語が分かる様になった。本当はアスカの傍に居たいけど、エディンバラに残っている家族に会いたいのも本音だし。


 お母さんもこっちの生活は大変だと言っている。言葉の問題が一番大きい。来年四月までには私が一人で明日香の家で暮らしても大丈夫な様になれば、お母さんにもっと楽をさせてあげられる。



 それから一週間してジェシカは、お母さんと一緒にエディンバラに帰って行った。


「レイラ、夏休みは、また宿題を先に終わらせるんだろう」

「そうだよ。そっちのが、後々のんびりできるからね」

「そうだ。レイラ。うちの親も夏休みが取れるらしい。偶には俺の家族と一緒にどこか行かないか?」

「えっ?気持ちは嬉しいけど、悪いよ。親子水入らずで過ごしたら?」

「何を言っているんだ。レイラは俺の家族でもあるんだ。一緒が当たり前だ」

 明日香のいつもの言葉に戸惑ってしまう。彼は何処までの意味で言っているんだろう?


「お母さん達にはその話言っているの?」

「これから。いつ休めるかも聞いていないし、どこ行くかも話してない」

「なんだ。まだ白紙なんだ」

「でも今日話せばいいさ。明日は両親ともいるから」

「分かった。でも私も両親と話さないと」

「そうだな」



 明日香とはもう丸八年になる。ほとんど一緒に居る。中学の時、明日香のご両親の仕事で一ヶ月帰国した事を除けば、別々で過ごした日なんて数える位しかない。

 普通の家族より一緒に居る時間が長いかも知れない。



 次の日から私の家のリビングで夏休みの宿題を始めた。最初の半分はうちでやって、後の半分は明日香の家でやる事にしている。お昼は勿論私の手作り。



 夏休みに入って五日目。今日までが我が家で夏休みの宿題だ。午前中の分が終わってお昼になった時


「レイラ、両親が八月五日から二週間休みを取れるそうだ。だから三泊四日で海に行こうと言っている。どうかな?」

「うん。一応両親に確認するけど問題ないと思う。でも二週間の夏休みなんて凄いね」

「今年に入って結構忙しかったからな。それと…。一週間だけエディンバラに戻る事になった。お爺ちゃんとお婆ちゃんが俺に会いたいと言っている」


「えっ!帰るの?」

「帰ると言っても一週間だけだよ。もう年だし、元気なうちに会いたいって言われて」

「そうか、それじゃあ仕方ないね」


 明日香がエディンバラに戻る。一週間とはいえ、向こうにはジェシカちゃんがいる。何でこんな気持ちになるんだろう。ずっといつも一緒にいるからかな。


「レイラ。相談なんだけど…」

「なに?」

「エディンバラに一緒に行かないか。お爺ちゃんとお婆ちゃんに紹介したい。日本でこんなに素敵な人と巡り会えたよって」


「それって…?」

「言葉の通りだけど」


 意味の深さが汲み取れない。単に日本で私と会ってずっと一緒に居る人だって紹介するのか、それとも…。でも私が勝手に決められない。


「嬉しいけど、私、日本から出た事無いし。パスポートとか。後、両親が何というか?」

「今日にも相談してみてよ。行けるなら早くパスポート取らないと」

「いつ行くの?」

「旅行の後だから、八月十日頃かな」


「えっ、今から二週間後?ちょっと厳しいかも」

「何か有るのか?」

「だって、パスポート申請してチケット買って、それに洋服だって…」

「チケットはこっちで用意できるけど、洋服だって一緒に買いに行けばいいさ」

「うーん、ちょっと考えさせて。とにかく両親と相談する」



 私は、その日の夜に両親に相談した。

「麗羅がスコットランドに?明日香君の家族との国内旅行は構わないけど、流石になあ、母さん?」

「そうねえ、いきなりすぎるわね。明日香君の気持ちは分からないでもないけど」

「やっぱり、今回は断った方が良いだろう。もし行くとしても十分に準備をしてからで無いと行かせるのに不安しか残らない」

「分かった。明日香にそう伝える」


「でも、明日香君がそこまで麗羅の事思っているとはな」

「あら、私はそう思っていましたけど」

「二人共何の話?」

「もちろん、明日香君と麗羅の事さ。いずれ結婚するんだろう?」

「お父さん。私達、今年でやっと十六よ。何言っているの結婚なんて、まだ考えられる訳ないでしょう」


「麗羅、本当にそうなの?」

「だって、明日香が私の事どう考えているかなんて分からないし」

「あははっ、麗羅も結構そっちには疎いんだな」

「はっきり言われた事無いし」

「毎日言っている様に聞こえるが?」

「知らない!」


 明日香は本当に私の事そう思っているんだろうか。確かに彼はお爺ちゃん達に私を紹介する時、日本でこんなに素敵な人と巡り会えたよって言うって言っていたけど。


 それはあくまで友達としてであって、お父さん達が言っている様な意味じゃない気がする。


 明日香には、明日断るしかない。でも彼の行った先にジェシカが待っている。あの子はとても積極的。一週間の間に明日香との距離を一気に詰める可能性もある。


 …いつも彼の事をこんな風に思ってしまう。これは何?八年もずっと一緒に居たから他の人が彼の傍に来るのが嫌なだけ?



 小学校三年からずっと彼と一緒だった。だから皆が言っている恋とか愛とかとは無縁のまま今日まで来てしまった。


 一度だけ一か月間明日香と離れている時が有った。あれは中学三年の時。でもあの時は、まだ友達というか私が日本語の先生みたいだったからこんな風に強い気持ちは無かった。



 明日香は本当に私の事どう思っているんだろう。いつも一生一緒に居ると言っているあの言葉の意味って…。


 友達として、それとも…。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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